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土曜日、午後11時30分
4 赤い光
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「おいぃ!あと二分で午前零時じゃねーか!」
「そうだな」
「分かった!キスする!だからさっさと出ようぜ!」
午前零時、廃屋にいていい時間じゃない。良い子は寝る時間だ。俺は立ち上がりかけて、再び康哉に押さえ込まれた。
「修平……」
「いや、時間ないから外で……」
だが、間近で見た康哉の顔は俺の思考を停止させるに十分だった。何だ、こいつの尋常じゃない色気は。
「やっぱりお前が好きだ……」
康哉は俺の耳元でそう囁く。
聞きなれたその声が、全く別の物に思えて俺は体を固くした。
「おい……康哉」
「どんな女と付き合っても駄目だった。お前以上の奴なんていない」
康哉はそう言って俺の頬を撫でる。
「……こ」
康哉、と言いかけた俺の唇に何か柔らかい物が触れた。
!?
うわーっ!俺!男にキスされてる!
それも康哉に!
焦ってぎゅっと唇をかたく結ぶ。
康哉は俺の唇をぺろりと舐め、ついばみ、俺のまぶたや頬や額にもキスを落としていく。
俺は感じた事のない感覚に逆らおうと必死だった。
「修平……」
甘い声、ってこういう声を言うんだろうな。そんな声で名前を呼ばれ、思わず目を開けると、びっくりするほど真剣な康哉の顔があった。
「あー……やばい。俺、キスだけじゃ我慢できないかも」
「はあ!?」
口を開いたのは失敗だった。
康哉はその隙を見逃さず、俺の唇に再び自分の唇を押し当てると、すぐに舌を絡めてきた。
「んっ……う……」
口の中を、熱を持った舌に蹂躙される。俺はキスは初めてじゃなかったが、こんなキスは初めてだった。
いつだって女の子相手にする時は、俺が夢中になって、相手はそれほどでもなくて、キスした後、妙に白けた空気になったりすることもあった。だけど、これは…。今までにしてきたキスとは全然違う。技術の差なのか?
くちゅ、くちゅ、と音が聞こえて羞恥に顔が赤く染まる。
最初押しのけようとしていた腕も、力なく康哉の肩に置かれたままで、まるで俺から誘ってるみたいなポーズになってる。触っている部分の体温がひどく熱い。脳がしびれるような快感に俺は断続的に襲われていた。舌を吸われるのが、これほど気持ちいいと思わなかった。
康哉の息と舌使いと体温に体が翻弄される。何も考えられない。
「んっ……こう、や」
ようやく顔を上げた康哉は、肉食獣のような目で俺を見下ろした。
「修平……俺は女じゃなくて男が好きなんだよ。お前の事も、ずっとそんな目で見てた」
俺は自由になった口で息をするので精いっぱいだった。
「軽蔑したか?」
軽蔑なんて……するはずない。
だが、気持ち良かったですとも言えず(言えば確実に襲われる)俺は康哉から視線をそらした。康哉を押しのけようと腕に力をいれようとして。
そして、異変に気付いた。
部屋が赤く光ってる。ほのかに。
「こう……」
康哉も気づいたらしい。床に描かれた魔方陣と呼べそうな代物が、赤く光っていた。
俺は押しのけようとしていたのも忘れ、康哉にしがみついた。
「ひ、光ってる!何だこれ!冗談だろ!?」
「午前零時五分だ」
康哉の冷静な声がする。
「逃げよう!」
だが康哉は立ち上がると、ひとりで魔方陣の方に足を踏み出した。
「悪魔でも出てくるのかな?どう思う?修平」
「やめろ、すげえ嫌な予感がする」
俺は康哉に手を伸ばした。怖くて魔方陣の中に入れる気がしなかった。
ここから出ないと、そして康哉も連れて逃げないと、と強く思った。俺の勘、大体当たるんだ。人生、勘とリアクションで生きてきた男だからな。
「どうやって光ってるんだ?まるで下から照らされてるみたいだ」
康哉は俺が止めるのも聞かず、魔方陣の中央に立ち止まると、そのまま下を覗き込む。
「康哉!」
俺の声に康哉が顔を上げた瞬間、赤い光が部屋中を満たしていた。
***
気がついた時、俺は部屋に一人取り残されていた。魔方陣はまだ赤く光っている。だが、康哉の姿はどこにもない。
「こ……康哉!!」
叫んだが返事はなかった。
「ど……どこに行ったんだよ!康哉!」
廃屋だから床下に落ちたのか?
そう思ったが、床に穴があいてるようには見えない。いや、手の込んだ仕掛けがしてあってもおかしくない。俺は必死にそう思おうとした。
もしかしたらこれはドッキリで、康哉は最初から俺を驚かそうとここに連れてきたのかもしれない。そして手品の仕掛けみたいなもので床下か別の部屋に消える。
あのキスと告白は本気のような気がしたけど、何しろ小学校の時、学芸会でカリスマ俳優のような演技を見せつけた男だからな。きっとどこかに隠しカメラがあるんだ。俺がうろたえるのを仲間と別室で見ているに違いない。
「……康哉!俺の負けだ!完全に騙された。だから出てきてくれ!」
しばらく待っても返事はなかった。
魔方陣の赤い光が少しずつ小さくなっていく。もしかしたら、もう二度と親友に会えないかもしれない。ドッキリであってくれたらどんなにいいか。
俺は首を振って立ち上がると、覚悟を決めて魔方陣の中に足を踏み入れた。
何があっても……最悪の場合このまま宇宙人に連れ去られるとしても、ここで康哉を見捨てるという選択肢は俺にはなかった。
部屋は再び赤い光に包まれた。
「そうだな」
「分かった!キスする!だからさっさと出ようぜ!」
午前零時、廃屋にいていい時間じゃない。良い子は寝る時間だ。俺は立ち上がりかけて、再び康哉に押さえ込まれた。
「修平……」
「いや、時間ないから外で……」
だが、間近で見た康哉の顔は俺の思考を停止させるに十分だった。何だ、こいつの尋常じゃない色気は。
「やっぱりお前が好きだ……」
康哉は俺の耳元でそう囁く。
聞きなれたその声が、全く別の物に思えて俺は体を固くした。
「おい……康哉」
「どんな女と付き合っても駄目だった。お前以上の奴なんていない」
康哉はそう言って俺の頬を撫でる。
「……こ」
康哉、と言いかけた俺の唇に何か柔らかい物が触れた。
!?
うわーっ!俺!男にキスされてる!
それも康哉に!
焦ってぎゅっと唇をかたく結ぶ。
康哉は俺の唇をぺろりと舐め、ついばみ、俺のまぶたや頬や額にもキスを落としていく。
俺は感じた事のない感覚に逆らおうと必死だった。
「修平……」
甘い声、ってこういう声を言うんだろうな。そんな声で名前を呼ばれ、思わず目を開けると、びっくりするほど真剣な康哉の顔があった。
「あー……やばい。俺、キスだけじゃ我慢できないかも」
「はあ!?」
口を開いたのは失敗だった。
康哉はその隙を見逃さず、俺の唇に再び自分の唇を押し当てると、すぐに舌を絡めてきた。
「んっ……う……」
口の中を、熱を持った舌に蹂躙される。俺はキスは初めてじゃなかったが、こんなキスは初めてだった。
いつだって女の子相手にする時は、俺が夢中になって、相手はそれほどでもなくて、キスした後、妙に白けた空気になったりすることもあった。だけど、これは…。今までにしてきたキスとは全然違う。技術の差なのか?
くちゅ、くちゅ、と音が聞こえて羞恥に顔が赤く染まる。
最初押しのけようとしていた腕も、力なく康哉の肩に置かれたままで、まるで俺から誘ってるみたいなポーズになってる。触っている部分の体温がひどく熱い。脳がしびれるような快感に俺は断続的に襲われていた。舌を吸われるのが、これほど気持ちいいと思わなかった。
康哉の息と舌使いと体温に体が翻弄される。何も考えられない。
「んっ……こう、や」
ようやく顔を上げた康哉は、肉食獣のような目で俺を見下ろした。
「修平……俺は女じゃなくて男が好きなんだよ。お前の事も、ずっとそんな目で見てた」
俺は自由になった口で息をするので精いっぱいだった。
「軽蔑したか?」
軽蔑なんて……するはずない。
だが、気持ち良かったですとも言えず(言えば確実に襲われる)俺は康哉から視線をそらした。康哉を押しのけようと腕に力をいれようとして。
そして、異変に気付いた。
部屋が赤く光ってる。ほのかに。
「こう……」
康哉も気づいたらしい。床に描かれた魔方陣と呼べそうな代物が、赤く光っていた。
俺は押しのけようとしていたのも忘れ、康哉にしがみついた。
「ひ、光ってる!何だこれ!冗談だろ!?」
「午前零時五分だ」
康哉の冷静な声がする。
「逃げよう!」
だが康哉は立ち上がると、ひとりで魔方陣の方に足を踏み出した。
「悪魔でも出てくるのかな?どう思う?修平」
「やめろ、すげえ嫌な予感がする」
俺は康哉に手を伸ばした。怖くて魔方陣の中に入れる気がしなかった。
ここから出ないと、そして康哉も連れて逃げないと、と強く思った。俺の勘、大体当たるんだ。人生、勘とリアクションで生きてきた男だからな。
「どうやって光ってるんだ?まるで下から照らされてるみたいだ」
康哉は俺が止めるのも聞かず、魔方陣の中央に立ち止まると、そのまま下を覗き込む。
「康哉!」
俺の声に康哉が顔を上げた瞬間、赤い光が部屋中を満たしていた。
***
気がついた時、俺は部屋に一人取り残されていた。魔方陣はまだ赤く光っている。だが、康哉の姿はどこにもない。
「こ……康哉!!」
叫んだが返事はなかった。
「ど……どこに行ったんだよ!康哉!」
廃屋だから床下に落ちたのか?
そう思ったが、床に穴があいてるようには見えない。いや、手の込んだ仕掛けがしてあってもおかしくない。俺は必死にそう思おうとした。
もしかしたらこれはドッキリで、康哉は最初から俺を驚かそうとここに連れてきたのかもしれない。そして手品の仕掛けみたいなもので床下か別の部屋に消える。
あのキスと告白は本気のような気がしたけど、何しろ小学校の時、学芸会でカリスマ俳優のような演技を見せつけた男だからな。きっとどこかに隠しカメラがあるんだ。俺がうろたえるのを仲間と別室で見ているに違いない。
「……康哉!俺の負けだ!完全に騙された。だから出てきてくれ!」
しばらく待っても返事はなかった。
魔方陣の赤い光が少しずつ小さくなっていく。もしかしたら、もう二度と親友に会えないかもしれない。ドッキリであってくれたらどんなにいいか。
俺は首を振って立ち上がると、覚悟を決めて魔方陣の中に足を踏み入れた。
何があっても……最悪の場合このまま宇宙人に連れ去られるとしても、ここで康哉を見捨てるという選択肢は俺にはなかった。
部屋は再び赤い光に包まれた。
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