立日の異世界冒険記

ナイトタイガー

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0075.湖畔の商人

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 このウサギも同じ丸眼鏡をかけている。だが、体の色が違う。健は思わず、思っていることを口に出してしまう。
「紫色だ。緑色じゃない。」
 紫色のウサギはニッコリと満面の営業スマイルを浮かべて返事をした。
「ああ、それは私の兄ですね。兄は学者なんですが、私は商人でして。性格も丸っ切り違います。はい。」
 確かに緑色のウサギは、興味のある火の精以外にはとても無愛想だった。かたや、この紫色のウサギは、信用ならない笑顔ではあるが、とてもニコニコしていてメチャクチャ愛想がいい。
「はてさて、早速なんですが、皆様がとてもお困りの様子だったのでお声をかけさせていただきました。」
 ウサギはニコニコ顔で体の前で手揉みしながら話を進めていく。健はそんなウサギの手揉みを見ながら心の中ではウサギって肉球ないんかいというツッコミが頭に浮かんでいた。
「それでですね。お困りのあなたにピッタリの商品をいくつかご紹介させていただきます。まずは一つ目、この魔法の鈴をご覧下さい。この鈴を鳴らすとどうなるでしょう。」
 そう言うと、ウサギは三つの鈴が取り付けられた腕輪のようなリングを軽く振って鳴らしてみせた。鈴は互いにぶつかり合ってシャンシャンと鳴る。
「あら不思議。湖の氷の動きが止まります。」
 健達が湖の氷を見ると、確かにゆっくり動いていた氷が止まっている。
「お見せした鈴は、残念ながら氷を5秒しか止められません。しかししかし、商品としてご提供できる方の鈴は、なんと氷を1分間止められます。」
 止まっていた氷は5秒経った後、本当に動き出した。
「ただし、鈴は3回使用すると壊れてしまうのでご注意下さい。そして、次にご紹介する商品はこちらです。」
 ウサギは、今度は小さい笛を取り出す。
「この笛は魔法の笛ではありませんが、とても役に立ちます。あなたは、この小さい笛を吹くとどうなると思いますか。」
 ウサギは、観客の火の精を指差しで指名して質問した。
「え、オイラに聞いてんの。うーん、分かんないな。犬が飛んでくるとか。」
「非常に惜しい。いいセンいってましたよ。実は犬ではなく、コイツが来ます。」
 ウサギが小さい笛を思いっきり吹くと、甲高いピーッという音が響き渡る。その直後、氷の湖の中から激しく水面を叩く音と、氷が破壊されて軋み砕ける音が聞こえてきた。バカデカい鎧ザメが音の聞こえた方向に気が狂ったように突進して来ているのだ。ウサギは湖の外にいるので勿論、無事だが、湖の氷の上にいたらただでは済まなかっただろう。さらに、健達は岸の近くまで突進してきた鎧ザメの戦艦のような体が、いかにバカデカいかを改めて認識させられた。
「こちらの商品ですが、残念ながらただ呼ぶことしかできません。しかも呼ぶことによってあのように興奮してしまいますので、湖の中で吹く際にはご注意下さい。」
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