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13 旅のしおり

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「どうした? シュウヘイ」

 砦に用意されていたルーシェンの部屋のベッドに潜り込んでごろごろしていたら、挨拶を終えたルーシェンがいつの間にか戻ってきていた。

『あっ、いや……なんでもないです』

 私が使っていた寝心地のいいベッドですとかなんとかエルヴィンが言ってたので、ルーシェンが使う前に一度俺が使っといてやろうと思って寝転がってただけなんです、とは言えない。
 俺もたいがい独占欲が強いな。でもエルヴィンの眠ってたベッドをルーシェンがすぐに使うのが嫌だったんだよな。

「明け方近くまで起きていたから眠くなったんだろう。少し仮眠でも取るか?」

 『大丈夫です。朝ごはん食べたら雲の谷へ出発ですよね?』
「そうだな……」

 寝転がっていた俺に覆い被さるようにして、ルーシェンが抱きしめてくる。いつも体重をかけないように気を使ってくれるルーシェンなのに、今日は少し重い。全身で寄りかかられてる感じだ。

『ルーシェン……』
「離れたくない」

 俺の肩に顔を埋めて泣き言みたいに呟く。いつも毅然としてるルーシェンだから、俺がいないと誰にも弱みを見せられなくてつらいだろうな。

「……酷い婚約旅行になってすまない」

 謝るルーシェンの背中をぽんぽんと撫でた。

『ルーシェン、一生そばにいるって言いましたよね? だったら何ヶ月か離れているくらいで悲しまないでください。花粉がおさまったらまたすぐに会えます。花粉だってシロが味方してくれるからすぐにおさまります。何もかももとに戻ったら、また婚約旅行の続きしましょう』

 ルーシェンは俺の言葉に顔を上げて微笑んだ。

「やはりシュウヘイは強いな。俺にはかなわない」
『心臓を治して戻ってくるので、待っててください。あ、でも寂しくても寝室に他の人を入れちゃダメですよ』
「分かった」
『それから身の回りの事はフィオネさんか自分でしてください。お節介な部下が何か言ってきても断ってください』

 しつこく言っているとルーシェンが笑い出した。

「分かってる。俺にはシュウヘイしかいないから、そんなに心配するな」

 まだ何か言おうと思ったけど、ルーシェンに唇をふさがれた。そのまま息も出来ないほど激しい口付けを落とされる。
 俺も本当は離れたくないし、寂しいし不安だ。だけどキスしてる間だけは辛い事を考えずにすむから夢中になってそれに応えた。



「王子、朝食の用意が整いましたが、いかがいたしますか?」

 譲二さんが部屋の外から声をかけてきたので、二人して仕方なくベッドから起き上がる。

「すぐに向かう」

 答えたルーシェンは、さっきまで泣き言を言ってたとは思えないほど王子様の顔をしていた。俺はこの王子様をしてる仕事人間のルーシェンも大好きだから、怖がってばかりいないで今俺にできる事をして、全力で支えるしかない。

***

 朝食は砦の宴会場みたいな場所でとることになってた。
 一段高い場所にルーシェンと俺の席があって、左右にエルヴィンやアークさん達の座る席がある。
 形だけみれば赤砂の街の宴会場みたいだけど、それと違うのは食事が比較的質素な事と、音楽や踊りが無くて、挨拶に来るのがみんな砦の兵士や魔法使いだらけな事だった。

「王子、遅くなりましたが周辺の村の避難は完了いたしました」

 ロベルトさんが渡した地図と報告書を見て指示を出しながら、同時に運ばれてくる朝食をとるルーシェン。こういうのは一種の才能だな。
 ロベルトさんはちょっと疲れている様子だけど、いつもよりピリピリした空気をまとってる。
 ロベルトさん以外にもいろんな兵士が待っていて避難した村人の食料の采配や、出現した魔物、隣国の戦況などの報告を上げてくる。
 そういう俺も、ルーシェンとは別の報告を受けていてそれを理解するのに必死だった。

「ミサキ様、雲の谷までご一緒いたしますので、分からない事はなんでもお聞きください」
『如月!』

 俺に挨拶しに来たのは、赤砂の街以来の如月だ。いつもの営業マンみたいな服装じゃなくて、もっと魔法使いっぽい服を着ていた。

「こちらをどうぞ」

 如月から受け取った報告書? には日本語で『旅のしおり』と書かれていた。中を開くと

1 雲の谷ってどんな所?
2 花粉の影響あれこれ
3 緊急時の対応

 などの目次が並んでいる。最後のページにはメモを書き込める場所まである。さすが如月だ。助かる。






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