赤い髪の騎士と黒い魔法使い

カム

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学園祭と長期休暇

2 前夜祭

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 アルフレッドはいつものようにバンブーカフェでシンを待っていた。何も注文せず一人で本を読んでいる。

「兄さんごめん。遅くなって。本を読んでたの?」
「珍しいって言いたいんだろ? 長期休暇前に借りて読もうと思ったけど、難しい内容であまり頭に入らないな」

 兄の頭がいいことはよく知っている。ちらりとタイトルを見ると『王族と騎士の歴史』という本だった。兄も王家の誰かの専属騎士になるのかと思うとシンの胸がちくりと痛む。

「学園祭が始まるから落ち着かないんじゃない?」
「そうかもな。じゃ行こうか」

 アルフレッドは本を鞄にしまうと、椅子から立ち上がってシンの髪をさらりと撫でた。何気ないその行為に嬉しいような切ないような気持ちにさせられる。

「兄さんはどこか見て回りたいところある?」
「いや、シンに合わせるよ。シンは道具屋とか見なくていいのか?」
「いいよ」
「お金なら家から送ってもらってる。俺と、シン宛に」
「そうなの? じゃお店で何か食べるものを買って、魔法が見える場所に移動しようよ。いい場所見つけたんだ」

 学園祭の下準備をしている時に、シンは木々に囲まれた庭園を見つけていた。少し小高い丘になっていて、それほど舞台から離れていないのに通る人は少ない。兄と二人で魔法を見るならそこだと決めていた。

 学園の敷地内にはすでに学園祭期間限定のお店がいくつも設営されていた。候補生たちが集まって買い物をしたり食事をとったりしている。

「魔法も売ってるらしいな。見なくていいのか?」
「魔法は高いから」
「足りなかったら俺のお金も使っていいから」
「兄さんはやっぱり優しい」

 本当は手を繋いで歩きたいけど、候補生がたくさんいるので我慢した。一緒に買い物できるだけで夢のような時間だ。何人かすれ違う同級生や上級生に好奇や侮蔑の視線を送られたけど、それすら気にならなかった。

 魔法屋は数店舗あり、高額の魔法屋は上級生やAクラスだけを相手にしているらしい。シンは一般向けの回復魔法を売っている魔法屋を覗いた。

「たしかに高いな。この魔法何回くらい使えるんだ?」
「個人で違うんだよ。得意な魔法だとたくさん使える。苦手だとすぐになくなっちゃうよ」
「魔法使いって大変だな」

 高額で威力の強い魔法は普通の生徒なら一度で無くなってしまうものも多い。シンは魔法書のページを破っては隠しているので、それほど魔法を必要としてなかったが、兄が回復魔法を買えと勧めるので一つ購入した。お金を払って魔法書のページに呪文を転写してもらう。

「これでお前が怪我しても少しは安心だな」
「うん……ありがとう、兄さん」

 半分竜の血が流れているシンは、並の怪我ならあっという間に回復してしまう。だから自分用に回復魔法はそれほど必要じゃない。シンは兄が怪我をした時のために魔法を使うと決めた。

 具の挟まれたパンと焼いたお肉、チーズの乗った芋の料理、飲み物をそれぞれ購入して人の少ない庭園にやって来た時にはすっかり日が暮れていた。ポツポツと魔法の灯りが輝き、音楽が聴こえてくる。丘の上に二人で座り込んで買ってきた料理を並べた。上級生たちが前夜祭の魔法をスタートさせる時間だ。





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