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月曜日、午後6時(ラウル編)
3 バーベキューは楽しい
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「さあ、たっぷり食べてくれ。久々の客で奮発したからな」
『ありがとう!』
満面の笑顔のオッサンと俺。俺の隣に警戒心むき出しのラウル。
三人の楽しい夕食が始まった。やはり野外でバーベキューは最高だ。肉の焼けるおいしそうな匂いがあたりに漂う。ラウルも鼻をピクピクさせている。オッサンが苦手でも食欲にはかなわないらしい。
ところでこれ、何の肉だろう?まさかこの動物村の動物じゃないよな。見た目は元の世界の肉と同じだ。野菜の方はとにかく色が鮮やかで大きい。例えばしいたけみたいな茸が直径三十センチはある。だが食べてしまえば味は変わらなかった。欲を言えば焼き肉のたれとご飯が欲しい。
『おいしい』
「そうかそうか、たんと食え」
ラウルを見ればちゃんとフォークを持ち肉を口に運んでいる。
目が合うと
「シュウヘイ、おいしい」
と笑った。
ラウルの笑顔を見てオッサンも嬉しそうだ。つなぎを踏まれるくらい嫌われているのに心の広い人だ。愛ってこういうものかもしれないな。
楽しいバーベキューで、俺は満腹になり心も満たされた。年齢は違っても男三人だから大量の食料はすぐになくなっていく。バーベキュー後半になると、近くの木の上に鳥がやってきて俺たちの肉を狙いはじめた。
「シュウヘイ、こわい」
ラウルは鳥を怖がって俺にしがみつく。異世界の鳥は俺も怖い。
「大丈夫だ。あいつらは人は食わないからな」
え、人を食う鳥がいるのか?
今からナイトサファリ気分で夜の動物村を見回ろうと思ったのに、そんな気分はなくなった。
『明日、俺、仕事?』
食器を片付けながら、オッサンに明日は何の仕事をしたらいいか聞いた。
今日だって仕事らしい事は何もできてないんだけどな。足の速い動物が借りられるくらいの労働はしないと。
「明日もラウルの世話を頼むよ」
う……。
ラウルの世話か。俺の貞操大丈夫かな。
動物村は入り口はすたれたテーマパーク風だが、中に入るとログハウスのような小屋が点在し、キャンプ場のようになっていた。大自然の中にあるキャンプ場だな。それに畑と飼育舎がくっついている。
オッサンが飼っているのは一部の小動物や、穏やかな性格の草食動物だけだ。それ以外の動物は大自然の中好きなように暮らしていて、たまにオッサンに餌をもらいに来るだけのようだ。
それでもオッサンは一人なのでいろいろと仕事があるらしい。小動物へ餌やりとか(これはすごく手伝いたかった)掃除とか建物の修理。
オッサンは一人でそれを全部している上に、趣味で茶碗を作ったりしている。
昔は王都で暮らしていたらしいが、今は人間関係と仕事に疲れて大自然の中一人で動物たちに癒されている毎日だそうだ。
そんなオッサンの話を、俺は新しい毛布を受け取りながら聞いた。血のついた布団をようやく取りかえられて満足だ。
ここに一人で寂しくないんだろうか。
『寂しい?』
聞きながらラウルのような言葉だと思ったが、オッサンはへらっと笑った。
「たまに友人が訪ねてくれるし、この年になると一人が気楽なものなんだ。兄ちゃんのようなサプライズ訪問者もいる事だしな」
そう言って俺の背中をバンバン叩く。
毛布を抱えたまま俺は黙った。もっと言葉が上手ければ、あれこれオッサンと話をしてみたいのに。
タバコをふかす動物好きのオッサンは、人生を達観しているような余裕と少しの哀愁がただよう横顔で、俺はちょっと見とれてしまった。
オッサンの生活している少し大きな木造の建物から出ると、ラウルが待ち構えていた。
「シュウヘイ、おそい!」
「お前も少し達観しろ」
無邪気に怒っているラウルは、まだ純粋で世の中の嫌な部分を知らない顔だ。オッサンにしてみれば、ラウルも俺もたいしてかわらないのかもしれない。
よしよしと頭を撫でてやると、ラウルは嬉しそうに尻尾を振った。
毛布を抱えてラウルのいた小屋に戻る。
わずかな距離だが、動物の鳴き声なんかが聞こえてきて少し怖い。一定の間隔で灯りがともっているので、かろうじて道がわかる。
「シュウヘイ、くらい」
俺もそう思っていたところだ。
「なにかこえがする」
きっとオッサンの飼ってる小動物の鳴き声だろ。ラウルは俺の背中にしがみついている。俺よりさらに怖がりだな。年上の俺がしっかりしないと。
ギャアギャア
アオーン
「!?」
突然鳥?や狼みたいな鳴き声が聞こえた。俺はラウルを引きずり猛ダッシュで小屋に戻った。
「ハアハア、怖かった……」
「シュウヘイ、もうだいじょうぶ」
ラウルが慰めるように俺の肩を撫でた。
もしかして俺の方がラウルよりヘタレなのか?いや、肉食獣は怖い。俺は間違ってない。
気を取り直して、俺は小屋の戸締まりをした。干していた服は乾いている。
あらためて見るが、何もない部屋だ。テレビがないのは辛いな。サッカー中継とか見たいのに。もし一週間後に間に合わなかったらずっと見られないのか。続きを楽しみにしていたマンガも、ゲームの続きも八年後だ。
「シュウヘイ?」
俺が考えこんでいたので、ラウルが心配そうに俺の顔を覗きこむ。
「お前とももう少し一緒にいてやりたいけどな」
ラウルを撫でてやると、俺の首に腕を回してきた。心配だな、こいつ。一人にしたら泣きそうだな。でも、タイムリミットは一週間しかないし。いや、もう五日後か。
「ラウル、強く生きろよ」
俺もだけど。
ラウルを撫でてから、俺は持ち歩いていた袋を開けた。携帯の時刻は8時5分。寝るには早いな。ガイドブックを見て言葉の練習でもするか。
『できません』
『分かりません』
『知りません』
『痛いので無理です』
俺が言葉の練習をしている間、ラウルは暇そうに持ってきた毛布を引っ張ったり匂いを嗅いだりしている。
こっちの言葉は日本語と同じ順番なのでその点は楽だ。否定文はワンパターンだし、疑問文は語尾を上げればいいだけ。
あとは単語さえ覚えれば簡単な会話はどうにかなりそうな気がする。その単語が大量で覚えられないんだけどな。せめて片言のラウルくらいには上達したい。
しばらくブツブツ言いながら発音の練習をしていると、ラウルが一人遊びに飽きたのか俺のそばにやってきた。
「シュウヘイ、あそんで」
来たな、遊んで攻撃。
『無理です』
「ラウル、たいくつ」
『私は忙しいです』
「シュウヘイ、これぬいで」
『寒いです』
「ラウル、あたためる」
『今、言葉の勉強中です』
「シュウヘイ、ラウルとあいつ、どっちすき?」
うっ、本物の会話はガイドブックの例題文より全然難しいぞ。
「どっちすき?ラウル、シュウヘイすき。シュウヘイ、あいつのふくきてる。ラウルよりあいつすき?」
ラウルが俺の服を引っぱる。お前は彼女か!
彼女には言われた事なかったけどな。
それらしい単語を探すが、こういう時角が立たないような言葉ってなんて言ったらいいんだ?
俺はガイドブックの後ろの方に、妙なコーナーを発見した。
《現地の人とコミュニケーションを取ろう!
①ナンパしたい時には?
②告白したい時、された時
③結婚の申し込み
④遊びの関係を続けたい時
⑤別れたい時
上手にコミュニケーションをとって旅をエンジョイ!》
どんな旅を想定してんだよ……。でも役に立つな。
俺は②の告白したい時、された時のページをめくってみた。
「シュウヘイ?」
あったあった、告白された時の対応文。
『俺も初めて会った時からずっとお前の事が』
違うぞ、これ。
『まずは友達からお願いします』
うーん……これか?
『一人なんて選べない。俺は全ての相手と仲良くしたいんだよ』
これかも。でもこのセリフ……。
「シュウヘイ!」
ラウルがあきらかに怒って俺に飛びついてきた。やばい、声に出ていたみたいだ。ラウルにとって「仲良し」は「交尾」の事だった。
『ありがとう!』
満面の笑顔のオッサンと俺。俺の隣に警戒心むき出しのラウル。
三人の楽しい夕食が始まった。やはり野外でバーベキューは最高だ。肉の焼けるおいしそうな匂いがあたりに漂う。ラウルも鼻をピクピクさせている。オッサンが苦手でも食欲にはかなわないらしい。
ところでこれ、何の肉だろう?まさかこの動物村の動物じゃないよな。見た目は元の世界の肉と同じだ。野菜の方はとにかく色が鮮やかで大きい。例えばしいたけみたいな茸が直径三十センチはある。だが食べてしまえば味は変わらなかった。欲を言えば焼き肉のたれとご飯が欲しい。
『おいしい』
「そうかそうか、たんと食え」
ラウルを見ればちゃんとフォークを持ち肉を口に運んでいる。
目が合うと
「シュウヘイ、おいしい」
と笑った。
ラウルの笑顔を見てオッサンも嬉しそうだ。つなぎを踏まれるくらい嫌われているのに心の広い人だ。愛ってこういうものかもしれないな。
楽しいバーベキューで、俺は満腹になり心も満たされた。年齢は違っても男三人だから大量の食料はすぐになくなっていく。バーベキュー後半になると、近くの木の上に鳥がやってきて俺たちの肉を狙いはじめた。
「シュウヘイ、こわい」
ラウルは鳥を怖がって俺にしがみつく。異世界の鳥は俺も怖い。
「大丈夫だ。あいつらは人は食わないからな」
え、人を食う鳥がいるのか?
今からナイトサファリ気分で夜の動物村を見回ろうと思ったのに、そんな気分はなくなった。
『明日、俺、仕事?』
食器を片付けながら、オッサンに明日は何の仕事をしたらいいか聞いた。
今日だって仕事らしい事は何もできてないんだけどな。足の速い動物が借りられるくらいの労働はしないと。
「明日もラウルの世話を頼むよ」
う……。
ラウルの世話か。俺の貞操大丈夫かな。
動物村は入り口はすたれたテーマパーク風だが、中に入るとログハウスのような小屋が点在し、キャンプ場のようになっていた。大自然の中にあるキャンプ場だな。それに畑と飼育舎がくっついている。
オッサンが飼っているのは一部の小動物や、穏やかな性格の草食動物だけだ。それ以外の動物は大自然の中好きなように暮らしていて、たまにオッサンに餌をもらいに来るだけのようだ。
それでもオッサンは一人なのでいろいろと仕事があるらしい。小動物へ餌やりとか(これはすごく手伝いたかった)掃除とか建物の修理。
オッサンは一人でそれを全部している上に、趣味で茶碗を作ったりしている。
昔は王都で暮らしていたらしいが、今は人間関係と仕事に疲れて大自然の中一人で動物たちに癒されている毎日だそうだ。
そんなオッサンの話を、俺は新しい毛布を受け取りながら聞いた。血のついた布団をようやく取りかえられて満足だ。
ここに一人で寂しくないんだろうか。
『寂しい?』
聞きながらラウルのような言葉だと思ったが、オッサンはへらっと笑った。
「たまに友人が訪ねてくれるし、この年になると一人が気楽なものなんだ。兄ちゃんのようなサプライズ訪問者もいる事だしな」
そう言って俺の背中をバンバン叩く。
毛布を抱えたまま俺は黙った。もっと言葉が上手ければ、あれこれオッサンと話をしてみたいのに。
タバコをふかす動物好きのオッサンは、人生を達観しているような余裕と少しの哀愁がただよう横顔で、俺はちょっと見とれてしまった。
オッサンの生活している少し大きな木造の建物から出ると、ラウルが待ち構えていた。
「シュウヘイ、おそい!」
「お前も少し達観しろ」
無邪気に怒っているラウルは、まだ純粋で世の中の嫌な部分を知らない顔だ。オッサンにしてみれば、ラウルも俺もたいしてかわらないのかもしれない。
よしよしと頭を撫でてやると、ラウルは嬉しそうに尻尾を振った。
毛布を抱えてラウルのいた小屋に戻る。
わずかな距離だが、動物の鳴き声なんかが聞こえてきて少し怖い。一定の間隔で灯りがともっているので、かろうじて道がわかる。
「シュウヘイ、くらい」
俺もそう思っていたところだ。
「なにかこえがする」
きっとオッサンの飼ってる小動物の鳴き声だろ。ラウルは俺の背中にしがみついている。俺よりさらに怖がりだな。年上の俺がしっかりしないと。
ギャアギャア
アオーン
「!?」
突然鳥?や狼みたいな鳴き声が聞こえた。俺はラウルを引きずり猛ダッシュで小屋に戻った。
「ハアハア、怖かった……」
「シュウヘイ、もうだいじょうぶ」
ラウルが慰めるように俺の肩を撫でた。
もしかして俺の方がラウルよりヘタレなのか?いや、肉食獣は怖い。俺は間違ってない。
気を取り直して、俺は小屋の戸締まりをした。干していた服は乾いている。
あらためて見るが、何もない部屋だ。テレビがないのは辛いな。サッカー中継とか見たいのに。もし一週間後に間に合わなかったらずっと見られないのか。続きを楽しみにしていたマンガも、ゲームの続きも八年後だ。
「シュウヘイ?」
俺が考えこんでいたので、ラウルが心配そうに俺の顔を覗きこむ。
「お前とももう少し一緒にいてやりたいけどな」
ラウルを撫でてやると、俺の首に腕を回してきた。心配だな、こいつ。一人にしたら泣きそうだな。でも、タイムリミットは一週間しかないし。いや、もう五日後か。
「ラウル、強く生きろよ」
俺もだけど。
ラウルを撫でてから、俺は持ち歩いていた袋を開けた。携帯の時刻は8時5分。寝るには早いな。ガイドブックを見て言葉の練習でもするか。
『できません』
『分かりません』
『知りません』
『痛いので無理です』
俺が言葉の練習をしている間、ラウルは暇そうに持ってきた毛布を引っ張ったり匂いを嗅いだりしている。
こっちの言葉は日本語と同じ順番なのでその点は楽だ。否定文はワンパターンだし、疑問文は語尾を上げればいいだけ。
あとは単語さえ覚えれば簡単な会話はどうにかなりそうな気がする。その単語が大量で覚えられないんだけどな。せめて片言のラウルくらいには上達したい。
しばらくブツブツ言いながら発音の練習をしていると、ラウルが一人遊びに飽きたのか俺のそばにやってきた。
「シュウヘイ、あそんで」
来たな、遊んで攻撃。
『無理です』
「ラウル、たいくつ」
『私は忙しいです』
「シュウヘイ、これぬいで」
『寒いです』
「ラウル、あたためる」
『今、言葉の勉強中です』
「シュウヘイ、ラウルとあいつ、どっちすき?」
うっ、本物の会話はガイドブックの例題文より全然難しいぞ。
「どっちすき?ラウル、シュウヘイすき。シュウヘイ、あいつのふくきてる。ラウルよりあいつすき?」
ラウルが俺の服を引っぱる。お前は彼女か!
彼女には言われた事なかったけどな。
それらしい単語を探すが、こういう時角が立たないような言葉ってなんて言ったらいいんだ?
俺はガイドブックの後ろの方に、妙なコーナーを発見した。
《現地の人とコミュニケーションを取ろう!
①ナンパしたい時には?
②告白したい時、された時
③結婚の申し込み
④遊びの関係を続けたい時
⑤別れたい時
上手にコミュニケーションをとって旅をエンジョイ!》
どんな旅を想定してんだよ……。でも役に立つな。
俺は②の告白したい時、された時のページをめくってみた。
「シュウヘイ?」
あったあった、告白された時の対応文。
『俺も初めて会った時からずっとお前の事が』
違うぞ、これ。
『まずは友達からお願いします』
うーん……これか?
『一人なんて選べない。俺は全ての相手と仲良くしたいんだよ』
これかも。でもこのセリフ……。
「シュウヘイ!」
ラウルがあきらかに怒って俺に飛びついてきた。やばい、声に出ていたみたいだ。ラウルにとって「仲良し」は「交尾」の事だった。
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