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カム

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木曜日、午前6時(リック編)

14 別れ

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 その後、再び俺とリックは獣舎前の広場に戻って来ていた。リックと同じ隊のメンバーがぞろぞろと集まっている。
 リックと俺は少し離れた岩場でその様子を見守っていた。
 リックは街を出た時と同じ外出用の兵士スタイルで、最小限の荷物をまとめている。あとは馬もどきに乗って砦を出るだけだ。

「ケビンはこの奥の獣舎にいます。ミサキ様の治療中に様子を見に行ったら、退屈そうにしてましたから、後で顔を出してあげてくださいね。
あと、王都に向かわれるなら、今日は砦に泊まって明日の朝出発されるといいですよ。その方が安全ですから」

『分かりました。ありがとう、リック』

「遅いぞ!お前ら」

 なかなか集まらない隊員に、隊長の怒号が飛ぶ。

『リック達は泊まって行かないんですね。安全なのですか?』

 あれだけ兵士がいたら、それほど危険な事もないか。でもひと仕事終えた後なんだから、一泊くらいして温泉にのんびり浸かったってよさそうだけどな。

「隊長には美人の恋人がいるから、早く街に帰りたいんでしょうね」
『隊長、恋人いるんですか?』
「いますよ。とても仲良しで、もうすぐ結婚されるんです」

 何だか意外だ。
 あれ、でもリックは隊長に憧れてなかったか?もしかして、結婚にショックを受けてるのかな。

『リック、元気出してください。リックも美人です』

 男に美人って言うのも変かな。何と言って慰めようか考えていると、リックが俺の髪を撫でた。

「隊長にはただ憧れているだけですよ。元気がないのはミサキ様のせいです」

 俺のせいか……。

「お別れするのが淋しくて……」

 考えないようにしてたのに、リックがそんな事を言うから胸が痛くなる。
 俺だってお別れとか、すごく苦手なんだ。出来れば笑顔で別れたい。泣くと余計辛くなるだろ。

『私も淋しいです。でも』

 リックには帰る家があるのだから、と続けようとしたら、いきなり抱きしめられた。

『リック?』

 というか、隊員のみんなが見てるぞ。いいのか!?

「僕の事、忘れないでください……」
『リック……』

 その一言で、隊員の視線なんてどうでもよくなった。

『私もリックの事は忘れません』

 そう言って思いっきり抱きしめ返す。
 異世界語は上手く話せないから、これで少しは思いが伝わればいい。リックは華奢に見えるけど、細身なのに骨太だ。やっぱり兵士だな。
 ぎゅうっと力を入れていると、身長が同じくらいなので、同じ位置にある頬に息がかかる。それから頬にちゅっと音を立ててキスをされた。

 おいおい、それはさすがにみんなの前では……と思ってリックを見ると、頭を引き寄せられて今度こそがっつり唇を奪われた。

 視界に入る隊員全員が、こっちを見ている気がする。焦って思わずリックを引き剥がそうとすると、唇だけがわずかに離れた。

『リック、みんなが見てます』
「……それが何か?」

 美形が真顔だと怖いぞ!
 至近距離でそんな迫力のある顔で見つめられると、何も言えなくなる。というか、お前いじめにあって人の目が直視できないんじゃなかったのか。絶対に後で隊員たちにからかわれる(またはいじめられる)ぞ。

「……僕には」
「え?」
「この一瞬だけが全てなんです。だから……」

 リックはそれ以上何も言わず、目を伏せた。
 涙は見えなかったのに、その表情は泣いているように見えた。

『リック……』

 そんなに思いつめてるのか。

『分かりました』
「えっ?」
『リックの好きにしてください』

 俺は覚悟を決めて目を閉じた。
 俺も男だからな。外野がどうとか考えるのはやめよう。
 何故かリックが息を飲む音が聞こえる。呆れられたかな、と思ったら前より激しく口づけされた。


***

 腰がムズムズする。
 舌が別の生き物みたいだ。完全に主導権を握られてる。

 こいつ、何でこんなにキスが上手いんだ?
 経験は俺と同じくらいだと思うのに、俺よりずっと上手い。それとも、リックの事が嫌いじゃないからそう思うだけなのかな。

 リックが俺の後頭部と腰をぎゅっと引き寄せるので、息が苦しくなってきた。
 おまけに腰にある手がだんだん下の方に。俺の脚の間に、リックの足が割り込んでて微妙な位置に当たってるんだけど。みんなの前でどこまで披露するつもりだよ?いや、好きにしろとは言ったけど。

 息苦しさで軽く手に力を入れると、リックがようやく顔を上げた。

「……苦しかったですか?」
『はい。息ができません』
「すみません。ミサキ様があんまり可愛いので、つい」

 何が、可愛いのでつい、だ。
 上手いって思ったのは撤回だな。でもこいつ、相変わらずわざとやってるっぽいな。

『可愛いのは知ってます』

 よく見れば可愛いというレベルだけどな。

「そうですね」

 リックは笑って、俺の頬に軽くキスを落とした。
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