立日の異世界冒険記

0109.頭脳戦

　健はとりあえず部屋の中を走り回って岩石ゴーレムから逃げながら作戦を考えることにした。本当は、こんな部屋からとっとと出て行きたいところだ。だが、龍が宝石に吸い込まれてしまっていて、放っていくわけにもいかない。健が逃げていると、またカチッと音が聞こえた。
「何だよ。攻撃された時だけじゃないのかよ。」
　岩石ゴーレムの動きはかなり速くなっている。もはや健は、岩石ゴーレムから逃げるのに、全速力に近い速さで走って逃げていた。だが、しばらくしてからまたカチッと音がする。健はたまらず部屋を出て、元来た通路の方に逃げ出した。あれ以上の速度で追いかけられたら逃げ切れない。そんな絶望的な思いで後ろを振り返ったが、岩石ゴーレムは部屋の外までは追いかけて来ていかった。
　健は念の為に十字路まで戻って様子を伺っていたが、岩石ゴーレムは追って来ない。どうやら、岩石ゴーレムはあの部屋の中だけで行動するようだ。走り疲れて息も絶え絶えやの健は、ほっとして、その場で寝転がった。一応、超感覚で確認しており、近くに敵はいないはずだ。
　だが、魔法の短剣も効かないし、どうやって岩石ゴーレムを倒せばいいのだろうか。いや、倒す必要はない。だが、あの岩石ゴーレムを何とかしないと、宝石に吸い込まれた龍を助けることができない。しばらくして呼吸も落ち着いてきたところで、健は方針を決めた。まずは、岩石ゴーレムがどうなっているかを見に行かないといけない。
　音を立てないように慎重に岩石ゴーレムがいる部屋の入口まで戻り、健は気付かれないように中を覗きこんだ。すると、どういう仕組みなのか分からないが、岩石ゴーレムは一番最初に見た時と同様に部屋の中央でゆっくり動いている。それを見た健は、はっきりと分かった。これは、強さの戦いではなく、頭脳戦だ。うまくやれば龍を救い出せるぞ。
　目標は、岩石ゴーレムを何とかして部屋の中央の台の上にある宝石を手に入れることだ。龍を救い出す方法は、宝石を手に入れた後でゆっくり考えればいい。そうなるとやることは自ずと決まってくる。幸運だったのは、岩石ゴーレムの速さが元通りに遅くなっていることだ。おかげで、すごくやり易い。要は岩石ゴーレムの速度が再び加速する前に宝石を手に入れてしまえばいいのだ。
　作戦はほぼ決まってきたが、一番の難問がまだ残っている。宝石を手に入れようとしたら、健も龍のように宝石に吸い込まれてしまう可能性があるのだ。どうすればいい。一歩間違えると、健と龍の冒険はここで終わってしまう。