赤い髪の騎士と黒い魔法使い

カム

文字の大きさ
上 下
69 / 88
実技試験

16 涙

しおりを挟む
「理事長……彼は」
「弟はどうしたんですか⁉︎」

 ジオの言いかけた言葉を強い口調でアルフレッドが遮る。

「森の中に倒れていたよ。彼も巻き添えをくらったみたいだね。もう傷は全快しているが、ショックだったのか気を失っている。彼を頼めるかな、ジオ」

「……では寮に連れて帰ります」

ぐったりしたシンを受け取ろうとしたジオを、アルフレッドが再び遮った。

「俺が連れて帰ります。弟なんで」

 ユーシス理事長は目を細めてアルフレッドを見ると、腕に抱えていたシンを彼に預けた。

「弟想いのお兄さんを持って、シン君は幸せだね」

 目を閉じているシンに言い聞かせるように言うと、再びジオに向き直る。

「ジオ、後のことは任せたよ」
「理事長はどうされるのですか?」
「この先の洞窟の封印が解かれている。誰か生徒が一人、逃げ出したようだ。捜索しないとね」

 理事長はそう告げると、再び転移魔法陣を使って姿を消した。ユーリはほっと息を吐き、自分が知らずに緊張していた事を知る。
それからアルフレッドの腕に抱えられているシンの表情を覗き込んだ。顔色が悪い。

「レオン、馬車にスペースは?」
「ああ。まだあると思うぜ」
「ジオ先生、俺も寮まで付き添っていいですか?」

 質問形式ではあったが、アルフレッドの口調は断定的だった。ジオは頷く。

「その方が、シン君も安心するだろうね」

 アルフレッドはシンを抱えて馬車に乗り込んだ。残された生徒たちはジオと他の教師の指示で魔物の後始末をした後、別の馬車で寮へと帰る事になった。

「あれがアルフレッドの弟か」
「似てないな」
「逃げ出した生徒がいるって、まああんな化け物みたら逃げたくもなるよな」
「アルフレッドさん弟想いなんですね。ユーリ様は知ってました?」
「まあね」

 好き勝手に話す候補生達を眺めながら、ユーリは理事長に感じた違和感について考えていた。それにシンの様子も変だった。何かの精密な魔法がかけられているような。それは候補生には見破れないほどの高度な魔法だ。

「そういえば……」

 片付け作業の途中で違和感の理由に気づく。理事長は手袋とマントをしていなかった。高位の魔法使いなら、魔法で手を痛めないように手袋は必須だし、マントは魔法防御に優れているので皆が身につけている。
 問題は、どうして理事長はマントと手袋を外していたのかだ。それはきっとダメージを受けたからに他ならない。

「あの理事長に、ダメージを負わせられる魔物がいたのか……?」

 もしかしたらそれは、候補生の中にいたのかもしれない。

***

 怪我人専用の馬車は狭かったが、アルフレッドはシンと一緒に乗せてもらえた。話を聞けばほとんどの生徒の安全は確認されていて、シンは数人の怪我を負った生徒のうちの最後の一人だったからだ。だから馬車の中にはシンとアルフレッドしかいなかった。

「まだ見つかっていない生徒が一人いるとかいう話だ。今年の実技試験はめちゃくちゃだな」

 御者はそう話していた。狭くて横になれそうなスペースもないので、アルフレッドはシンを抱えるようにして椅子に座った。

 本当に傷が全快しているのか疑わしくなるほど、シンの服はボロボロだった。あの魔物と遭遇したのか、制服はあちこち焼け焦げていて裂け目も入っている。目を閉じたシンの表情は苦しそうで、唇の端には血の跡があり、首もとまで乾いてこびりついていた。数日前にカフェで会った時、実技試験を頑張ると言っていた弟の笑顔を思い出す。

「シン……ごめんな。守ってやれなくて」

 馬車の中に誰もいなくて良かったと、アルフレッドは思った。ボロボロのシンを見ているだけで涙が出てくる。騎士候補生一位の男がこんな事で泣くわけにはいかないのに。
 涙がシンの頬に落ちたので、アルフレッドはシンの乾いた血といっしょに指で拭った。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

セントアール魔法学院~大好きな義兄との学院生活かと思いきや何故だかイケメンがちょっかいかけてきます~

カニ蒲鉾
BL
『ラウ…かわいい僕のラウル…この身体の事は絶対に知られてはいけない僕とラウル二人だけの秘密』 『は、い…誰にも――』    この国には魔力を持つ男が通うことを義務付けられた全寮制魔法学校が存在する。そこに新入生として入学したラウルは離れ離れになっていた大好きで尊敬する義兄リカルドと再び一緒の空間で生活できることだけを楽しみにドキドキワクワク胸を膨らませていた。そんなラウルに待つ、新たな出会いと自分の身体そして出生の秘密とは――  圧倒的光の元気っ子ラウルに、性格真反対のイケメン二人が溺愛執着する青春魔法学園ファンタジー物語 (受)ラウル・ラポワント《1年生》 リカ様大好き元気っ子、圧倒的光 (攻)リカルド・ラポワント《3年生》 優しいお義兄様、溺愛隠れ執着系、策略家 (攻)アルフレッド・プルースト《3年生》 ツンデレ俺様、素行不良な学年1位 (友)レオンハルト・プルースト《1年生》 爽やかイケメン、ラウルの初友達、アルの従兄弟

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。 弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。 そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。 でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。 そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います! ・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね? 本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。 そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。 お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます! 2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。 2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・? 2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。 2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

処理中です...