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魔法書の秘密
2 カフェ②
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***
シンは図書館に併設されたバンブーカフェで兄を待っていた。
血と髪の毛を取られてから、毎日夕方になると出来るだけ時間を作ってカフェに来ていた。
ハンスには完全に本が好きなのだと誤解されていたが、本当は兄に会いたかったから。
アルフレッドは忙しいのか、まだ一度も図書館にもカフェにも顔を出していなかった。
「今日も来ないかな……」
138位のシンと、学年1位のアルフレッドでは忙しさが全く違う。弟想いの兄の事だから忘れられたわけではないと思うが、それでも会えないとさみしい。
カフェの隅の席でお茶を飲みながら、シンは頭に入ってこない本のページをめくった。
視界に影がさして顔を上げると、フード付きのマントを身につけた男が隣に立っていた。
「に……」
兄さんと続けようとして言葉を飲み込む。フードの下から覗くのは確かに兄の顔なのに、服装や雰囲気が今までと少し違っているだけでかなり大人びて見える。
「シン、待たせたな」
アルフレッドは周囲を気にするように同じテーブルについた。
「どうしたの?」
いつも堂々としている兄がフードを被っているなんて珍しい。髪や顔を隠さなければならないのはどちらかと言えばシンの方なのに。
兄は軽く息を吐いた。
「面倒だから隠してるんだ。赤は目立つからな。最近やたらと絡まれる。これなら魔法使い風だろ?」
「もしかして新入生代表の挨拶の時、決闘はいつでも受けるって言ったせい?」
シンはテーブルでメニュー表を開く兄の手に包帯が巻かれているのを見て不安になった。
アルフレッドはシンの視線に気づいて頬を緩める。
「これは剣の握りすぎってやつだ。別に怪我をしてるわけじゃない。決闘は……何度かこなしたが、弱いやつばかりでうんざりだな。それに決闘以外にも、一部の魔法使いに絡まれていて相手をするのが面倒なんだ」
自信家らしい兄の発言だと思う。怪我が酷くなさそうでシンも少しだけ安堵した。
「回復魔法で治してもらえばいいのに。魔法学の先生とか」
「たいした傷でもないのに魔法の無駄使いだ。剣や防具と同じで魔法は高額な消耗品だからな」
「僕が回復魔法を覚えたら、兄さんの回復をしてあげるよ。サポートする約束だったから」
シンが照れながらそう言うと、アルフレッドはじっとシンを見て、その手を握った。
「な、何?どうかしたの?」
「元気がないけど、何かあったのか?」
シンは一瞬、魔法書を作る時の事を思い出した。担任の先生に冷たい言葉をかけられた事、血を抜かれる悪夢を見た事。それに入学式で会った理事長が怖くてたまらなかった事。
「あ、あのね……」
しかしなんと言えばいいのだろう。口にするには漠然としすぎていて、兄に甘えているだけのような気がした。
「……友達はできたのか?」
シンが黙っているのでアルフレッドは質問を変える。
「ああ。うん。ハンスっていう名前の友達。明るくて楽しい性格なんだよ」
「そうか、良かったな。今度紹介してくれ」
「うん」
それからシンは、魔法使い棟の庭にいる獏の話や、同室の委員長が素っ気ないという話をした。
「委員会の時に会ったけど、なかなか頭の良さそうな男だな。いかにも魔法使いってタイプだ」
「同室なんだけど、僕はほとんど会話した事ないんだ」
「妙に絡んでくるやつよりマシだな。あと、あいつ目は悪く無さそうだ」
「え?眼鏡かけてるよ」
「多分飾りだろう。それか、魔法を補佐する道具のどちらかだ。心に何かを抱えていてそれを表に出したくないんじゃないか?」
シンはアルフレッドの洞察力に驚いた。同じ部屋にいても、シンには委員長のことは何も分からなかったし、気難しい性格で嫌われているとばかり思っていた。
「僕、全然気づかなかったよ」
「あくまでも俺の勘だけどな。入学して気づいたが、実力をセーブしている奴が多い。だから順位が必ずしも本当の順位とは限らないと思う」
「えっ!?」
全力で臨んだ試験なのにCクラスだったシンにとってはかなり耳の痛い話だ。
「兄さんは……?大丈夫?」
「俺も手を抜いていたから問題ない」
アルフレッドは余裕のある笑顔で答え、シンは目眩がしそうだった。
シンは図書館に併設されたバンブーカフェで兄を待っていた。
血と髪の毛を取られてから、毎日夕方になると出来るだけ時間を作ってカフェに来ていた。
ハンスには完全に本が好きなのだと誤解されていたが、本当は兄に会いたかったから。
アルフレッドは忙しいのか、まだ一度も図書館にもカフェにも顔を出していなかった。
「今日も来ないかな……」
138位のシンと、学年1位のアルフレッドでは忙しさが全く違う。弟想いの兄の事だから忘れられたわけではないと思うが、それでも会えないとさみしい。
カフェの隅の席でお茶を飲みながら、シンは頭に入ってこない本のページをめくった。
視界に影がさして顔を上げると、フード付きのマントを身につけた男が隣に立っていた。
「に……」
兄さんと続けようとして言葉を飲み込む。フードの下から覗くのは確かに兄の顔なのに、服装や雰囲気が今までと少し違っているだけでかなり大人びて見える。
「シン、待たせたな」
アルフレッドは周囲を気にするように同じテーブルについた。
「どうしたの?」
いつも堂々としている兄がフードを被っているなんて珍しい。髪や顔を隠さなければならないのはどちらかと言えばシンの方なのに。
兄は軽く息を吐いた。
「面倒だから隠してるんだ。赤は目立つからな。最近やたらと絡まれる。これなら魔法使い風だろ?」
「もしかして新入生代表の挨拶の時、決闘はいつでも受けるって言ったせい?」
シンはテーブルでメニュー表を開く兄の手に包帯が巻かれているのを見て不安になった。
アルフレッドはシンの視線に気づいて頬を緩める。
「これは剣の握りすぎってやつだ。別に怪我をしてるわけじゃない。決闘は……何度かこなしたが、弱いやつばかりでうんざりだな。それに決闘以外にも、一部の魔法使いに絡まれていて相手をするのが面倒なんだ」
自信家らしい兄の発言だと思う。怪我が酷くなさそうでシンも少しだけ安堵した。
「回復魔法で治してもらえばいいのに。魔法学の先生とか」
「たいした傷でもないのに魔法の無駄使いだ。剣や防具と同じで魔法は高額な消耗品だからな」
「僕が回復魔法を覚えたら、兄さんの回復をしてあげるよ。サポートする約束だったから」
シンが照れながらそう言うと、アルフレッドはじっとシンを見て、その手を握った。
「な、何?どうかしたの?」
「元気がないけど、何かあったのか?」
シンは一瞬、魔法書を作る時の事を思い出した。担任の先生に冷たい言葉をかけられた事、血を抜かれる悪夢を見た事。それに入学式で会った理事長が怖くてたまらなかった事。
「あ、あのね……」
しかしなんと言えばいいのだろう。口にするには漠然としすぎていて、兄に甘えているだけのような気がした。
「……友達はできたのか?」
シンが黙っているのでアルフレッドは質問を変える。
「ああ。うん。ハンスっていう名前の友達。明るくて楽しい性格なんだよ」
「そうか、良かったな。今度紹介してくれ」
「うん」
それからシンは、魔法使い棟の庭にいる獏の話や、同室の委員長が素っ気ないという話をした。
「委員会の時に会ったけど、なかなか頭の良さそうな男だな。いかにも魔法使いってタイプだ」
「同室なんだけど、僕はほとんど会話した事ないんだ」
「妙に絡んでくるやつよりマシだな。あと、あいつ目は悪く無さそうだ」
「え?眼鏡かけてるよ」
「多分飾りだろう。それか、魔法を補佐する道具のどちらかだ。心に何かを抱えていてそれを表に出したくないんじゃないか?」
シンはアルフレッドの洞察力に驚いた。同じ部屋にいても、シンには委員長のことは何も分からなかったし、気難しい性格で嫌われているとばかり思っていた。
「僕、全然気づかなかったよ」
「あくまでも俺の勘だけどな。入学して気づいたが、実力をセーブしている奴が多い。だから順位が必ずしも本当の順位とは限らないと思う」
「えっ!?」
全力で臨んだ試験なのにCクラスだったシンにとってはかなり耳の痛い話だ。
「兄さんは……?大丈夫?」
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