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魔法書の秘密
12 グレン
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獏に触っただけで魔力をなくした候補生もいる、という委員長の言葉を思い出し、シンは慌てて後退りした。
それでも獏はシンにくっついて腕を舐めてくる。よく見ればシンの腕にはすり傷があって血が滲んでいた。滲んでいる血を舐めているのだと気づいて、どことなくかわいいと思っていた獏が怖くなった。シンは獏の生態を全く分かっていないのだ。
「あ、あっち行けよ」
追い払い方が分からず壁際に追い詰められたシンに、聞いたことのない声が降って来た。
「弱すぎだ。笑えるな」
中庭の木の上からひらりと飛び降りてシンの前に立ったのは、初めて見る顔の候補生だった。
本当に15歳だろうか、というのがシンの感じた第一印象だ。彼は兄と同じくらい大人びていて、髪の色は茶色と灰色を混ぜたような色をしていた。マントの短さから間違いなく一年だと思うのだが、態度は上級生や教師と変わらない。名札には『グレン 10』と記されていた。
グレンは手にしていた濃い赤の魔法書を取り出すと、中のページから一つの魔法を呼び出した。そこまでの一連の動作のためらいの無さに驚く。シンは校則で許可のない魔法が禁止されていることを知っていたので、それを破る生徒などいないと思っていた。
だがグレンはページから氷系の呪文を呼び出すと、シンに向かって素早く放った。
「‼」
とっさに防御の姿勢(といっても両手で頭をガードするだけだが)を取るが、思っていたような衝撃は襲ってこない。
「あ、あれ?」
顔を上げると、グレンの馬鹿にしたような冷たい表情が目に入った。
シンの前には獏がいて、その周囲をキラキラした氷の粒が舞っている。獏は平然とした態度で口をもぐもぐ動かし、氷の粒は獏の口に全て吸い込まれた。
「こいつらは魔法が大好物だから、いくつか食えば満腹になって失せるんだよ」
グレンの放った氷の魔法は、周囲に何一つ影響を与えること無く獏が無効化したらしい。
満腹になった獏は、満足そうにその場から去っていった。
「あの、校則破っていいんですか……?」
それに対してグレンは何も答えず、かわりに目を細めてシンを見た。
「さっきの奴ら、炎で燃やしてやったらどうだ?」
「そ、そんなこと……」
「無理か。その頭じゃな」
勝手に納得してせせら笑うと、グレンは池に落ちたシンの魔法書を破れたページと共に拾い上げた。それをシンの足元に放る。
「あの召喚士やってる教師なら修復出来ると思うぜ?」
「どうして……助けてくれたんですか?」
シンがそう言うと、グレンは座り込んでシンと目線を合わせた。
グレンの目は暗い灰色で、シンの黒に近いと言えない事もない。その暗さにシンは怖さを覚えた。どこかで見たような冷たい眼差しだ。
「お前さ、兄貴と血が繋がってると本気で思ってるのか?」
「えっ⁉」
「あの家は、そのうちお前を見捨てるぜ。あの兄貴もな。それまでにせいぜい、使える呪文を増やしておいた方がいい」
「どうして……」
そんな事を言うのだろう。彼は何を知っているというのだろうか。
「……兄さんは、僕を見捨てたりしない」
「どうだろうな」
グレンはそれだけ言うと、中庭から出ていった。
それでも獏はシンにくっついて腕を舐めてくる。よく見ればシンの腕にはすり傷があって血が滲んでいた。滲んでいる血を舐めているのだと気づいて、どことなくかわいいと思っていた獏が怖くなった。シンは獏の生態を全く分かっていないのだ。
「あ、あっち行けよ」
追い払い方が分からず壁際に追い詰められたシンに、聞いたことのない声が降って来た。
「弱すぎだ。笑えるな」
中庭の木の上からひらりと飛び降りてシンの前に立ったのは、初めて見る顔の候補生だった。
本当に15歳だろうか、というのがシンの感じた第一印象だ。彼は兄と同じくらい大人びていて、髪の色は茶色と灰色を混ぜたような色をしていた。マントの短さから間違いなく一年だと思うのだが、態度は上級生や教師と変わらない。名札には『グレン 10』と記されていた。
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だがグレンはページから氷系の呪文を呼び出すと、シンに向かって素早く放った。
「‼」
とっさに防御の姿勢(といっても両手で頭をガードするだけだが)を取るが、思っていたような衝撃は襲ってこない。
「あ、あれ?」
顔を上げると、グレンの馬鹿にしたような冷たい表情が目に入った。
シンの前には獏がいて、その周囲をキラキラした氷の粒が舞っている。獏は平然とした態度で口をもぐもぐ動かし、氷の粒は獏の口に全て吸い込まれた。
「こいつらは魔法が大好物だから、いくつか食えば満腹になって失せるんだよ」
グレンの放った氷の魔法は、周囲に何一つ影響を与えること無く獏が無効化したらしい。
満腹になった獏は、満足そうにその場から去っていった。
「あの、校則破っていいんですか……?」
それに対してグレンは何も答えず、かわりに目を細めてシンを見た。
「さっきの奴ら、炎で燃やしてやったらどうだ?」
「そ、そんなこと……」
「無理か。その頭じゃな」
勝手に納得してせせら笑うと、グレンは池に落ちたシンの魔法書を破れたページと共に拾い上げた。それをシンの足元に放る。
「あの召喚士やってる教師なら修復出来ると思うぜ?」
「どうして……助けてくれたんですか?」
シンがそう言うと、グレンは座り込んでシンと目線を合わせた。
グレンの目は暗い灰色で、シンの黒に近いと言えない事もない。その暗さにシンは怖さを覚えた。どこかで見たような冷たい眼差しだ。
「お前さ、兄貴と血が繋がってると本気で思ってるのか?」
「えっ⁉」
「あの家は、そのうちお前を見捨てるぜ。あの兄貴もな。それまでにせいぜい、使える呪文を増やしておいた方がいい」
「どうして……」
そんな事を言うのだろう。彼は何を知っているというのだろうか。
「……兄さんは、僕を見捨てたりしない」
「どうだろうな」
グレンはそれだけ言うと、中庭から出ていった。
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