131 / 209
砦
13 旅のしおり
しおりを挟む
「どうした? シュウヘイ」
砦に用意されていたルーシェンの部屋のベッドに潜り込んでごろごろしていたら、挨拶を終えたルーシェンがいつの間にか戻ってきていた。
『あっ、いや……なんでもないです』
私が使っていた寝心地のいいベッドですとかなんとかエルヴィンが言ってたので、ルーシェンが使う前に一度俺が使っといてやろうと思って寝転がってただけなんです、とは言えない。
俺もたいがい独占欲が強いな。でもエルヴィンの眠ってたベッドをルーシェンがすぐに使うのが嫌だったんだよな。
「明け方近くまで起きていたから眠くなったんだろう。少し仮眠でも取るか?」
『大丈夫です。朝ごはん食べたら雲の谷へ出発ですよね?』
「そうだな……」
寝転がっていた俺に覆い被さるようにして、ルーシェンが抱きしめてくる。いつも体重をかけないように気を使ってくれるルーシェンなのに、今日は少し重い。全身で寄りかかられてる感じだ。
『ルーシェン……』
「離れたくない」
俺の肩に顔を埋めて泣き言みたいに呟く。いつも毅然としてるルーシェンだから、俺がいないと誰にも弱みを見せられなくてつらいだろうな。
「……酷い婚約旅行になってすまない」
謝るルーシェンの背中をぽんぽんと撫でた。
『ルーシェン、一生そばにいるって言いましたよね? だったら何ヶ月か離れているくらいで悲しまないでください。花粉がおさまったらまたすぐに会えます。花粉だってシロが味方してくれるからすぐにおさまります。何もかももとに戻ったら、また婚約旅行の続きしましょう』
ルーシェンは俺の言葉に顔を上げて微笑んだ。
「やはりシュウヘイは強いな。俺にはかなわない」
『心臓を治して戻ってくるので、待っててください。あ、でも寂しくても寝室に他の人を入れちゃダメですよ』
「分かった」
『それから身の回りの事はフィオネさんか自分でしてください。お節介な部下が何か言ってきても断ってください』
しつこく言っているとルーシェンが笑い出した。
「分かってる。俺にはシュウヘイしかいないから、そんなに心配するな」
まだ何か言おうと思ったけど、ルーシェンに唇をふさがれた。そのまま息も出来ないほど激しい口付けを落とされる。
俺も本当は離れたくないし、寂しいし不安だ。だけどキスしてる間だけは辛い事を考えずにすむから夢中になってそれに応えた。
「王子、朝食の用意が整いましたが、いかがいたしますか?」
譲二さんが部屋の外から声をかけてきたので、二人して仕方なくベッドから起き上がる。
「すぐに向かう」
答えたルーシェンは、さっきまで泣き言を言ってたとは思えないほど王子様の顔をしていた。俺はこの王子様をしてる仕事人間のルーシェンも大好きだから、怖がってばかりいないで今俺にできる事をして、全力で支えるしかない。
***
朝食は砦の宴会場みたいな場所でとることになってた。
一段高い場所にルーシェンと俺の席があって、左右にエルヴィンやアークさん達の座る席がある。
形だけみれば赤砂の街の宴会場みたいだけど、それと違うのは食事が比較的質素な事と、音楽や踊りが無くて、挨拶に来るのがみんな砦の兵士や魔法使いだらけな事だった。
「王子、遅くなりましたが周辺の村の避難は完了いたしました」
ロベルトさんが渡した地図と報告書を見て指示を出しながら、同時に運ばれてくる朝食をとるルーシェン。こういうのは一種の才能だな。
ロベルトさんはちょっと疲れている様子だけど、いつもよりピリピリした空気をまとってる。
ロベルトさん以外にもいろんな兵士が待っていて避難した村人の食料の采配や、出現した魔物、隣国の戦況などの報告を上げてくる。
そういう俺も、ルーシェンとは別の報告を受けていてそれを理解するのに必死だった。
「ミサキ様、雲の谷までご一緒いたしますので、分からない事はなんでもお聞きください」
『如月!』
俺に挨拶しに来たのは、赤砂の街以来の如月だ。いつもの営業マンみたいな服装じゃなくて、もっと魔法使いっぽい服を着ていた。
「こちらをどうぞ」
如月から受け取った報告書? には日本語で『旅のしおり』と書かれていた。中を開くと
1 雲の谷ってどんな所?
2 花粉の影響あれこれ
3 緊急時の対応
などの目次が並んでいる。最後のページにはメモを書き込める場所まである。さすが如月だ。助かる。
砦に用意されていたルーシェンの部屋のベッドに潜り込んでごろごろしていたら、挨拶を終えたルーシェンがいつの間にか戻ってきていた。
『あっ、いや……なんでもないです』
私が使っていた寝心地のいいベッドですとかなんとかエルヴィンが言ってたので、ルーシェンが使う前に一度俺が使っといてやろうと思って寝転がってただけなんです、とは言えない。
俺もたいがい独占欲が強いな。でもエルヴィンの眠ってたベッドをルーシェンがすぐに使うのが嫌だったんだよな。
「明け方近くまで起きていたから眠くなったんだろう。少し仮眠でも取るか?」
『大丈夫です。朝ごはん食べたら雲の谷へ出発ですよね?』
「そうだな……」
寝転がっていた俺に覆い被さるようにして、ルーシェンが抱きしめてくる。いつも体重をかけないように気を使ってくれるルーシェンなのに、今日は少し重い。全身で寄りかかられてる感じだ。
『ルーシェン……』
「離れたくない」
俺の肩に顔を埋めて泣き言みたいに呟く。いつも毅然としてるルーシェンだから、俺がいないと誰にも弱みを見せられなくてつらいだろうな。
「……酷い婚約旅行になってすまない」
謝るルーシェンの背中をぽんぽんと撫でた。
『ルーシェン、一生そばにいるって言いましたよね? だったら何ヶ月か離れているくらいで悲しまないでください。花粉がおさまったらまたすぐに会えます。花粉だってシロが味方してくれるからすぐにおさまります。何もかももとに戻ったら、また婚約旅行の続きしましょう』
ルーシェンは俺の言葉に顔を上げて微笑んだ。
「やはりシュウヘイは強いな。俺にはかなわない」
『心臓を治して戻ってくるので、待っててください。あ、でも寂しくても寝室に他の人を入れちゃダメですよ』
「分かった」
『それから身の回りの事はフィオネさんか自分でしてください。お節介な部下が何か言ってきても断ってください』
しつこく言っているとルーシェンが笑い出した。
「分かってる。俺にはシュウヘイしかいないから、そんなに心配するな」
まだ何か言おうと思ったけど、ルーシェンに唇をふさがれた。そのまま息も出来ないほど激しい口付けを落とされる。
俺も本当は離れたくないし、寂しいし不安だ。だけどキスしてる間だけは辛い事を考えずにすむから夢中になってそれに応えた。
「王子、朝食の用意が整いましたが、いかがいたしますか?」
譲二さんが部屋の外から声をかけてきたので、二人して仕方なくベッドから起き上がる。
「すぐに向かう」
答えたルーシェンは、さっきまで泣き言を言ってたとは思えないほど王子様の顔をしていた。俺はこの王子様をしてる仕事人間のルーシェンも大好きだから、怖がってばかりいないで今俺にできる事をして、全力で支えるしかない。
***
朝食は砦の宴会場みたいな場所でとることになってた。
一段高い場所にルーシェンと俺の席があって、左右にエルヴィンやアークさん達の座る席がある。
形だけみれば赤砂の街の宴会場みたいだけど、それと違うのは食事が比較的質素な事と、音楽や踊りが無くて、挨拶に来るのがみんな砦の兵士や魔法使いだらけな事だった。
「王子、遅くなりましたが周辺の村の避難は完了いたしました」
ロベルトさんが渡した地図と報告書を見て指示を出しながら、同時に運ばれてくる朝食をとるルーシェン。こういうのは一種の才能だな。
ロベルトさんはちょっと疲れている様子だけど、いつもよりピリピリした空気をまとってる。
ロベルトさん以外にもいろんな兵士が待っていて避難した村人の食料の采配や、出現した魔物、隣国の戦況などの報告を上げてくる。
そういう俺も、ルーシェンとは別の報告を受けていてそれを理解するのに必死だった。
「ミサキ様、雲の谷までご一緒いたしますので、分からない事はなんでもお聞きください」
『如月!』
俺に挨拶しに来たのは、赤砂の街以来の如月だ。いつもの営業マンみたいな服装じゃなくて、もっと魔法使いっぽい服を着ていた。
「こちらをどうぞ」
如月から受け取った報告書? には日本語で『旅のしおり』と書かれていた。中を開くと
1 雲の谷ってどんな所?
2 花粉の影響あれこれ
3 緊急時の対応
などの目次が並んでいる。最後のページにはメモを書き込める場所まである。さすが如月だ。助かる。
10
お気に入りに追加
559
あなたにおすすめの小説
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが
咲
BL
俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。
ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。
「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」
モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?
重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。
※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。
※第三者×兄(弟)描写があります。
※ヤンデレの闇属性でビッチです。
※兄の方が優位です。
※男性向けの表現を含みます。
※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。
お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!
『ユキレラ』義妹に結婚寸前の彼氏を寝取られたど田舎者のオレが、泣きながら王都に出てきて運命を見つけたかもな話
真義あさひ
BL
尽くし男の永遠の片想い話。でも幸福。
ど田舎村出身の青年ユキレラは、結婚を翌月に控えた彼氏を義妹アデラに寝取られた。
確かにユキレラの物を何でも欲しがる妹だったが、まさかの婚約者まで奪われてはさすがに許せない。
絶縁状を叩きつけたその足でど田舎村を飛び出したユキレラは、王都を目指す。
そして夢いっぱいでやってきた王都に到着当日、酒場で安い酒を飲み過ぎて気づいたら翌朝、同じ寝台の中には裸の美少年が。
「えっ、嘘……これもしかして未成年じゃ……?」
冷や汗ダラダラでパニクっていたユキレラの前で、今まさに美少年が眠りから目覚めようとしていた。
※「王弟カズンの冒険前夜」の番外編、「家出少年ルシウスNEXT」の続編
「異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ」のメインキャラたちの子孫が主人公です
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したから継母退治するぜ!
ミクリ21 (新)
BL
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したダンテ(8)。
弟のセディ(6)と生存のために、正体が悪い魔女の継母退治をする。
後にBLに発展します。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた
おみなしづき
BL
小学生の時に母が再婚して義理の兄ができた。
それが嬉しくて、幼い頃はよく兄の側にいようとした。
俺の自慢の兄だった。
高二の夏、初めて彼女ができた俺に兄は言った。
「ねぇ、ハル。なんで彼女なんて作ったの?」
俺は兄にめちゃくちゃにされた。
※最初からエロです。R18シーンは*表示しておきます。
※R18シーンの境界がわからず*が無くともR18があるかもしれません。ほぼR18だと思って頂ければ幸いです。
※いきなり拘束、無理矢理あります。苦手な方はご注意を。
※こんなタイトルですが、愛はあります。
※追記……涼の兄の話をスピンオフとして投稿しました。二人のその後も出てきます。よろしければ、そちらも見てみて下さい。
※作者の無駄話……無くていいかなと思い削除しました。お礼等はあとがきでさせて頂きます。
異世界に転移したショタは森でスローライフ中
ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。
ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。
仲良しの二人のほのぼのストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる