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木曜日、午前6時(リック編)
6 温泉
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***
「ここかな」
助手に教えられた場所の扉には、異世界語で文字が書かれていたが、俺には読めないんだった。
それにしてもこの砦、けっこう広い。
自分の部屋を出てここにたどり着くまで、何度か階段を昇ったり降りたりした。
今お尻に変なものが入ってるから、歩き方がぎこちないんだ。階段とか勘弁して欲しい。
砦の内装は綺麗で高級ホテルか旅館のような雰囲気だった。
もっと野戦病院みたいな殺伐とした建物を想像していたのに意外だ。そういえば桃花村だってこれくらい綺麗だったな。
旅館と違うのは、廊下をすれ違うのがほぼごつい男で、みんな十代から五十代くらいって所かな。
ごくたまに女の人もいたけど、オーラが強すぎて声をかけるのが恐ろしいタイプばかりだった。
扉をあけると脱衣所があり、男が大勢服を脱ぎ着していた。
入り口で布と粉とかごをもらう。よく分からないがタオルとせっけんって事だろう。見よう見まねでかごに着ていた服を入れる。
まわりにいる男達を参考にしていたら、近くにいた年上風の茶髪の男に話しかけられた。
「兄ちゃんどこの配属?」
「?」
配属って何だ?
「俺は緑水湖の兵士だ。今回の大規模討伐に駆り出されたんだけど、全然出番なくてさ。その方がいいけどな。戦うの面倒だからな」
『私は旅人です。王都を目指しています』
「ええっ!旅人って、道は封鎖されたんじゃなかったのか。運悪く残ってたのか?そう言えば兄ちゃんの着てた服、怪我人用だもんな」
『大丈夫です。もう治りました』
「そうか?背中に傷が残ってるぞ?」
『ただのかすり傷です』
俺は借りた布で素早く腰回りをガードすると、にっこり愛想笑いしてみせた。
お尻だけは見られるわけにはいかないからな。
ぎこちない動きで背後を取られないように気を使いながらも、緑水湖の兵士だというその男に温泉の入り方を伝授してもらった。
結論から言えば、特にマナーなんてないらしい。
とにかく他の隊の兵士ともめない事。
お偉いさんには場所を譲る事、この二つさえ守られていれば、後は何をしても自由みたいだ。
『お偉いさん?』
「今回の討伐には、王都の飛行部隊が来てる。飛行部隊はエリート中のエリートだからな。俺みたいな地方兵士から見れば雲の上の存在なんだ。見た目が若くても油断できない。おまけに温泉では服装で判断もできないからな~。最初は兄ちゃんもそうかと思ったんだ」
そうか……俺って飛行部隊の兵士に見えるのか。何かすごく嬉しいぞ。
温泉は、建物が高級旅館風なだけあって風呂場も広かった。
様々な大きさの浴槽が設置されていて、お湯の色もバリエーションに富んでいる。全部試したい所だけど、取り合えず体洗った方がいいな。
そう判断して、俺は緑水湖出身の兵士の誘いをふり切り、人の少ない場所に陣取った。
あんまり体洗ってる奴いないな……。兵士ってそんな事気にしないのか?
でも俺は綺麗好きだから、そんな空気は無視して、もらった粉をさっそく使う事にした。
粉を髪の毛に振りまいてお湯をかけると、茶色い泥水が流れていった。
俺、どれだけ汚れてたんだよ。思えば風呂に入るのも、オッサンの村のドラム缶風呂以来だ。
泡立てに苦労しながらどうにか全身洗う。
途中やたらと美形な若い男が
「お兄さん、僕が体洗いましょうか?」
と何人か声をかけてきたが全部断った。
洗い終わってさっぱりすると、今度は色々な浴槽に順番に入っていく。
やっぱり日本人は温泉だな。露天風呂がないのと、お湯の温度が少しぬるいのが残念だけど、それ以外は文句なしだ。
いや、一つだけ不満な所があった。
「お前どこの所属?」
「お昼一緒にどうですか?」
「名前と出身地教えてよ」
お湯に浸かっているだけなのに、やたら知らない男達が話しかけてくる。
全部適当にかわしているのに、中には体にべたべた触ってくる奴もいてぎょっとする。
この世界の人間って、スキンシップが過剰だ。特に男。
初対面でいきなりお尻とか触るか?急所攻撃は中学生で卒業だろ?相手が兵士だと体もでかいし、鍛えられていて力も強いから逃げるのも一苦労だ。
長湯は諦めて部屋に戻ろうとすると、最初に俺に声をかけてきた緑水湖の兵士がやってきた。
「もう戻るのか?」
『はい』
「なあ、この後俺の部屋に来ないか?」
「はあ?」
「怪我治ったんだろ?いろいろ教えてやるからさ」
色々って何をだよ。
「飛行部隊の話とか」
『え?』
それは是非聞きたいぞ……。
飛行って何に乗って飛ぶのか、すごく興味があったんだ。電車や車がないんだから、もちろん飛行機もないよな。
きっと動物だ。鳥?それとももっと違う生き物だろうか。ペガサスみたいな羽の生えた馬だったら、絶対に一目見る価値がある。
『部屋ってどこですか?』
ちょっと心が揺れ動いた時、誰かが俺の腕をぐいっと引っ張った。
「ミサキ様!」
振り返ると、険しい表情のリックが立っていた。
「ここかな」
助手に教えられた場所の扉には、異世界語で文字が書かれていたが、俺には読めないんだった。
それにしてもこの砦、けっこう広い。
自分の部屋を出てここにたどり着くまで、何度か階段を昇ったり降りたりした。
今お尻に変なものが入ってるから、歩き方がぎこちないんだ。階段とか勘弁して欲しい。
砦の内装は綺麗で高級ホテルか旅館のような雰囲気だった。
もっと野戦病院みたいな殺伐とした建物を想像していたのに意外だ。そういえば桃花村だってこれくらい綺麗だったな。
旅館と違うのは、廊下をすれ違うのがほぼごつい男で、みんな十代から五十代くらいって所かな。
ごくたまに女の人もいたけど、オーラが強すぎて声をかけるのが恐ろしいタイプばかりだった。
扉をあけると脱衣所があり、男が大勢服を脱ぎ着していた。
入り口で布と粉とかごをもらう。よく分からないがタオルとせっけんって事だろう。見よう見まねでかごに着ていた服を入れる。
まわりにいる男達を参考にしていたら、近くにいた年上風の茶髪の男に話しかけられた。
「兄ちゃんどこの配属?」
「?」
配属って何だ?
「俺は緑水湖の兵士だ。今回の大規模討伐に駆り出されたんだけど、全然出番なくてさ。その方がいいけどな。戦うの面倒だからな」
『私は旅人です。王都を目指しています』
「ええっ!旅人って、道は封鎖されたんじゃなかったのか。運悪く残ってたのか?そう言えば兄ちゃんの着てた服、怪我人用だもんな」
『大丈夫です。もう治りました』
「そうか?背中に傷が残ってるぞ?」
『ただのかすり傷です』
俺は借りた布で素早く腰回りをガードすると、にっこり愛想笑いしてみせた。
お尻だけは見られるわけにはいかないからな。
ぎこちない動きで背後を取られないように気を使いながらも、緑水湖の兵士だというその男に温泉の入り方を伝授してもらった。
結論から言えば、特にマナーなんてないらしい。
とにかく他の隊の兵士ともめない事。
お偉いさんには場所を譲る事、この二つさえ守られていれば、後は何をしても自由みたいだ。
『お偉いさん?』
「今回の討伐には、王都の飛行部隊が来てる。飛行部隊はエリート中のエリートだからな。俺みたいな地方兵士から見れば雲の上の存在なんだ。見た目が若くても油断できない。おまけに温泉では服装で判断もできないからな~。最初は兄ちゃんもそうかと思ったんだ」
そうか……俺って飛行部隊の兵士に見えるのか。何かすごく嬉しいぞ。
温泉は、建物が高級旅館風なだけあって風呂場も広かった。
様々な大きさの浴槽が設置されていて、お湯の色もバリエーションに富んでいる。全部試したい所だけど、取り合えず体洗った方がいいな。
そう判断して、俺は緑水湖出身の兵士の誘いをふり切り、人の少ない場所に陣取った。
あんまり体洗ってる奴いないな……。兵士ってそんな事気にしないのか?
でも俺は綺麗好きだから、そんな空気は無視して、もらった粉をさっそく使う事にした。
粉を髪の毛に振りまいてお湯をかけると、茶色い泥水が流れていった。
俺、どれだけ汚れてたんだよ。思えば風呂に入るのも、オッサンの村のドラム缶風呂以来だ。
泡立てに苦労しながらどうにか全身洗う。
途中やたらと美形な若い男が
「お兄さん、僕が体洗いましょうか?」
と何人か声をかけてきたが全部断った。
洗い終わってさっぱりすると、今度は色々な浴槽に順番に入っていく。
やっぱり日本人は温泉だな。露天風呂がないのと、お湯の温度が少しぬるいのが残念だけど、それ以外は文句なしだ。
いや、一つだけ不満な所があった。
「お前どこの所属?」
「お昼一緒にどうですか?」
「名前と出身地教えてよ」
お湯に浸かっているだけなのに、やたら知らない男達が話しかけてくる。
全部適当にかわしているのに、中には体にべたべた触ってくる奴もいてぎょっとする。
この世界の人間って、スキンシップが過剰だ。特に男。
初対面でいきなりお尻とか触るか?急所攻撃は中学生で卒業だろ?相手が兵士だと体もでかいし、鍛えられていて力も強いから逃げるのも一苦労だ。
長湯は諦めて部屋に戻ろうとすると、最初に俺に声をかけてきた緑水湖の兵士がやってきた。
「もう戻るのか?」
『はい』
「なあ、この後俺の部屋に来ないか?」
「はあ?」
「怪我治ったんだろ?いろいろ教えてやるからさ」
色々って何をだよ。
「飛行部隊の話とか」
『え?』
それは是非聞きたいぞ……。
飛行って何に乗って飛ぶのか、すごく興味があったんだ。電車や車がないんだから、もちろん飛行機もないよな。
きっと動物だ。鳥?それとももっと違う生き物だろうか。ペガサスみたいな羽の生えた馬だったら、絶対に一目見る価値がある。
『部屋ってどこですか?』
ちょっと心が揺れ動いた時、誰かが俺の腕をぐいっと引っ張った。
「ミサキ様!」
振り返ると、険しい表情のリックが立っていた。
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