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引っ越し
4 よろしく言われても困る
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「いろいろ聞きたいけど、僕お邪魔みたいだから帰るよ。また教えてね」
『待ってください』
このギャラリーの中ひとりにしないで!というか、この衆人環視の中、堂々と帰ろうとするジョシュ大物だな。
「何?調子悪いの?」
『皆がいるけど大丈夫ですか?囲まれたりしませんか?』
「えへへ。僕王子様の恋人と友達だって自慢してもいい?」
『……』
「冗談だよ、言わないって。彼氏にはちょっと話しちゃうかもしれないけど。こういう事は王子様から直接言って欲しいもんね。婚約発表まで黙っとくよ」
『こっ……』
婚約発表……って、咄嗟に金屏風が思い浮かんだぞ。芸能人の記者会見みたいな、指輪がいくらでプロポーズの言葉が何ってやつ。
「じゃあまたね~」
金屏風の事を考えているうちに、ジョシュは出て行った。案の定ギャラリーに囲まれてる。
「あの人誰なんですか?」
「王子様の知り合い?噂の恋人?」
「兵士の大部屋にいるけど、身分の高い人なの?」
という会話が聞こえてくる。
「僕何も分かりません~偶然いただけです」
と、ジョシュが堂々としらを切りながら帰っていく。すごいな。
「あの……」
近くのベッドにいた兵士が話しかけてきた。手には高級なお菓子が。
「甘い物お好きですか?良かったらこれ、いやこちらをどうぞ」
『あ、ありがとうございます』
どうしたんだ急に。
「自分は国王軍に所属しています。陸上部隊にいる一兵士です。得意なのは剣と弓なのですが、魔法も少し扱えます。今は負傷していますが、全快すればまたこの国の為に一生懸命尽くします」
何だか目がキラキラしてる。素晴らしい心がけだと思うけど、何で急にそんな話に?
「ルーシェン王子によろしくお伝えください」
なるほど……。伝えるくらいならしようと思うけど。
お菓子食べようとしたら、包帯を巻いた別の男が、さっきの兵士につかみかかった。
「お前、一人だけ何抜け駆けしてるんだよ!」
「うるせえ放せ!」
「いつも仕事の愚痴ばっかり言ってるくせによ。何が一生懸命尽くします、だ」
あっけに取られていると、部屋中の兵士達がベッドの周りにやってきた。廊下にいたギャラリーも少し。それまで黙っていたのが嘘のように、一斉に口を開く。
「未来の王妃様ですか?俺をもう少し出世させてください。病弱な妻と小さい子供達がいるんで大変なんです」
「お前の奥さん健康そのものだろ」
「王妃様、こいつはあなたの事を大部屋に入った時から狙っていました。私が見張っていたので無事ですが」
「それはお前だろ!この野獣」
「未来の王妃と決まった訳じゃない。もしかしたら特別なコネか何かで……」
「うちにもあんたによく似た娘がいるんだが、愛人でいいから王子様に紹介してくれないか」
ウヘェ……もう限界。
『うるさいので静かにしてください』
俺が言うと、みんな争いを止めてこっちを見た。露骨にしまった、という顔をしている。
『寝ていられないので自分の部屋に戻ります』
ベッドから下りると、兵士達が道をあけた。
「あ、あの……勝手に退室は」
「お身体は大丈夫ですか?」
『許可をもらいます』
この国は日本と違って露骨に身分制度があるから、目の前にいる人が偉い人(またはその知り合い)だと分かった時、態度が変わるのは当然の事なのかもしれない。
でも何だか腹が立つ。
俺自身は別に偉い人でも何でもないのに、ルーシェンと付き合ってるっていうだけで、いろいろよろしく言われても困る。
ずんずん歩いて隣室のドアを開けると、中でのんびり会話していた(ように見えた)四人がこっちを向いた。
『話はまだですか?そろそろ自分の部屋に戻りたいので、先に帰ってていいですか?』
***
「シュウヘイ、何を怒っている」
『別に怒ってません』
「王子のお迎えが遅いから拗ねてるんじゃないですか」
隣室の長椅子に座って拗ねているうちに、如月が治療師長から退室の許可をもらってくれた。
「熱が下がったので大丈夫だとは思いますが、二、三日は安静にして、魔法は使用しないでください。特に転移魔法など魔力の大きな物はしばらく使用をお控えください」
『分かりました』
魔法が使えないってこういう時楽だな。
「岬さん、誰かにかけられるのも駄目ですよ」
俺の気持ちを見透かすように如月が念を押す。
『回復魔法も駄目なんですか?』
「重傷の場合以外は薬で対応してください。こちらに注意事項が書いてあります」
治療師長さんに紙を貰ったけど、読むのに時間かかりそうな難しさだ。注意事項を睨んでいると、ルーシェンが取り上げた。
「俺が後で読んでやる」
『あ、ありがとうございます』
ちなみにこっちの世界では、一般的には温度で色の変わる植物を使って体温を測るらしいけど、如月は日本から体温計を持ってきていたので、それを使っていたらしい。異世界担当課には置き薬セットもあるみたいだ。今度貰おう。
退室の許可が出たので、大部屋に荷物を取りに戻る。ルーシェンやアークさん他大物四人がいたせいで、さっきまで騒いでいた怪我人兵士達は嘘のように大人しくしていた。
王子様の前では頭を下げていた兵士達も、俺には物言いたげな視線を投げかけて来たので、とりあえずお菓子をくれた兵士に向かって
『お世話になりました。皆さん早くよくなってください』
と挨拶すると、大部屋を出た瞬間、中から歓声が聞こえた。
「岬君、彼らと仲良くなったの?」
『いえ全然。挨拶しただけです』
『待ってください』
このギャラリーの中ひとりにしないで!というか、この衆人環視の中、堂々と帰ろうとするジョシュ大物だな。
「何?調子悪いの?」
『皆がいるけど大丈夫ですか?囲まれたりしませんか?』
「えへへ。僕王子様の恋人と友達だって自慢してもいい?」
『……』
「冗談だよ、言わないって。彼氏にはちょっと話しちゃうかもしれないけど。こういう事は王子様から直接言って欲しいもんね。婚約発表まで黙っとくよ」
『こっ……』
婚約発表……って、咄嗟に金屏風が思い浮かんだぞ。芸能人の記者会見みたいな、指輪がいくらでプロポーズの言葉が何ってやつ。
「じゃあまたね~」
金屏風の事を考えているうちに、ジョシュは出て行った。案の定ギャラリーに囲まれてる。
「あの人誰なんですか?」
「王子様の知り合い?噂の恋人?」
「兵士の大部屋にいるけど、身分の高い人なの?」
という会話が聞こえてくる。
「僕何も分かりません~偶然いただけです」
と、ジョシュが堂々としらを切りながら帰っていく。すごいな。
「あの……」
近くのベッドにいた兵士が話しかけてきた。手には高級なお菓子が。
「甘い物お好きですか?良かったらこれ、いやこちらをどうぞ」
『あ、ありがとうございます』
どうしたんだ急に。
「自分は国王軍に所属しています。陸上部隊にいる一兵士です。得意なのは剣と弓なのですが、魔法も少し扱えます。今は負傷していますが、全快すればまたこの国の為に一生懸命尽くします」
何だか目がキラキラしてる。素晴らしい心がけだと思うけど、何で急にそんな話に?
「ルーシェン王子によろしくお伝えください」
なるほど……。伝えるくらいならしようと思うけど。
お菓子食べようとしたら、包帯を巻いた別の男が、さっきの兵士につかみかかった。
「お前、一人だけ何抜け駆けしてるんだよ!」
「うるせえ放せ!」
「いつも仕事の愚痴ばっかり言ってるくせによ。何が一生懸命尽くします、だ」
あっけに取られていると、部屋中の兵士達がベッドの周りにやってきた。廊下にいたギャラリーも少し。それまで黙っていたのが嘘のように、一斉に口を開く。
「未来の王妃様ですか?俺をもう少し出世させてください。病弱な妻と小さい子供達がいるんで大変なんです」
「お前の奥さん健康そのものだろ」
「王妃様、こいつはあなたの事を大部屋に入った時から狙っていました。私が見張っていたので無事ですが」
「それはお前だろ!この野獣」
「未来の王妃と決まった訳じゃない。もしかしたら特別なコネか何かで……」
「うちにもあんたによく似た娘がいるんだが、愛人でいいから王子様に紹介してくれないか」
ウヘェ……もう限界。
『うるさいので静かにしてください』
俺が言うと、みんな争いを止めてこっちを見た。露骨にしまった、という顔をしている。
『寝ていられないので自分の部屋に戻ります』
ベッドから下りると、兵士達が道をあけた。
「あ、あの……勝手に退室は」
「お身体は大丈夫ですか?」
『許可をもらいます』
この国は日本と違って露骨に身分制度があるから、目の前にいる人が偉い人(またはその知り合い)だと分かった時、態度が変わるのは当然の事なのかもしれない。
でも何だか腹が立つ。
俺自身は別に偉い人でも何でもないのに、ルーシェンと付き合ってるっていうだけで、いろいろよろしく言われても困る。
ずんずん歩いて隣室のドアを開けると、中でのんびり会話していた(ように見えた)四人がこっちを向いた。
『話はまだですか?そろそろ自分の部屋に戻りたいので、先に帰ってていいですか?』
***
「シュウヘイ、何を怒っている」
『別に怒ってません』
「王子のお迎えが遅いから拗ねてるんじゃないですか」
隣室の長椅子に座って拗ねているうちに、如月が治療師長から退室の許可をもらってくれた。
「熱が下がったので大丈夫だとは思いますが、二、三日は安静にして、魔法は使用しないでください。特に転移魔法など魔力の大きな物はしばらく使用をお控えください」
『分かりました』
魔法が使えないってこういう時楽だな。
「岬さん、誰かにかけられるのも駄目ですよ」
俺の気持ちを見透かすように如月が念を押す。
『回復魔法も駄目なんですか?』
「重傷の場合以外は薬で対応してください。こちらに注意事項が書いてあります」
治療師長さんに紙を貰ったけど、読むのに時間かかりそうな難しさだ。注意事項を睨んでいると、ルーシェンが取り上げた。
「俺が後で読んでやる」
『あ、ありがとうございます』
ちなみにこっちの世界では、一般的には温度で色の変わる植物を使って体温を測るらしいけど、如月は日本から体温計を持ってきていたので、それを使っていたらしい。異世界担当課には置き薬セットもあるみたいだ。今度貰おう。
退室の許可が出たので、大部屋に荷物を取りに戻る。ルーシェンやアークさん他大物四人がいたせいで、さっきまで騒いでいた怪我人兵士達は嘘のように大人しくしていた。
王子様の前では頭を下げていた兵士達も、俺には物言いたげな視線を投げかけて来たので、とりあえずお菓子をくれた兵士に向かって
『お世話になりました。皆さん早くよくなってください』
と挨拶すると、大部屋を出た瞬間、中から歓声が聞こえた。
「岬君、彼らと仲良くなったの?」
『いえ全然。挨拶しただけです』
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