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カム

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木曜日、午前6時(リック編)

8 告白

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 のろのろ食べていたリックをせかして食堂を出ると、さっそく部屋に携帯電話を取りに戻る。
 途中トイレに立ち寄って、栓もろとも座薬を捨ててやった。階段を上るのも走るのも気持ち悪くて動きが鈍るんだから仕方ない。風呂と食事の間だけでも我慢したんだ。もう充分だろ。

 部屋に戻ってリュックから携帯電話を取り出していると、遅れて入ってきたリックが扉の前に立ちふさがった。

『早く飛竜を見に行きましょう』
「その前に、背中に薬塗った方がいいです」

 別に背中の傷なんてどうでもいいのに。
 だけどリックが頑として譲らないので、仕方なく薬を塗ってもらう事にした。助手にもらった瓶をリックに渡し、上着を脱いでベッドに座ると背中にひんやりとした感触が伝わってきた。

「うわー……」

 痛い。ヒリヒリする。もしかして塩を塗られてるんじゃないか?っていうくらい痛い。

「痛みますか?」

 激しく頷いて、それでも必死に耐えていると、そのうちリックの指の感触が止まった。
 瓶の蓋が閉まる音。ヒリヒリが終わった事にホッとして息をついていると、リックが俺の肩に手を回し、背中に頭をくっつけてきた。

『リック?』
「すみません……ずっと、謝ろうと思ってたんです」

 俺の背中に額をくっつけてそう言うリックの声は、さっきまでとは比べ物にならないくらい小さかった。

『何をですか?』

 と言いながら、俺もリックに謝ろうと思っていた事を思い出す。
 何でリックが俺に謝るんだ?
 二人とも無事だったから良かったものの、危険な目に遭ったのは完全に俺のわがままのせいだからな。

「この背中の傷、僕のせいなんです。ミサキ様は薬で意識が朦朧としていて、ほとんど気を失っていたというのに……どうしても止められなくて」

 え、何の話?
 と思いながらも自分の顔に熱が集まって来るのを感じていた。いや、分かってるけど忘れたい事ってあるよな。

「マントがあったとはいえ、岩場だったからきっと痛かったと思います。それなのに僕は自分の気持ち良さを優先してしまって……自分があんなに勝手な人間だったなんて気付かなかった。それどころか、もっとミサキ様をめちゃくちゃにしてしまいたいと……」
『リック!』
「幻滅ですよね」
『ええと……謝るのはこっちです。リックは人に触られるのが嫌いなのに、キスしてしまいました。盗賊に遭ったのも自分のせいです。リックは悪くありません。薬のせいです』

 薬を飲まされて、リックにキスして逃げた後の記憶はあいまいで、正直断片しか覚えてなかった。
 でもその断片をつなぎ合わせただけでも、かなり濃厚だったような気がする。
夢うつつでも、こいつ優しそうな顔をしてけっこう鬼畜だと思ったんだった。
 でも、それは俺がキスしたせいで、リックにも薬がまわってたからじゃないか?

 そう言っても、リックは首を振った。

「薬は関係ありません。僕は、キスされる前からそう思ってました」
『え?』
「盗賊に襲われるミサキ様を見て、どうせなら僕がそうしたいと」

 ええ!?

 俺が捨て身で盗賊に襲われてる間に、そんな事考えてたのか?でも、目をそらしてたよな?あれって、汚い物を見る目じゃなかったのか?

 振り返ると、熱っぽい瞳で真剣にこっちを見ているリックと目があった。

『リック……』
「最初はミサキ様が苦手でした。僕が出来ない事を簡単にしてしまうから。僕、隊長に話しかけるのに緊張で何年もかかったんですよ。でもミサキ様は平気で誰にでもべたべた出来るし、空気は読まないし、きっと恋人もたくさんいて……高い身分で甘やかされて育ったんだと思ってました」

 何ですかその誤解は。
 いや、隊長に話しかけるのは簡単だけど……恋人なんて今まで一人しかいなかったぞ。それもすぐに振られたし。
 自分ではそれなりに苦労してると思ってるんだけど、甘いのか?

「苦手だし、触られるのも迷惑だと思っていたのに……」

 リックが手を伸ばして俺の頬に触れる。

「盗賊に襲われた時、僕の身代わりになって下さったのですよね?僕が、人に触られるのが嫌いだから」
『……』
「そんな事、僕には絶対に出来ない。ミサキ様は無謀すぎます。あの行動に、僕がどんなに衝撃を受けたか分かりますか?」
『……分かりません』

 ついでにリックが何を言いたいのかも分からなくなってきたぞ。ちょっと自分なりに整理してみよう。

 つまり俺が空気読めない甘ったれなのに、そいつの無謀な行動に助けられてショックだったって事か。
 さらに俺が襲われてる場面で、自分の鬼畜な部分に気付き(ここはそれほど俺のせいじゃない気がする)ダブルショック。
 さらにその後、嫌いな俺にキスとかその他初めての行為を強要?されてしまった。
 ……これはもう慰謝料払えとか、そういうレベルだよな。

 一分くらい考えて、そういう結論に達した俺は、リックに深々と頭を下げた。

『すみませんでした』

 お金そんなに持ってないから、取りあえず謝ろう。

『嫌いなのにいろいろと迷惑をかけました。リックが怒るのも無理はありません』
「違います。怒ってる訳じゃありません」

 え?違うの?
 頭をあげると、リックの困ったような顔が目に入った。

「衝撃を受けた後、気付いたんです。どうしようもなく、あなたに惹かれている事に」
「え?」
「ミサキ様、僕はあなたの事が好きです」
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