立日の異世界冒険記

0039.ベイル達の反乱

　一匹のベイルが雄叫びをあげると、他のベイル達がそれに追従して雄叫びが共鳴し合う。ベイル達は、雄叫びをあげる度に全身の筋肉がみるみる隆起していき、着ていた服が筋肉の膨張に耐え切れずにブチ破れた。さらに全身には獣のような茶色い剛毛が伸び始める。口は耳の近くまで裂けて長い牙が剥き出しになり、耳も狼のように三角に尖り出す。いつの間にか手にも凶悪な鋭い爪が生えている。善良そうな人間の姿をしていたベイル達の姿はもはやそこにはなく、猛り狂った巨大な獣の群れと化していた。
　雄叫びを聞いて、様子を見に来ていた陽炎はベイルの変貌ぶりを見てすぐに援軍を呼びに戻って行った。だが、その隙に、巨大化したベイル達は次々と牢屋の鉄格子に体当たりを始め、たちまち牢屋は破壊された。牢屋から飛び出したベイル達は、近くにある物を手当たり次第に叩き壊しながら散開していく。
　たまたま近くを歩いていた陽炎はすぐさまベイル達のターゲットになった。陽炎は剣を持ち応戦するが、巨大化したベイル達の敵ではなく、剣は叩き折られて陽炎も一瞬にしてベイル達にやられてしまった。
　さらにベイル達はバラバラになって近くにある建物に向かって行く。最初に来た陽炎が援軍を連れて戻って来ると、牢屋には数頭のベイルしかいなかった。残っているベイル達は体に異常があるのか、陽炎達が来ても低い唸り声を出すだけで動き出しはしなかった。
「一体どういうことがあったんだ。」
　陽炎のリーダーは、破壊された牢屋の残骸から状況が理解できず、呼びに来た陽炎に問いただす。勿論、誰も説明することができない。しかし、情報の少ない中でも陽炎のリーダーの判断は早かった。
「まずは、こいつらを始末するぞ。」
　そう言うと、長い両刃の剣を抜き、目の前にいるベイルに一撃を叩きこんだ。ガチンという音がして剣が弾き返される。
「これはまずいぞ。」
　陽炎のリーダーは瞬時に最悪の状況を把握した。陽炎のリーダーが持っている両刃の剣は、他の陽炎が持っている剣よりもはるかに切れ味が鋭い逸品だったのだ。その剣ですら弾き返されるとなると、他の陽炎達ではとても相手にならない。
　いきなり斬られたベイルは興奮して向かってくる。しかし、陽炎のリーダーはまったく動じず、呪文のような何かをつぶやき始めた。その効果なのか、両刃の剣の刃は黒く濁った色に変わっていく。そして、陽炎のリーダーが向かってくるベイルに両刃の剣を斬りつけると、先程は弾き返された刃が今度はベイルの体を切り裂き、ベイルは大きな叫び声をあげて倒れた。辺りには、肉が焼け焦げたような臭いが漂っている。陽炎のリーダーは残るベイルも次々と始末した。