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木曜日、午前6時(リック編)
15 別れ②
しおりを挟む「おい」
隊長の低い声が聞こえた。
二人して声のした方を振り向くと、呆れた表情の隊長がすぐ近くに立っていた。
「もう全員そろって……お前らのイチャイチャの終了待ちなんだが」
「あ、すみません、隊長」
リック、今さら恥ずかしそうな表情見せても遅いぞ。お前の本性はもうばれてる気がする。
「それにしても……リック、お前なかなかやるな。お前ら二人がそんな仲だったとはな」
ほらな。
「違います。僕が一方的に好きなだけです」
『私もリックが好きですけど』
「ミサキ様の好きと僕の好きは、重みが違うんです」
「わかったから、お前ら、痴話げんかは止めろ。リック、お前砦に残るのか?こいつにくっついて行くのか?」
リックは首を振った。
「……街に戻ります。ミサキ様、ありがとうございます。僕のわがままを聞いてくださって」
リックは俺の腰に回していた腕を離すと、やっぱり泣き出しそうに見える笑顔でそう言った。
『リック……』
「隊長、お待たせして申し訳ありません」
「いやまあ……それはいいんだが。お前がいいなら出発するぞ?」
リックは何か言いたげな隊長と一緒に、馬もどきの元に歩いていった。
待っていた隊員たちに野次を飛ばされたり、からかわれたりしてる。それを持ち前の笑顔でかわすと、馬もどきに跨って俺に向かって手を振った。
「ミサキ様!恋人と別れたらいつでも街に来てくださいね!」
リックが泣いていないのに、俺が泣くなんておかしいよな。でも何だか泣きそうだ。
『リック、いろいろありがとう!』
出来る限りの笑顔で手を振り返す。
さよならとは言えなかった。
リックや他の隊員たちが砦の外に出て、姿が見えなくなるまで手を振る。
「……」
それからしばらくの間、俺は岩場に立ちつくしてみんなが帰って行った方角をぼんやり見つめていた。さみしくて、心にぽっかり穴が開いたような気がする。
もう会えないのか。
リックにも、隊長にも。
「泣くなよ、自分で決めた事だろ」
濡れた頬をごしごしと擦って呟く。異世界に来てから俺は泣いてばかりだ。
「……行くか」
土曜日の六時まであと二日しかない。
俺は砦に戻って出発の準備を始める事にした。
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