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金曜日、午前9時15分(ルーシェン編)
8 俺を見くびるな
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「え?」
俺が……ルーシェンを殺す?
「この村は俺を殺すために創られている。だから本来の目的、つまり俺が死ぬという目的が達成されれば消滅する」
なおも固まっている俺にルーシェンは続けた。
「それがお前にとっては村から出る一番確実で早い方法だ。この魔法の村は腹が立つほど精巧に創られている。魔力を無くした人間が、内側からどうこうできるレベルではない。悔しいが……これがここ数ヶ月で俺が出した結論だ」
『魔法……解けないのですか……?』
俺の小さな呟きに、ルーシェンは頷いた。
「おそらく……な」
『文字を書いていたのは?』
まさか落書き?ただの愚痴とかじゃないよな。ジャケットの裏にたくさん書いてたじゃないか。
「呪文の構成を調べているが、綻びひとつ見つからないんだ。正直言うと、最近では遺書のような感覚で書いていた。万が一死体が残るようなら、誰かに俺の言葉を伝えられるかと……」
『そんな……』
「だからシュウヘイ、お前は俺を殺すしかない」
ルーシェンは椅子から立ち上がって俺の頬に触れた。
『無理です』
どこが簡単な方法だよ。
「いつかはお前にも分かる時が来る。それしかないのだと。だから、殺されるのは不本意だが、お前になら……」
何だかムカムカしてきた。
「うるせえ!!!!」
怒鳴りながらルーシェンの手を払いのける。
「……シュウヘイ」
「俺がルーシェンを殺す!?いつか分かる時が来る!?俺を見くびるな!自分の利益の為に、友達を平気で殺すような奴だと思ってるのかよ!!」
日本語で言ったせいで、ルーシェンには伝わらなかったかもしれない。でも俺の怒りは通じたはずだ。
『村からは二人で脱出します!お爺さんになっても二人です!』
「何を馬鹿な……!この魔法にシュウヘイは無関係だ。みすみす人生を棒に振ることはない」
『馬鹿なのはルーシェンです!』
「俺を馬鹿だと!?王子の俺に向かって、無礼にも程がある!」
『すぐに諦めるなんて、立派な王子のする事ではありません!見損ないました』
「俺は、有益な情報をお前に黙ったままでいるのは公平ではないと思っただけだ!」
『余計なお世話です!』
ルーシェンの眉間にシワが刻まれている。握られた拳は震えていた。激怒してるな。
だが、俺もかなり頭にきていた。この喧嘩で引くわけにはいかない。体格差がなければ襟首を掴んで頭突きし、目が覚めるまで殴ってやりたいくらいだ。
「勝手にしろ……いずれお前にも分かる」
ルーシェンは捨て台詞を吐いて部屋を出ていった。
『勝手にします!村を出るのは二人です!覚えておいてください!』
その背中に怒鳴ったが、異世界語だといまいちきまらない。
「……くそっ!」
リビングのテーブルを蹴飛ばし、椅子の上の花柄クッションを投げた(さすがに食器を投げて割るのは魔法とはいえ抵抗がある)
あいつの価値観、訳わかんねえ。
魔法ってそんなに絶対的なものか?
機械だって壊れるし、人間のやることだからミスだってある。
俺は投げたクッションを拾って抱きかかえると、ソファーに寝そべった。
「……」
天井を眺めながら、少しずつ落ち着きを取り戻す。
ルーシェンに言いすぎたかな……と思う。
あいつも辛いんだろうな。こんな所に何ヵ月もいれば、死にたくもなるのかも。でも、何だかすごくムカついたんだから仕方ない。多分ストレスだな。
ケンカはまあ、そのうち仲直り出来るだろう。そんな事より村からの脱出方法だ。下手すると本当にじいさんになるまで仲良くルーシェンとこの村に滞在する羽目になる。
考えろ、岬修平。
魔法なんて全く分からない俺だから、魔法を知り尽くしているルーシェンには分からない何かが見えるはずだ。きっと。
もし俺が異世界に来た事に意味があるのなら、ルーシェンを助け出せるはずだ。
考えろ、考えろ、と俺は呪文のように繰り返した。
俺が……ルーシェンを殺す?
「この村は俺を殺すために創られている。だから本来の目的、つまり俺が死ぬという目的が達成されれば消滅する」
なおも固まっている俺にルーシェンは続けた。
「それがお前にとっては村から出る一番確実で早い方法だ。この魔法の村は腹が立つほど精巧に創られている。魔力を無くした人間が、内側からどうこうできるレベルではない。悔しいが……これがここ数ヶ月で俺が出した結論だ」
『魔法……解けないのですか……?』
俺の小さな呟きに、ルーシェンは頷いた。
「おそらく……な」
『文字を書いていたのは?』
まさか落書き?ただの愚痴とかじゃないよな。ジャケットの裏にたくさん書いてたじゃないか。
「呪文の構成を調べているが、綻びひとつ見つからないんだ。正直言うと、最近では遺書のような感覚で書いていた。万が一死体が残るようなら、誰かに俺の言葉を伝えられるかと……」
『そんな……』
「だからシュウヘイ、お前は俺を殺すしかない」
ルーシェンは椅子から立ち上がって俺の頬に触れた。
『無理です』
どこが簡単な方法だよ。
「いつかはお前にも分かる時が来る。それしかないのだと。だから、殺されるのは不本意だが、お前になら……」
何だかムカムカしてきた。
「うるせえ!!!!」
怒鳴りながらルーシェンの手を払いのける。
「……シュウヘイ」
「俺がルーシェンを殺す!?いつか分かる時が来る!?俺を見くびるな!自分の利益の為に、友達を平気で殺すような奴だと思ってるのかよ!!」
日本語で言ったせいで、ルーシェンには伝わらなかったかもしれない。でも俺の怒りは通じたはずだ。
『村からは二人で脱出します!お爺さんになっても二人です!』
「何を馬鹿な……!この魔法にシュウヘイは無関係だ。みすみす人生を棒に振ることはない」
『馬鹿なのはルーシェンです!』
「俺を馬鹿だと!?王子の俺に向かって、無礼にも程がある!」
『すぐに諦めるなんて、立派な王子のする事ではありません!見損ないました』
「俺は、有益な情報をお前に黙ったままでいるのは公平ではないと思っただけだ!」
『余計なお世話です!』
ルーシェンの眉間にシワが刻まれている。握られた拳は震えていた。激怒してるな。
だが、俺もかなり頭にきていた。この喧嘩で引くわけにはいかない。体格差がなければ襟首を掴んで頭突きし、目が覚めるまで殴ってやりたいくらいだ。
「勝手にしろ……いずれお前にも分かる」
ルーシェンは捨て台詞を吐いて部屋を出ていった。
『勝手にします!村を出るのは二人です!覚えておいてください!』
その背中に怒鳴ったが、異世界語だといまいちきまらない。
「……くそっ!」
リビングのテーブルを蹴飛ばし、椅子の上の花柄クッションを投げた(さすがに食器を投げて割るのは魔法とはいえ抵抗がある)
あいつの価値観、訳わかんねえ。
魔法ってそんなに絶対的なものか?
機械だって壊れるし、人間のやることだからミスだってある。
俺は投げたクッションを拾って抱きかかえると、ソファーに寝そべった。
「……」
天井を眺めながら、少しずつ落ち着きを取り戻す。
ルーシェンに言いすぎたかな……と思う。
あいつも辛いんだろうな。こんな所に何ヵ月もいれば、死にたくもなるのかも。でも、何だかすごくムカついたんだから仕方ない。多分ストレスだな。
ケンカはまあ、そのうち仲直り出来るだろう。そんな事より村からの脱出方法だ。下手すると本当にじいさんになるまで仲良くルーシェンとこの村に滞在する羽目になる。
考えろ、岬修平。
魔法なんて全く分からない俺だから、魔法を知り尽くしているルーシェンには分からない何かが見えるはずだ。きっと。
もし俺が異世界に来た事に意味があるのなら、ルーシェンを助け出せるはずだ。
考えろ、考えろ、と俺は呪文のように繰り返した。
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