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火曜日、午後3時(ラウル編)
3 だけど、別れに慣れるわけじゃない
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それからラウルはごそごそと、自分の腕輪を外し始めた。女王様を見た後だから分かるが、ラウルの仲間内で流行っているアクセサリーはSM仕様だ。
「シュウヘイ、これあげる。ほんとうはラウルのたからものあげたかったけど、いまないからこれ」
『ラウル……』
「ラウルのたからもの、ちゃいろいとりの、なんこつペンダント。おなかがすいたらなめたりできる。しゅうへいにあげたかった」
ありがたいけどいらねー……。
『ラウル、これで大丈夫です。ありがとう』
俺はラウルから腕輪を受け取ると、左手につけてみた。思ったより軽くて邪魔にならない。
俺も何かラウルにあげられる物があればいいんだけどな。結局料理も作ってやれなかったし。悩んでいると、ラウルに飛びつかれて口をベロベロ舐められた。
女王様とオッサン達のもとに戻ると、三人と二匹は微妙な距離を保ちつつ俺達を待っていてくれた。
「ラウル、話は済んだか?」
「兄ちゃん、お別れ出来たかい?」
ラウルは女王様と兄に
「ラウルおとなになった」だの
「うでわあげた」だの
「おおきくなったらとおくにいく」
だの伝えていたが、とりあえず村に残るという選択をした事に、女王様と兄がホッとしているのが目に見えて分かった。
「兄ちゃん、さすがだな。どうやって説得したんだ?」
『怒りました』
「なるほどな~」
実際には「怒って泣いたら察してくれた」だけど恥ずかしくて言えない。
洗濯物が槍に干されてるのを見て、俺はそこからシャツを外した。
まだ生乾きだけど、これなら大きいからラウルがさらに成長しても入りそうだ。
『ラウル、これあげます』
そのシャツは土曜日の夜に、寒いかもしれないと思って適当にはおった一枚二千円もしない安物だ。
でもラウルはそのシャツをキラキラした目で見つめ、大事そうに受け取った。シャツに顔を埋め、くんくんと匂いを嗅いでいる。
「シュウヘイのにおいがする。ラウル、これいちばんのたからものにする」
……そんなに喜んでもらえてなんだか申し訳ないが、プレゼントってのは気持ちだからな。
「衣服をプレゼントとは、なかなかわきまえた男だな」
「若いのに末恐ろしい。弟をたらしこむだけの事はある」
女王様とラウル兄ちゃんの妙な会話が聞こえたけど無視する事にした。
そこへラウルの仲間の女性が何かを抱えて戻ってきた。
彼女も俺より背が高く、整った顔立ちに茶色いロングヘアでかなりのセクシー衣装を身につけている。村に入れなくて少し残念かも……。こんな美女たちにご飯とか食べさせてもらえるのなら、八年くらいここにいてもいいかな……。
「族長、これを」
仲間の美女に渡された包みを、女王様が開いて確認する。
中にはキラキラと輝く握りこぶし大の鉱石が入っていた。
「ラウルを救ってくれた礼だ。受け取ってくれ。売れば金になる」
価値が良く分からないが、いいのだろうか。悩んでいると押し付けられた。
「いいから受け取れ」
オッサンを見ると頷いている。
『ありがとうございます』
俺はその鉱石を再び包んでリュックに入れた。
もしかして、もうお別れかな……。
考えたくないが、オッサンはメアリーのもとに歩いて行ってるし、女王様とラウル兄ちゃんは、用が済んだのだからさっさと帰れ的な雰囲気を醸し出している。
俺は何となくラウルの顔が見られなかった。見たら泣きそうだ。
ゆっくりとケビンに近づき、座って待っていたケビンにまたがろうとした時、ラウルが背中に飛びついてきた。
「シュウヘイ!」
『ラウル、さようなら』
ぎゅうっと力を入れてしがみついているラウルの腕をしばらく撫で、俺はゆっくりと腕をほどいた。
振り返ると、ラウルはぼろぼろ泣いていた。
『元気でな』
もう一度ラウルを抱き寄せて頭を撫でる。
「シュウヘイ……」
『ありがとう』
何に対してのありがとうだろう。
多分、俺を好きになってくれて、が続くんだ。
俺はラウルからそっと離れ、ケビンにまたがった。
ケビンはゆっくりと立ち上がり、待っているオッサンとメアリーのもとに歩きだす。
「シュウへイ!」
『ラウル……さようなら!』
「シュウヘイーーー!」
ラウルが叫びながらケビンの後についてくる。
「馬鹿っ……ついてくんなよ」
「シュウヘイーーー!」
女王と兄がラウルを呼ぶ。
ケビンも速度をあげようか悩んでるみたいだ。
「ラウル、幸せになれよ!」
「シュウヘイ……」
ケビンの足に追いつけなくて、ラウルの姿が少しずつ小さくなっていく。
立ちつくして泣きながら俺の名前を呼ぶラウルは、涙でかすんでよく見えなかった。
「シュウヘイ、これあげる。ほんとうはラウルのたからものあげたかったけど、いまないからこれ」
『ラウル……』
「ラウルのたからもの、ちゃいろいとりの、なんこつペンダント。おなかがすいたらなめたりできる。しゅうへいにあげたかった」
ありがたいけどいらねー……。
『ラウル、これで大丈夫です。ありがとう』
俺はラウルから腕輪を受け取ると、左手につけてみた。思ったより軽くて邪魔にならない。
俺も何かラウルにあげられる物があればいいんだけどな。結局料理も作ってやれなかったし。悩んでいると、ラウルに飛びつかれて口をベロベロ舐められた。
女王様とオッサン達のもとに戻ると、三人と二匹は微妙な距離を保ちつつ俺達を待っていてくれた。
「ラウル、話は済んだか?」
「兄ちゃん、お別れ出来たかい?」
ラウルは女王様と兄に
「ラウルおとなになった」だの
「うでわあげた」だの
「おおきくなったらとおくにいく」
だの伝えていたが、とりあえず村に残るという選択をした事に、女王様と兄がホッとしているのが目に見えて分かった。
「兄ちゃん、さすがだな。どうやって説得したんだ?」
『怒りました』
「なるほどな~」
実際には「怒って泣いたら察してくれた」だけど恥ずかしくて言えない。
洗濯物が槍に干されてるのを見て、俺はそこからシャツを外した。
まだ生乾きだけど、これなら大きいからラウルがさらに成長しても入りそうだ。
『ラウル、これあげます』
そのシャツは土曜日の夜に、寒いかもしれないと思って適当にはおった一枚二千円もしない安物だ。
でもラウルはそのシャツをキラキラした目で見つめ、大事そうに受け取った。シャツに顔を埋め、くんくんと匂いを嗅いでいる。
「シュウヘイのにおいがする。ラウル、これいちばんのたからものにする」
……そんなに喜んでもらえてなんだか申し訳ないが、プレゼントってのは気持ちだからな。
「衣服をプレゼントとは、なかなかわきまえた男だな」
「若いのに末恐ろしい。弟をたらしこむだけの事はある」
女王様とラウル兄ちゃんの妙な会話が聞こえたけど無視する事にした。
そこへラウルの仲間の女性が何かを抱えて戻ってきた。
彼女も俺より背が高く、整った顔立ちに茶色いロングヘアでかなりのセクシー衣装を身につけている。村に入れなくて少し残念かも……。こんな美女たちにご飯とか食べさせてもらえるのなら、八年くらいここにいてもいいかな……。
「族長、これを」
仲間の美女に渡された包みを、女王様が開いて確認する。
中にはキラキラと輝く握りこぶし大の鉱石が入っていた。
「ラウルを救ってくれた礼だ。受け取ってくれ。売れば金になる」
価値が良く分からないが、いいのだろうか。悩んでいると押し付けられた。
「いいから受け取れ」
オッサンを見ると頷いている。
『ありがとうございます』
俺はその鉱石を再び包んでリュックに入れた。
もしかして、もうお別れかな……。
考えたくないが、オッサンはメアリーのもとに歩いて行ってるし、女王様とラウル兄ちゃんは、用が済んだのだからさっさと帰れ的な雰囲気を醸し出している。
俺は何となくラウルの顔が見られなかった。見たら泣きそうだ。
ゆっくりとケビンに近づき、座って待っていたケビンにまたがろうとした時、ラウルが背中に飛びついてきた。
「シュウヘイ!」
『ラウル、さようなら』
ぎゅうっと力を入れてしがみついているラウルの腕をしばらく撫で、俺はゆっくりと腕をほどいた。
振り返ると、ラウルはぼろぼろ泣いていた。
『元気でな』
もう一度ラウルを抱き寄せて頭を撫でる。
「シュウヘイ……」
『ありがとう』
何に対してのありがとうだろう。
多分、俺を好きになってくれて、が続くんだ。
俺はラウルからそっと離れ、ケビンにまたがった。
ケビンはゆっくりと立ち上がり、待っているオッサンとメアリーのもとに歩きだす。
「シュウへイ!」
『ラウル……さようなら!』
「シュウヘイーーー!」
ラウルが叫びながらケビンの後についてくる。
「馬鹿っ……ついてくんなよ」
「シュウヘイーーー!」
女王と兄がラウルを呼ぶ。
ケビンも速度をあげようか悩んでるみたいだ。
「ラウル、幸せになれよ!」
「シュウヘイ……」
ケビンの足に追いつけなくて、ラウルの姿が少しずつ小さくなっていく。
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