赤い髪の騎士と黒い魔法使い

学園祭と長期休暇

4 学園祭

　
　ほんの少しの時間だったけど、シンはアルフレッドに抱きしめられたことが嬉しかった。自分の感情の方が重くて強い自覚はあったが、兄に嫌われていないというだけで呪われた出自の自分でも救われる気がした。

　それから時間いっぱいまで二人でステージを見て、明日の学園祭も会う約束をして別々の寮に戻った。


　学園祭当日。
　シンは午前中はハンスと一緒にお店をまわっていた。午後からはナタリーたち女の子の魔法使いと合流して騎士の棟を見学する予定だ。騎士の棟も魔法使いの棟も、学園祭の期間中だけは解放されていて、あちこちで普段会えない生徒たちが交流している。
　魔法使い棟の玄関で待っていると、魔法使いのナタリーと女の子たちがやって来た。みんな制服に飾りを付けたり、髪型を変えたりおしゃれをしてる。

「ハンス、シン、お待たせ！」
「お、おう。オイラたちも今来たんだ」

　女の子に囲まれてハンスが舞い上がってる。

「Aクラスの生徒の教室、早く見に行きましょう！」
「シン君、お兄様にあったら私たちの紹介よろしくね」
「う、うん……」

　女の子たちはみんなそわそわしてる。
　シンにはその気持ちが分かった。シンもアルフレッドに会えるのが嬉しいから。昨日だって会えたのに、またすぐに会いたいと思ってしまう。
　前夜祭で兄と一緒に過ごしたあの時間はすごく幸せで、シンは手を繋いで魔法を見たあの時のことを、その後何度も思い返しては余韻に浸っていた。

「お前ユーリってやつと会わなくていいの？」
　騎士の棟に向かう間、ハンスが小声で聞いてくる。
「なんで？」
「え、だって付き合ってるって噂が流れてるぞ」
「ただの噂だよ」
「そっか、良かった。おかしいと思ったんだよな。そもそもAクラスとは接点もないし」
「兄さんとはよく話すみたいだから、何度かカフェで一緒になったことがあるんだ」
「それでかぁ。なんだか急にシンが遠い存在になったみたいでさ、ちょっと不安だったんだ。お前、実技試験からずっと暗かっただろ？　もしかしてユーリってやつといろいろあつたのかと思って」
「何もないよ」
「だよな。オイラたち恋人作る時は一緒だからな！　抜け駆けなしだからな」
「う、うん」

　僕には恋人なんてきっと一生できないと思うけど……シンはそんな呟きを自分の胸にしまった。

　騎士棟は魔法使い棟と同じ構造の建物だが、雰囲気は全く違っていた。扉の色もグレーや青い色がメインで、魔法の文字や模様もない。廊下には剣や盾が飾られている。

「やっぱり騎士棟ってドキドキするわね」
「やだ、あの人かっこいい」

　地図を見ながら教室に向かっていると、いつのまにか騎士の数人に囲まれていた。正確には囲まれていたのは女子だけだ。

「君たち誰を探してるの？」
「かわいいね」

　AクラスとＢクラスの騎士が五人。全員背も高くて体格もいい。女の子たちも嬉しそうだ。

「私たち、騎士棟を見学に来たんです」
「じゃあ俺たちとカフェに行こうよ」
「えーっ、どうしようかな」
「いいよね、得意な魔法って何？」
「私たちは回復が得意よ」
「今度俺たちを回復してよ」

　騎士たちのお誘いに、ナタリー以外の女の子たちはあっさりくっついていってしまった。

「ごめんね、あの子たちAクラスなら誰でもいいみたい」
「ナタリーはいいの？」
「あたしはあの子たちよりシンとハンスの方が仲がいいから」
「さすがナタリー！」

　ハンスは嬉しそうだったけど、それもアルフレッドに声をかけられるまでだった。

「シン、来てたのか」

　振り向くとアルフレッドとレオンハルトが揃って教室から顔を出していた。隣でナタリーがきゃあっと声をあげる。

「兄さん……友達と騎士棟に遊びに来たんだ」

「よお、アルフ弟！」

　レオンハルトは変な髪型だけど、顔は悪くない。二人の騎士に声をかけられてハンスもナタリーも緊張しているみたいだった。