One week

カム

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水曜日、午前2時(リック編)

2 石工の街

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 ……獣臭い。何だかベトベトした生暖かいものが、顔に当たっている。

「ん……」

 ベロベロ

「よせよ、ラウル……」

 押しのけたら長い毛に触れて目が覚めた。

「うわ!?」

 ケビンが俺の顔を覗きこんでいた。
 体が大きいから顔も口も舌もでかい。食われるかと思った。どうりで獣臭いはずだ。
 寝ている時はラウルかと思ったけど、ラウルはそんなに獣臭くなかったな……。

 ラウルの事を思い出すと、すこしだけ胸が痛む。異世界にきて、何だかナーバスになってるな、俺。

 ケビンの顔が離れて行ったので、俺はようやく起き上がって周囲を見回した。
 空は朝焼けでピンク色だ。ケビンはけっこう早い時間に俺を起こしたらしい。携帯の時刻は6時前だった。

 昨日は暗くてよく見えなかったけど、だだっ広い平原には岩や草木の他には何も見えなかった。もちろんコンビニも。
 こんな平地でも野宿ってしようと思えば出来るもんだな。体が少し痛いし、顔はケビンのよだれでべたべただけど、思ったよりよく寝れた。

 いや、待てよ。
 何だか怖い夢を見ていたような気がする。何だっけ?康哉が出てきたような気がするな。でも思い出すのはよそう。怖いのは嫌いだ。

 寝起きでぼんやりしていたが、真顔のケビンの眼力に負けて、俺はリュックから餌を取り出した。
 餌を食べるケビンを横目に湧き水で顔を洗う。俺にも何か餌が欲しい。
 食べられそうな物が何もないから、早く街を見つけないと体力がもたない。ケビンの餌を食べると怒られそうだしな。

 ケビンにまたがると、股とかケツが少し痛い気がした。自転車は平気なのに、生き物というだけでこうも違うのか。昨日は(ラウルのせいで)ケツが痛くて今日は股……このままだと元の世界に戻る頃には俺は痔デビューしているんじゃないだろうか。

 そんな不安を抱えながら、満腹のケビンと空腹の俺は、再び王都に向けて出発した。
 しばらく歩くと、地平線上に大きな岩山が見えてきた。岩山?
 建物が建っているような気がする。ひょっとして街か?

「ケビン、あれ街かな?」

 ケビンに同意を求めるが、ケビンは知らん顔だ。しかしケビンの歩く道はそのうち大きな道に合流し、それとともに通行人も次第に増えてきた。岩山の方角から歩いてくるという事は、街の可能性大だ。

 面白いのは人々が色々な姿の動物に乗っているという所だ。馬やラクダのような動物が多かったが、中にはダチョウや象のような生き物もいた。全部の生き物が俺の想像より一回りでかい。象の背中には小さな小屋がくっついていて、乗り心地よさそうだ。 

 岩山は近づくと本当に街だという事が判明した。半分は自然の岩山で、残りは手が加えられている。不思議な外観だ。
 岩には巨大トンネルがずっと向こうまで開通していて、両脇にずらりと店が並んでいる。屋根つきの商店街のような雰囲気だ。

 街の入り口には石造りの小屋があり、その前では兵士のような格好の男がゆったりした椅子に寝そべるようにして、通行人を眺めていた。

 兵士に特に何も言われず、街の中に入ると、入ってすぐの広場では看板を持った男達が旅人に声をかけていた。

「お兄さん、うちの宿に泊まりませんか?」
「食事はこちらでどうぞ」
「お土産を買うならこちら」
「観光名所をご案内しますよ~」

 こういう客引きってどこの世界でもあるんだな。まあ俺は急いでるから、何か食べて、食料を買ったらすぐに出発だけどな。

「お兄さん、うちに泊まって行かない?」
『いえ、急いでいるので』

 ん?
 俺に声をかけてきたのは、金髪を二つに結んだかわいい女の子だった。
 眩しい……笑顔と白い胸元が。思わず不審がられそうなほど見入ってしまった。

「お兄さん?」
『お腹がすいています!ご飯食べる所ありますか?』
「もちろんありますよ」

 悪いな、康哉。
 やっぱり友情より恋愛だろ。空腹と笑顔に負けて、俺は彼女の後についていった。
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