赤い髪の騎士と黒い魔法使い

カム

文字の大きさ
上 下
47 / 88
魔法書の秘密

12 グレン

しおりを挟む
 獏に触っただけで魔力をなくした候補生もいる、という委員長の言葉を思い出し、シンは慌てて後退りした。
 それでも獏はシンにくっついて腕を舐めてくる。よく見ればシンの腕にはすり傷があって血が滲んでいた。滲んでいる血を舐めているのだと気づいて、どことなくかわいいと思っていた獏が怖くなった。シンは獏の生態を全く分かっていないのだ。

「あ、あっち行けよ」

 追い払い方が分からず壁際に追い詰められたシンに、聞いたことのない声が降って来た。

「弱すぎだ。笑えるな」

 中庭の木の上からひらりと飛び降りてシンの前に立ったのは、初めて見る顔の候補生だった。
 本当に15歳だろうか、というのがシンの感じた第一印象だ。彼は兄と同じくらい大人びていて、髪の色は茶色と灰色を混ぜたような色をしていた。マントの短さから間違いなく一年だと思うのだが、態度は上級生や教師と変わらない。名札には『グレン 10』と記されていた。

 グレンは手にしていた濃い赤の魔法書を取り出すと、中のページから一つの魔法を呼び出した。そこまでの一連の動作のためらいの無さに驚く。シンは校則で許可のない魔法が禁止されていることを知っていたので、それを破る生徒などいないと思っていた。
 だがグレンはページから氷系の呪文を呼び出すと、シンに向かって素早く放った。

「‼」

 とっさに防御の姿勢(といっても両手で頭をガードするだけだが)を取るが、思っていたような衝撃は襲ってこない。

「あ、あれ?」

 顔を上げると、グレンの馬鹿にしたような冷たい表情が目に入った。
 シンの前には獏がいて、その周囲をキラキラした氷の粒が舞っている。獏は平然とした態度で口をもぐもぐ動かし、氷の粒は獏の口に全て吸い込まれた。

「こいつらは魔法が大好物だから、いくつか食えば満腹になって失せるんだよ」

 グレンの放った氷の魔法は、周囲に何一つ影響を与えること無く獏が無効化したらしい。
 満腹になった獏は、満足そうにその場から去っていった。

「あの、校則破っていいんですか……?」

 それに対してグレンは何も答えず、かわりに目を細めてシンを見た。

「さっきの奴ら、炎で燃やしてやったらどうだ?」
「そ、そんなこと……」
「無理か。その頭じゃな」

 勝手に納得してせせら笑うと、グレンは池に落ちたシンの魔法書を破れたページと共に拾い上げた。それをシンの足元に放る。

「あの召喚士やってる教師なら修復出来ると思うぜ?」

「どうして……助けてくれたんですか?」

 シンがそう言うと、グレンは座り込んでシンと目線を合わせた。
 グレンの目は暗い灰色で、シンの黒に近いと言えない事もない。その暗さにシンは怖さを覚えた。どこかで見たような冷たい眼差しだ。

「お前さ、兄貴と血が繋がってると本気で思ってるのか?」
「えっ⁉」
「あの家は、そのうちお前を見捨てるぜ。あの兄貴もな。それまでにせいぜい、使える呪文を増やしておいた方がいい」
「どうして……」

 そんな事を言うのだろう。彼は何を知っているというのだろうか。

「……兄さんは、僕を見捨てたりしない」
「どうだろうな」

 グレンはそれだけ言うと、中庭から出ていった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!

Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。 pixivの方でも、作品投稿始めました! 名前やアイコンは変わりません 主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐
BL
 自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。  恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。  しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

処理中です...