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0056.白と黒

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 銀髪の女は、何とか健を洞窟に連れて帰ったが、健の状態は前に寝込んでしまった時とは比べものにならないほど酷かった。見えない黒色の音の代償は高く、使い手は半分の確率で死亡し、仮に生き残ったとしても、何らかの大きな代償が残ると言われている。
 寝かせられた健の顔色は、葬式で棺桶に入れられている人のように青白い。呼吸もしているかどうかの判別が難しいほど少なくなっており、いわゆる仮死状態になっていた。それでも、銀髪の女は諦めずに健の介護を続ける。
「オイラも頑張って温めてやるぜ。」
 どうやら、シドが倒されたおかげか、氷にされた火の精も復活して洞窟に戻っているようだ。健が予め準備しておいた枯れ枝を使った焚き火が焚べられ、力を取り戻した火の精も健の体を温め続けた。
 そんな健の意識は、白と黒の世界の間を漂っていた。白の世界はとても明るく、すべてがはっきりと見えるけれども、そこには何もなく、とても希薄な印象だ。黒の世界は、真っ暗で何も見えず、心の奥底から感じる理由のない怖さを感じる一方で、とても不思議な暖かさもある。
 黒の世界から白の世界にフワフワと移動すると、まとわりついていた恐怖がなくなり、最初は安心するのだが、そのうちに心が飽きて退屈になり、自分が消えていきそうな感覚になってくる。逆に、白の世界から黒の世界にフラフラと移動すると、最初は好奇心のような興奮が満ち溢れるのだが、だんだんと心を押し潰すような不安に包まれていく。
「うーん。どうも居心地がよくないなあ。どこか他の場所はないのかなあ。」
 健の意識は幸いにしてまだ生きる方向に向かうことができた。そして、意識が他の場所を探し始めたことで、うまく死を逃れることができた。銀髪の女は、健の顔色が少しずつ良くなってきていることに気付く。
「お、少し動いたぞ。いいぞ、いいぞ。どんどん温めるぞ。」
 火の精も頭から火花を弾き出しながら踊り始めた。それでも、健がようやく意識を取り戻したのは5日後だった。健は、かすれる声を振り絞って聞いた。
「どうなった。あいつらは、どうした。お前らは、無事だったのか。」
「健、気がついたのね。大丈夫よ。健が1人を倒した後、他の2人はすぐに逃げて行ったわ。私達は、無事よ。」
「そう、そう。健があの男を倒してくれたおかげで、俺も氷から出ることができたんだぜ。」
「そうか。」
 健は、それだけ言うとまた意識を失った。眠る健の表情は、少しだけ穏やかになっている。銀髪の女の介護と火の精の暖かい火のおかげで、次の日、健は完全に意識を取り戻した。
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