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水曜日、午後10時(リック編)
8 脅迫
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『何も知りません』
「嘘つけ、お前が着ていた服……石工の街の兵士の服だろうが」
『借りただけです』
あの街、石工の街っていうのか。でも借りたのは本当だし。
「アニキ、こんな弱い奴が兵士な訳ないっすよ」
アニキは俺の顎を取ると、じっと見下ろしてくる。正直キスされた時より怖い。
「仲間がいるんだろう。なあ、兄ちゃん。王都から何か指示があったんだろ?」
俺は首を振って何も知らないと繰り返した。
「アニキ、連れてきました」
「放せっ!」
三人目の盗賊がスグリと言う背の低い盗賊を従え、リックを引きずるようにして戻ってきた。
「スグリ、空がおかしいってのはどういう意味だ?」
「えーと、えーと……何かもやもやした力がある……。アジトの方も、騒がしくて、何かあるような……」
スグリの言葉にアニキが舌打ちした。
そして懐から何か瓶を取り出す。光る石の入った瓶ではなく、ただの液体の入った瓶だ。酒?水?
「役に立たねえな、お前。仕方ないから兄ちゃんに話してもらうか」
「えー、アニキそれ使うんですか?せっかくの獲物が……もったいない」
え……?何その液体……。何かヤバイ薬なのか?
血の気が引いた俺に、アニキの凶悪な笑みが迫る。
「大丈夫、死ぬわけじゃねえよ。ちょっと気持ち良くなって、おしゃべりしたくなるだけだ。大量に飲まなければな」
『本当に知りません』
首を振って否定する。
本当にたいした情報は持ってないし、リックがもしアジトを襲っている兵士の仲間だとばれたら殺されるかもしれない。
「ああ、そうか。じゃあ代わりにこいつに飲ませるか」
アニキがそう言ったので三人目の盗賊がリックの髪を掴み、顔をあげさせた。
アニキが瓶の口を開けてリックの口元に持っていく。ぎゅっと目を閉じたリックの鼻をアニキがつまむ。
……くそっ、この鬼畜盗賊!
『リックに手を出さないでください!約束です』
俺の言葉に、アニキが笑顔で振り返った。
「兄ちゃんは本当にいたぶりがいがあって楽しいな。たしかに、こいつには手を出さないって約束したんだった。危うく忘れる所だった。悪かったなぁ。友達思いの奴、俺は大好きだぜ?」
瓶の口からは何だか妙な匂いがした。
酒のような、薬のような、今まで嗅いだ事のない匂い。
「おとなしく本当の事を話すか?それとも飲んで抵抗してみせるか?」
回避する作戦が何も思い浮かばない。俺は仕方なく口を開けた。
「ミサキ様!駄目です!」
リックの声がした。
いいんだ。だって俺、詳しい事は全然知らないから話しようがない。アニキも死ぬわけじゃないって言ってたし。
「止めろよ!そんな事したってもうお前たちのアジトも仲間も終わりだ!今頃僕らの仲間と、王都の飛行部隊に襲撃されてるんだからな……!」
その場にいた一同がリックの言葉にぎょっとした。
馬鹿リック……!
そんな事言ってキレられて殺されたらどうするんだ!おれたちなんて瞬殺だぞ!?
と思った瞬間、どっと口の中に苦いような甘いような液体が入ってきた。
「ゴホッ!ゲホッ!」
口に瓶を突っ込まれて必死に飲み下す。でも大量の液体で溺死しそうになる。
「何だと……?飛行部隊?」
「ミサキ様を放せ!襲ったのは僕の仲間の兵士たちで、その方は関係ない」
アニキがのろのろと瓶を口から離してくれて、ようやく空気が肺に戻ってきた。
「なるほど……王都の盗賊一斉討伐ってやつか」
アニキがそう呟いた時だった。ドーンという低い爆発音が響き、離れた場所に火柱が立ち上った。
***
それからの盗賊の行動は早かった。
というより、俺の頭がだんだん朦朧としてきて、全ての行動をよく覚えていないからそう思えるのかもしれない。
「灯りを消せ、飛行部隊に見つかるからな。馬も使うな。アジトに戻らずバラバラに散って身を隠せ」
アニキが仲間に命令を下す。
「アニキ、こいつらどうします?殺しときますか?」
「こ……殺すんなら、ぼ、僕だけを……!」
「やらねぇよ。お前に手は出さないと、その兄ちゃんと約束したからな」
背の高い盗賊が俺の腕を放したので、俺は立っていられなくなってその場に倒れ込んだ。
「ミサキ様!」
「命拾いしたな、兄ちゃん。またどこかで会えたら、その時は可愛がってやるよ」
気を失う前に覚えているのは、リックの声とアニキの低い声だけだった。
「嘘つけ、お前が着ていた服……石工の街の兵士の服だろうが」
『借りただけです』
あの街、石工の街っていうのか。でも借りたのは本当だし。
「アニキ、こんな弱い奴が兵士な訳ないっすよ」
アニキは俺の顎を取ると、じっと見下ろしてくる。正直キスされた時より怖い。
「仲間がいるんだろう。なあ、兄ちゃん。王都から何か指示があったんだろ?」
俺は首を振って何も知らないと繰り返した。
「アニキ、連れてきました」
「放せっ!」
三人目の盗賊がスグリと言う背の低い盗賊を従え、リックを引きずるようにして戻ってきた。
「スグリ、空がおかしいってのはどういう意味だ?」
「えーと、えーと……何かもやもやした力がある……。アジトの方も、騒がしくて、何かあるような……」
スグリの言葉にアニキが舌打ちした。
そして懐から何か瓶を取り出す。光る石の入った瓶ではなく、ただの液体の入った瓶だ。酒?水?
「役に立たねえな、お前。仕方ないから兄ちゃんに話してもらうか」
「えー、アニキそれ使うんですか?せっかくの獲物が……もったいない」
え……?何その液体……。何かヤバイ薬なのか?
血の気が引いた俺に、アニキの凶悪な笑みが迫る。
「大丈夫、死ぬわけじゃねえよ。ちょっと気持ち良くなって、おしゃべりしたくなるだけだ。大量に飲まなければな」
『本当に知りません』
首を振って否定する。
本当にたいした情報は持ってないし、リックがもしアジトを襲っている兵士の仲間だとばれたら殺されるかもしれない。
「ああ、そうか。じゃあ代わりにこいつに飲ませるか」
アニキがそう言ったので三人目の盗賊がリックの髪を掴み、顔をあげさせた。
アニキが瓶の口を開けてリックの口元に持っていく。ぎゅっと目を閉じたリックの鼻をアニキがつまむ。
……くそっ、この鬼畜盗賊!
『リックに手を出さないでください!約束です』
俺の言葉に、アニキが笑顔で振り返った。
「兄ちゃんは本当にいたぶりがいがあって楽しいな。たしかに、こいつには手を出さないって約束したんだった。危うく忘れる所だった。悪かったなぁ。友達思いの奴、俺は大好きだぜ?」
瓶の口からは何だか妙な匂いがした。
酒のような、薬のような、今まで嗅いだ事のない匂い。
「おとなしく本当の事を話すか?それとも飲んで抵抗してみせるか?」
回避する作戦が何も思い浮かばない。俺は仕方なく口を開けた。
「ミサキ様!駄目です!」
リックの声がした。
いいんだ。だって俺、詳しい事は全然知らないから話しようがない。アニキも死ぬわけじゃないって言ってたし。
「止めろよ!そんな事したってもうお前たちのアジトも仲間も終わりだ!今頃僕らの仲間と、王都の飛行部隊に襲撃されてるんだからな……!」
その場にいた一同がリックの言葉にぎょっとした。
馬鹿リック……!
そんな事言ってキレられて殺されたらどうするんだ!おれたちなんて瞬殺だぞ!?
と思った瞬間、どっと口の中に苦いような甘いような液体が入ってきた。
「ゴホッ!ゲホッ!」
口に瓶を突っ込まれて必死に飲み下す。でも大量の液体で溺死しそうになる。
「何だと……?飛行部隊?」
「ミサキ様を放せ!襲ったのは僕の仲間の兵士たちで、その方は関係ない」
アニキがのろのろと瓶を口から離してくれて、ようやく空気が肺に戻ってきた。
「なるほど……王都の盗賊一斉討伐ってやつか」
アニキがそう呟いた時だった。ドーンという低い爆発音が響き、離れた場所に火柱が立ち上った。
***
それからの盗賊の行動は早かった。
というより、俺の頭がだんだん朦朧としてきて、全ての行動をよく覚えていないからそう思えるのかもしれない。
「灯りを消せ、飛行部隊に見つかるからな。馬も使うな。アジトに戻らずバラバラに散って身を隠せ」
アニキが仲間に命令を下す。
「アニキ、こいつらどうします?殺しときますか?」
「こ……殺すんなら、ぼ、僕だけを……!」
「やらねぇよ。お前に手は出さないと、その兄ちゃんと約束したからな」
背の高い盗賊が俺の腕を放したので、俺は立っていられなくなってその場に倒れ込んだ。
「ミサキ様!」
「命拾いしたな、兄ちゃん。またどこかで会えたら、その時は可愛がってやるよ」
気を失う前に覚えているのは、リックの声とアニキの低い声だけだった。
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