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結婚式
14 やっと帰って来た
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『毒なんて盛ってない。身体が重いのは自分のせいです。部下や知り合いを自分の欲のために犠牲にしてきたから』
「黙れ! 無能な異世界人め……お前に王太子妃という位は相応しくない」
『プライベートエリアにいるせいで、お前に取り憑いてる人たちが力を増してる。死にたくなかったら、下の階に引っ越した方がいい』
「出て行くのはお前の方だ……!」
「ミサキ様、もう行きましょう」
ポリムに手を引かれて、真っ暗な宮殿を出た。言いたいことはいろいろあったのに、結局助言みたいなことしか言えなかった。相変わらず大嫌いだけど、あのままにしておくと近いうちに絶対に死ぬだろうという確信があった。どんなに嫌いでも殺したくないし、あんなところで亡くなって地縛霊にでもなったら迷惑すぎる。
「なんて無礼な方なんでしょう! 言いがかりも甚だしいですわ。ミサキ様は先ほど帰って来たばかりなのに毒を盛っているとか。回復魔法が使えるのに、王子様の気を引くために仮病まで使って大騒ぎして」
そういえばポリムも侍女たちもフィオネさんも、あの黒いのが見えていないんだよな。だからエルヴィンが何をしても仮病に見えるんだろうな。
「エルヴィンは他の者が監視しておりますので、ミサキ様はお気になさらずお部屋へどうぞ」
『ありがとう』
***
久々に戻ってきたルーシェンの住居は全てが懐かしかった。俺が持ち込んだマンガも部屋着もきちんと整理されて置かれている。初めて住んだ時に落ち着かなかった天井や壁のないルーシェンの寝室も、寝転がって空を見上げたら嬉しくて、やっと帰って来た実感が湧いた。
しばらくしたら治療師さんがやって来て、あれこれ健康チェックを受ける。それが終わると入浴。追い立てられるように大勢の侍女や侍従に世話をやかれて、久々にプライバシーゼロ体験を味わった。婚約旅行の時はいろいろあったけど、一人の時間も多かったんだと今更ながら気づいた。
お風呂上がりに着替え終わってソファーでくつろいでいると、フィオネさんがやって来てこれからのスケジュールを教えてくれる。
「日没までには王子が帰ってこられます。夕食はその時間にとられる予定ですが、ミサキ様が空腹でしたら何か軽食をご準備いたします。その後はお早めに就寝なさってください。明日は早朝から結婚の儀式がございます」
『結婚式って、ルーシェンと二人でするんですよね?』
「そうです。お二人で魔法陣を使い、上空にある離宮で儀式を行っていただきます。王子から三日は離宮に滞在すると仰せつかっております。お食事などはすべてこちらで用意しておりますので、何もご心配なさらぬよう」
儀式って何をするんだろう。指輪の交換? 何も用意してないけど。
『何か準備しておいた方がいいことありますか?』
「何もございません。いつも通りでよろしいと思います」
そうなのか。契約って言ってたから、魔法の呪文でも唱えてサインでもするのかな。
そんなふうに考えていたけど、この考えはあながち間違ってはいなかった。
フィオネさんに軽食を頼み、持ってきてもらったパンをかじりながら俺あての手紙や報告書に目を通す。いつもルーシェンにしかこなかった報告書が、今回から俺にも来ていたのには驚いた。それは各国から送られてくるプレゼントの目録とか、俺のグッズの売り上げ報告だとか。恐ろしいことにけっこう売れていて、緑水湖や周辺の街からも買いに来る人がいるのだとか。嘘みたいな話だ。
さらにファンクラブの代表という人物から挨拶文と活動報告が来ていた。俺のファンって、いったいどこが好きでファンになるんだろう。返事書いた方がいいのかな。
日没過ぎまで報告書を読んだり、ポリムや侍女たちと散歩したりしてのんびりした時間を過ごす。時々エルヴィンの住む建物を眺めて、相変わらず真っ黒な様子に憂鬱な気分にはなったけど。
日が沈んでしばらくした頃、ルーシェンが帰って来た。
「おかえりなさいませ」
『おかえりなさいませ』
侍女たちに倣って同じように整列して挨拶すると、ルーシェンが俺を見つけて抱きしめてくれた。
「シュウヘイ、遅くなった」
『お疲れ様でした。ご飯にしますか? それともお風呂?』
「シュウヘイは入浴はすませたのか?」
『お風呂は入りました。ご飯はまだです』
「では先に食事にするか」
夕食はいつものようにルーシェンの居住区の建物の一階でとり、ルーシェンから壊れた橋や水没した地下道の被害状況を聞く。橋が治るまでしばらくかかりそうだけど、湖面が穏やかになったのでみんな船で移動しているらしい。地下道もかなり水が引いて、もうすぐ元通りになるそうだ。
「みなシュウヘイが戻ってきたことを喜んでいた」
『そうなんですか?』
「ああ。シュウヘイが王宮の守り神の怒りを鎮めてくれたと知っているからな」
原因を作ったのも俺のような気がするけど、国民に嫌われてなくて良かった。守り神の存在は見えなくてもみんな信じてるんだな。
「黙れ! 無能な異世界人め……お前に王太子妃という位は相応しくない」
『プライベートエリアにいるせいで、お前に取り憑いてる人たちが力を増してる。死にたくなかったら、下の階に引っ越した方がいい』
「出て行くのはお前の方だ……!」
「ミサキ様、もう行きましょう」
ポリムに手を引かれて、真っ暗な宮殿を出た。言いたいことはいろいろあったのに、結局助言みたいなことしか言えなかった。相変わらず大嫌いだけど、あのままにしておくと近いうちに絶対に死ぬだろうという確信があった。どんなに嫌いでも殺したくないし、あんなところで亡くなって地縛霊にでもなったら迷惑すぎる。
「なんて無礼な方なんでしょう! 言いがかりも甚だしいですわ。ミサキ様は先ほど帰って来たばかりなのに毒を盛っているとか。回復魔法が使えるのに、王子様の気を引くために仮病まで使って大騒ぎして」
そういえばポリムも侍女たちもフィオネさんも、あの黒いのが見えていないんだよな。だからエルヴィンが何をしても仮病に見えるんだろうな。
「エルヴィンは他の者が監視しておりますので、ミサキ様はお気になさらずお部屋へどうぞ」
『ありがとう』
***
久々に戻ってきたルーシェンの住居は全てが懐かしかった。俺が持ち込んだマンガも部屋着もきちんと整理されて置かれている。初めて住んだ時に落ち着かなかった天井や壁のないルーシェンの寝室も、寝転がって空を見上げたら嬉しくて、やっと帰って来た実感が湧いた。
しばらくしたら治療師さんがやって来て、あれこれ健康チェックを受ける。それが終わると入浴。追い立てられるように大勢の侍女や侍従に世話をやかれて、久々にプライバシーゼロ体験を味わった。婚約旅行の時はいろいろあったけど、一人の時間も多かったんだと今更ながら気づいた。
お風呂上がりに着替え終わってソファーでくつろいでいると、フィオネさんがやって来てこれからのスケジュールを教えてくれる。
「日没までには王子が帰ってこられます。夕食はその時間にとられる予定ですが、ミサキ様が空腹でしたら何か軽食をご準備いたします。その後はお早めに就寝なさってください。明日は早朝から結婚の儀式がございます」
『結婚式って、ルーシェンと二人でするんですよね?』
「そうです。お二人で魔法陣を使い、上空にある離宮で儀式を行っていただきます。王子から三日は離宮に滞在すると仰せつかっております。お食事などはすべてこちらで用意しておりますので、何もご心配なさらぬよう」
儀式って何をするんだろう。指輪の交換? 何も用意してないけど。
『何か準備しておいた方がいいことありますか?』
「何もございません。いつも通りでよろしいと思います」
そうなのか。契約って言ってたから、魔法の呪文でも唱えてサインでもするのかな。
そんなふうに考えていたけど、この考えはあながち間違ってはいなかった。
フィオネさんに軽食を頼み、持ってきてもらったパンをかじりながら俺あての手紙や報告書に目を通す。いつもルーシェンにしかこなかった報告書が、今回から俺にも来ていたのには驚いた。それは各国から送られてくるプレゼントの目録とか、俺のグッズの売り上げ報告だとか。恐ろしいことにけっこう売れていて、緑水湖や周辺の街からも買いに来る人がいるのだとか。嘘みたいな話だ。
さらにファンクラブの代表という人物から挨拶文と活動報告が来ていた。俺のファンって、いったいどこが好きでファンになるんだろう。返事書いた方がいいのかな。
日没過ぎまで報告書を読んだり、ポリムや侍女たちと散歩したりしてのんびりした時間を過ごす。時々エルヴィンの住む建物を眺めて、相変わらず真っ黒な様子に憂鬱な気分にはなったけど。
日が沈んでしばらくした頃、ルーシェンが帰って来た。
「おかえりなさいませ」
『おかえりなさいませ』
侍女たちに倣って同じように整列して挨拶すると、ルーシェンが俺を見つけて抱きしめてくれた。
「シュウヘイ、遅くなった」
『お疲れ様でした。ご飯にしますか? それともお風呂?』
「シュウヘイは入浴はすませたのか?」
『お風呂は入りました。ご飯はまだです』
「では先に食事にするか」
夕食はいつものようにルーシェンの居住区の建物の一階でとり、ルーシェンから壊れた橋や水没した地下道の被害状況を聞く。橋が治るまでしばらくかかりそうだけど、湖面が穏やかになったのでみんな船で移動しているらしい。地下道もかなり水が引いて、もうすぐ元通りになるそうだ。
「みなシュウヘイが戻ってきたことを喜んでいた」
『そうなんですか?』
「ああ。シュウヘイが王宮の守り神の怒りを鎮めてくれたと知っているからな」
原因を作ったのも俺のような気がするけど、国民に嫌われてなくて良かった。守り神の存在は見えなくてもみんな信じてるんだな。
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