赤い髪の騎士と黒い魔法使い

カム

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魔法書の秘密

13 相談

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 グレンがいなくなってからシンは魔法書と破れたページを拾い上げた。表紙は池の泥で汚れてしまってはいるが、中のページはそれほど汚れていないように見えた。火花と回復の魔法、それに白紙2ページとユーリのページは無傷で残されている。
 破られたページの方はひどい有様で、それが本当に修復できるのかシンには分からなかった。
 落ちたページを全て拾い集め、魔法使いのマントの下に包むように抱えると、出来るだけ人の通らない通路を通ってジオ先生の研究室に向かった。

***

「どうしたんだい? シン君……」

 幸いジオ先生は研究室にいた。シンを見て微笑んだが、その笑みはすぐに消えた。シンの汚れたマントや乱れた髪を見て何かを察したのだろう。

「何があったか聞いてもいいかな」

 先生は研究室にシンを招き入れると、柔らかいソファーに座らせ、良い香りのするお茶を入れてくれた。お茶は研究に使われる容器に入って出て来たが、その香りは十分シンの心を慰めてくれた。

「Aクラスの人何人かに絡まれて……」

「幸い大きな怪我はないようだね。魔法を受けたわけじゃないんだろう?」

 ジオ先生はシンの髪と頬を何度か撫でると、傷がないか調べてくれた。

「魔法は受けてないです。でも」

 シンはマントの下から破れた魔法書を取り出した。

「これは酷いな」
「治りますか……?」

 ジオ先生はしばらく魔法書を調べるようにチェックし、破れたページを一枚ずつ広げていった。シンはそれを不安そうに眺める。本が戻らなかったら進級するのがとても難しくなるだろう。

「Aクラスの生徒はどうして君を狙ったんだい?」
「Aクラスの騎士と会うなって」
「……騎士というのは、君のお兄さんの事を言っているのかな」
「そうみたいです。でも兄だと言っても信じてもらえなくて」

 ジオ先生は深いため息をついた。

「残念だがそういう生徒がいることはよく分かってる。毎年のように問題が起こるからね。委員会が取り締まってはいるが、教師は基本的に生徒同士の争いに参加しない」

「そうなんですか?」

「教師は明確な校則違反を起こさない限り、Aクラスの生徒には寛容だ。もしもシン君がこの事を訴えても、教師達は君を退学させてAクラスの生徒を守るだろう」

 シンは唇を噛んだ。この学校では本当に順位が全てらしい。

「絡んできたAクラスの生徒の名前か順位を覚えていれば、僕が委員会に伝えておこう。委員会の生徒なら生徒同士の揉め事に少しは対処してくれる。君の同室の委員長に相談してもいいし」

 サイラスに相談するのはあまり気が進まなかった。また面倒な事を起こしたとなじられるような気がする。シンの心を読んだのか、ジオ先生がフォローを入れてくれた。

「サイラス君は気難しい性格だけど、なかなか頼りになる生徒だと思うよ。面倒見もいい」
「本当ですか?」
「本当だよ……理事長の事で、いや、なんでもない」

 ジオは理事長の事でサイラスが部屋を訪れて来た時の事を話そうとして言葉を濁した。シンはあの時の理事長の事を覚えていない。理事長は彼の脳裏から自分の記憶を消してしまった。シンの辛い過去の記憶を消すことには反対しなかったが、あれほど簡単に人の記憶を操作している姿を見ているとそれで本当に良かったのだろうかと思ってしまう。
 6年前ですらジオは『記憶を消して本当にいいかい?』とシンに聞いたのだが、今回はそんな確認もなく問答無用で理事長は記憶を消してしまった。もちろんシンは何も覚えていないだろう。

「ジオ先生?」
「ああ、ごめんごめん。魔法書だけど、直ると思うよ」
「本当ですか⁉」
「数ページは減ると思うけど。直すの手伝ってくれるかい?」
「ありがとうございます!」

 シンはほっと胸を撫で下ろした。
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