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金曜日、午前9時15分(ルーシェン編)
21 奥の扉
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一拍遅れて、一階から轟音が響いた。
……どうしよう。ルーシェンが落ちた。
人形は俺が持ったままだ。何でもっと早く渡さなかったんだ。
短時間の間に、目まぐるしく色々な考えが脳裏に浮かぶ。
ルーシェンは運動神経がいいから、きっと無事なはずだ。第一ルーシェンに何かあったら、この村の魔法も解けてなくなってる。
でも、それがルーシェンの思い込みだったら?ルーシェンが死んで、俺一人この村に残される事になったら?
『ルーシェン!!』
ゾンビの事も忘れて、階段まで走った。
らせん階段を駆け下りながら、最悪の事態を思い浮かべた。だから、一階に向かう階段の途中に立っているルーシェンを発見した時は、思わず泣いてしまう所だった。
『ルーシェン……!無事で良かったです。心配しました。怪我はないですか?』
ルーシェンに飛びつくと、王子は片手を俺の背中にまわした。
「大丈夫だ。腕が折れただけだ」
「ええ!?」
それのどこが大丈夫なんだよ!
「効き腕だから少し厄介だな。俺とした事が……」
そう言うルーシェンの額には汗がにじんでいて、かなり痛そうだった。
この村には当然医者もいないし薬もない。取り合えず俺の持っていたフライパンで腕を固定しようとしたが拒否された。
『一度村に戻りましょう』
医者はいないがケビンがいる。
もふもふの毛にもたれて眠れば、少しは痛みも和らぐ……かもしれない。
だけどルーシェンは首を振った。
「ドラゴンゾンビが再び襲ってくるまでに少し時間がある。今なら黒霊もいない。三階の扉をあけるチャンスだ。俺は三階に行く」
『無茶です』
「危険だからシュウヘイは戻っていてもいい。俺一人で平気だ」
無理矢理笑顔を作ってルーシェンは俺にそう告げる。痛いくせに……どこまでもプライドの高い王子様だ。
俺もルーシェンの背中に手をまわした。
『三階まで付き合います』
「シュウヘイ……」
『扉の中が危険なら、一緒に戻って休憩して作戦を練り直します。いいですね!?』
「ああ。分かった」
ルーシェンは腕が折れただけだと言ったけど、体中痛そうだった。
いくらドラゴンゾンビの上に乗っかっていたとはいえ、三階から落ちたんだもんな……。
ドラゴンゾンビは落ちた衝撃でバラバラになったらしいから、少しは復活するまで時間がかかるみたいだけど、それでも時間がない。
俺はルーシェンを支えながら、らせん階段を上って行った。
兵士ゾンビがいないのは助かった。ルーシェンが言うには、ドラゴンゾンビの下敷きになったらしい。想像すると怖い。見なくてよかった。
『ルーシェン……いろいろと、怒ってすみませんでした』
「どうした?シュウヘイ」
『ルーシェンが三階から落ちた時、ルーシェンがもしも死んだら……この村に一人になるかもしれないと思いました』
「それは違う」
『そんなの分かりません。そう思うと怖くなって……。ルーシェンの辛さが初めて、少しだけ分かりました』
「……」
『ルーシェンは一人でもずっと諦めなかったです。きっと立派な国王になれます。何も知らない人間が、怒ったりしてすみません』
「いや、いいんだ」
ルーシェンは俺の背中にまわした手に力をこめた。
「シュウヘイに怒られるのは嬉しい」
『エムですか?』
「えむ?」
『何でもないです』
ドラゴンのいない三階に戻ってきた。
だが奥の扉に向かう途中で、下から気味の悪い咆哮が聞こえた。ルーシェンと顔を見合わせる。
『早く行きましょう!』
「ああ」
俺はルーシェンと一緒に、奥の扉に手をかけた。
……どうしよう。ルーシェンが落ちた。
人形は俺が持ったままだ。何でもっと早く渡さなかったんだ。
短時間の間に、目まぐるしく色々な考えが脳裏に浮かぶ。
ルーシェンは運動神経がいいから、きっと無事なはずだ。第一ルーシェンに何かあったら、この村の魔法も解けてなくなってる。
でも、それがルーシェンの思い込みだったら?ルーシェンが死んで、俺一人この村に残される事になったら?
『ルーシェン!!』
ゾンビの事も忘れて、階段まで走った。
らせん階段を駆け下りながら、最悪の事態を思い浮かべた。だから、一階に向かう階段の途中に立っているルーシェンを発見した時は、思わず泣いてしまう所だった。
『ルーシェン……!無事で良かったです。心配しました。怪我はないですか?』
ルーシェンに飛びつくと、王子は片手を俺の背中にまわした。
「大丈夫だ。腕が折れただけだ」
「ええ!?」
それのどこが大丈夫なんだよ!
「効き腕だから少し厄介だな。俺とした事が……」
そう言うルーシェンの額には汗がにじんでいて、かなり痛そうだった。
この村には当然医者もいないし薬もない。取り合えず俺の持っていたフライパンで腕を固定しようとしたが拒否された。
『一度村に戻りましょう』
医者はいないがケビンがいる。
もふもふの毛にもたれて眠れば、少しは痛みも和らぐ……かもしれない。
だけどルーシェンは首を振った。
「ドラゴンゾンビが再び襲ってくるまでに少し時間がある。今なら黒霊もいない。三階の扉をあけるチャンスだ。俺は三階に行く」
『無茶です』
「危険だからシュウヘイは戻っていてもいい。俺一人で平気だ」
無理矢理笑顔を作ってルーシェンは俺にそう告げる。痛いくせに……どこまでもプライドの高い王子様だ。
俺もルーシェンの背中に手をまわした。
『三階まで付き合います』
「シュウヘイ……」
『扉の中が危険なら、一緒に戻って休憩して作戦を練り直します。いいですね!?』
「ああ。分かった」
ルーシェンは腕が折れただけだと言ったけど、体中痛そうだった。
いくらドラゴンゾンビの上に乗っかっていたとはいえ、三階から落ちたんだもんな……。
ドラゴンゾンビは落ちた衝撃でバラバラになったらしいから、少しは復活するまで時間がかかるみたいだけど、それでも時間がない。
俺はルーシェンを支えながら、らせん階段を上って行った。
兵士ゾンビがいないのは助かった。ルーシェンが言うには、ドラゴンゾンビの下敷きになったらしい。想像すると怖い。見なくてよかった。
『ルーシェン……いろいろと、怒ってすみませんでした』
「どうした?シュウヘイ」
『ルーシェンが三階から落ちた時、ルーシェンがもしも死んだら……この村に一人になるかもしれないと思いました』
「それは違う」
『そんなの分かりません。そう思うと怖くなって……。ルーシェンの辛さが初めて、少しだけ分かりました』
「……」
『ルーシェンは一人でもずっと諦めなかったです。きっと立派な国王になれます。何も知らない人間が、怒ったりしてすみません』
「いや、いいんだ」
ルーシェンは俺の背中にまわした手に力をこめた。
「シュウヘイに怒られるのは嬉しい」
『エムですか?』
「えむ?」
『何でもないです』
ドラゴンのいない三階に戻ってきた。
だが奥の扉に向かう途中で、下から気味の悪い咆哮が聞こえた。ルーシェンと顔を見合わせる。
『早く行きましょう!』
「ああ」
俺はルーシェンと一緒に、奥の扉に手をかけた。
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