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0037.歓迎の宴

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 健が座るとすぐに宴が始まった。気付くと、楽しいような悲しいような微妙な雰囲気の曲がリズムよく流れている。そして、陽炎達がどのようにして飲食しているのか分からないが、彼らの前に置かれた食事や飲み物は勢いよくなくなっていく。健があっけにとられて見ていると、陽炎のリーダーから注意される。
「早く食べないとなくなるぞ。お前の周りにいる奴らは特に食うのが早いからな。」
 健も慌てて飲み食いを始める。何風の料理か分からないが、どの料理も見た目通りにとても美味しい。食べ始めると、手が止まらないほどだ。色んな料理と飲み物を試しているうちに、健は頭がフワフワしていい気持ちになってきた。飲み物の中に酒のようなものがあったのかもしれない。しばらくして、陽炎のリーダーが用事で席を外すと伝えてきた。
「俺は、用があって少し席を外す。みなまで言わないが、分かっているな。」
「ああ。」
 本当に生真面目な奴だと思いながら、ほろ酔い気分の健は適当に返事をした。陽炎のリーダーがいなくなった後、近くにいる陽炎が話しかけてきた。
「あんた、本当に俺らの話が分かるんだね。びっくりしたよ。」
「ああ、分かるよ。うん。」
 それの何が不思議なんだろうと思いながら相槌を打つ。その陽炎はさらに食いついてきた。
「あと、魔法っていう不思議な術が使えるって聞いたよ。本当かい。」
「本当だよ。俺は少ししか使えないけどね。」
 まだ陽炎のリーダーと長老にしか伝えていないはずなのに、何か俺の噂が広まるのが早いな。
「よかったら、少し見せてくれないか。」
 健は少し考えこんだ。気を付けろと言われている立場だから断った方がいいのだろうか。健が黙っていると、近くにいた他の陽炎も参加してきた。
「話を聞いていたぜ。俺もあんたの魔法を見てみたいな。是非、頼むぜ。」
「あたしも。魔法っていう言葉は知らないけど、素敵な響きね。」
 む、陽炎には女もいるのか。そもそも性別があるのか。そんな疑問が頭に浮かぶが、今やそれどころじゃない。周りの陽炎の押しが強く、健はどんどん断り難くなっていた。
「しょうがないな。じゃあ俺ができる本当に軽い奴だけね。」
「よ。待ってました。」
「いいぞ。いいぞ。」
 健は陽炎のリーダーに見せたように魔法ではなく、能力で誤魔化すことにした。サラダの中に入っていた葉っぱを一枚つまみあげると、両指で支えながら見えない橙色の音を流し込み、超高速振動させた後に息を吹きかけて空に舞わせた。
 周りにいる陽炎達も酔っ払っているのか、葉っぱが舞い上がると、歓声がどっと沸いた。ほろ酔いの健は、その歓声を聞いて、舞台の主人公のようにいい気分になった。
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