赤い髪の騎士と黒い魔法使い

黒い髪の弟

8 夜

　木から落ちた時の傷は、魔法ですっかり治ってしまったが、それからしばらくシンは両親と兄の勧めもあって部屋の中で寝たり起きたりして過ごした。

　家族も屋敷にいる召使いも、シンを心配してくれたので、心配をかけないようにシンは明るく振る舞った。

　たが、問題は夜だった。
　どうしてもあの恐ろしい夢を思い出してしまう。何度か眠れない夜を過ごし、シンはある日そっとベッドを抜け出した。

　隣りの兄の部屋をノックする。

「……あにうえ？」

　ドアを開けて部屋に入ると兄はすでに眠っていた。でもシンが近寄ると、気配に気づいたのか目をこすって起き上がる。

「……シンか、驚かすなよ。どうした？眠れないのか？」
「怖い夢を見て……」

　アルフレッドは何も言わず、自分の隣りにスペースを作る。
　この屋敷では子供でもキングサイズのベッドが用意されていたので、子供二人寝ても余るくらい広い。
　シンは嬉しくなって、兄の隣りに横になった。

「……怖い夢を見て眠れないなんて、子供だなーお前は」

　兄上はそう言うと、すぐにすやすやと寝息をたて始めた。確かに子供かもしれない。
シンは兄に気付かれないように、そっとアルフレッドの服の裾を握って眠りに落ちた。