赤い髪の騎士と黒い魔法使い

カム

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服従と抵抗

9 もうすぐ学園祭

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「ページ交換?」
「あ、あのね……」

 なんとか話題を逸らそうとしたのに、ユーリは自分の赤い魔法書をテーブルに出し、パラパラとめくった。
 シンは慌てていたのを一瞬忘れ、そのページの厚さに目を見張る。ユーリの魔法書は以前目にした時よりはるかに厚くなっていた。

「魔法使い同士が、白紙のページをちぎって交換するんだ。それがページ交換」

 ユーリが開いた最後のページには、シンの名前入りの白紙ページが現れた。本当にまだ持っていたのかとシンは少し驚いてしまった。

「名前だけで呪文は書き込めないから、本当に仲のいい魔法使い同士しかやらないんだけどね。恋人同士とか、親友とか」

「へぇー、仲良しだな、お前ら」

 レオンハルトはけらけら笑ってそう言ったのに、アルフレッドは何も言わなかった。代わりに兄の鋭い視線を感じてシンは俯いた。

「シン君はまだ持ってる? 僕のページ。見せてよ」

「あ、あの……」

 出来れば魔法書は見せたくなかったけど、三人の無言の圧力を感じて、シンは鞄から自分の魔法書を取り出した。
 こんな事ならハンスやナタリーとページ交換しておけば良かったと思いながら。

「ああ、あった。僕のページ。持っていてくれてありがとう」
「ユーリさんは一位なので……魔法がすごいから憧れていて。だから捨てるとかそんな事は……」

「でも、少しページ数が少ないね」

 シンは驚いて顔を上げた。
 ユーリは首を傾げてシンとシンの魔法書を見比べている。

「そりゃトップのお前とはページ数に差があるんじゃないのか? アルフ弟はCクラスだろ?」
「そうだけど、以前は僕と同じ量のページがあったんだよ」
「あまり増えなくて」
「そうかな」

 ユーリはシンがページを破っていることに気づいているのだろうか。ユーリはいつも笑顔で、考えがまるで読めない。

「もういいだろ。返せよ」

 アルフレッドがシンの魔法書をユーリから取り上げると、シンに返してくれた。

「弟は頑張ってるんだよ。ページがどうとか、他人のお前がごちゃごちゃいうな」

 そのあとはレオンハルトが騎士クラスの先生の話を面白おかしくしてくれて、変な空気もなくなりシンはほっとした。

「なあ、学園祭どうする?」
「学園祭?」

 そういえば学園のイベントカレンダーに学園祭の文字が記載されていたような気がする。入学して半年後にある実技試験、それが終われば学園祭が開催されて、その後休暇に入る。休暇が終われば後期授業のスタートとなり、一年生のコース分けが決定される。シンの頭は実技や筆記試験やコース分けでいっぱいだったので、お祭りや休暇の事は何も考えていなかった。

 「実技試験が終わったら、次のイベントは学園祭だろ? 学園祭は普段別々の騎士も魔法使いもみんな一緒に参加して盛り上がるらしいぜ。一年は準備もほとんどしなくていいみたいだし、魔法使いの可愛い子と一緒に楽しむ騎士がたくさんいるんだってな。それに祭りが終われば長期休暇だ! 楽しみだなぁ。休暇はお前ら実家に帰るのか?」

 実家……。
 忘れていたが、休みになれば家に帰ることが出来る。
 兄を見ると、アルフレッドもシンを見てにっこり頷いた。

「帰ります」

 実家に帰れば、部屋は兄と隣同士だ。好きなだけ眺めて話だってできる。一緒に食事をとったり、好きな場所に遊びに出かけたりすることだってできるかもしれない。シンは急に嬉しくなった。

「シン君はお祭り、誰かと見てまわるの?」
「特に決めていません。ハンスとか……友達とまわると思います」
「前夜祭の魔法一緒に見ようよ」

 ユーリがそう言ったので、慌てて兄の顔を見る。

「シン、嫌なら断れ。俺が一緒に見てやるから」
「嫌じゃないよね」
「あの、僕は兄さんと一緒に見ます」

 勇気を出してはっきり言うと、ユーリは少しだけ残念そうな顔をした。

 
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