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0034.魔法の実演

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 健は陽炎に魔法の実演をしてみせる作戦に出た。ただし、短剣の魔法は刺激が強すぎるからダメだ。下手に短剣の魔法を見せたら攻撃されたと思われる可能性もあるし、短剣を没収されるかもしれない。だから、実際の魔法ではなく、健の能力を見せることにした。
 健は、相手を刺激しないようにゆっくりと動き、地面に落ちている葉っぱを一枚拾い上げた。
「今から魔法を見せてやるよ。よく見といてくれ。」
 そう言うと、健は見えない橙色の音を慎重に葉っぱに流し込んだ。葉っぱは目に見えない程、超高速振動をしてまるで蜂の飛ぶような小さい振動音を発し始めた。そして、健は葉っぱから徐々に両手を離して行く。すると、葉っぱは空中で浮いたまま静止した。
「ほう。」
 陽炎はその様子をじっくりと観察しているようだ。よし、ちゃんと見てもらえているな。健は、そう確認すると、今度はそーっと葉っぱに息を吹きかけた。息を吹きかけられた葉っぱは、動き始めて空に舞い上がった。そして、そのまま遠くまで飛び去って行った。
 実は、これは健がまだ小さかった頃、厳しい修行で大泣きした時に、爺ちゃんが見せてくれた技だった。健は、その不思議な動きに気をとられて泣き止んだ記憶がある。
「ふむ。確かに興味深いな。」
 陽炎が口を開いた。
「だが、それだけだ。何でもできるとは思えんな。」
「俺はまだ魔法を少ししか使えないんだ。本当の魔法使いはもっとすごい魔法を使えるのさ。」
 そんなやりとりをしている中、ホラ貝のような音がまた響き渡る。
「む。どうやら撤収の時間だ。続きの話は戻ってからだ。お前も一緒に来い。」
 そう言うと、陽炎は獣を操ってクルリと背を向けると、ゆっくりともと来た道を戻り始めた。健は慌てて陽炎について行く。途中で何度か他の陽炎達に合流したが、健と会話した陽炎が簡単な説明と指示を出すだけで他の陽炎達はそれに従い、健に危害は加えられなかった。どうやら健と会話した陽炎は、他の陽炎よりも偉いリーダー格らしい。
 大草原の民達が、槍の傷で血だらけのまま紐で引きずられている中、健だけが拘束されずに歩いて陽炎達に付いて行く。異様な光景である。健は、酷い仕打ちを受けている大草原の民達を横目で見ていたたまれない気持ちだったが、陽炎のリーダーからはぐれないように必死で付いて行った。行軍は30分以上も続き、目的地に着いた時、健はヘトヘトだった。
 そこは、見たところ、陽炎達の本拠地と思われる。そこそこの広さの中に、大小の石造りの建物が多数あり、獣達を飼う牧場のような施設も隣接している。
 陽炎のリーダーは、自分が乗っていた獣を他の陽炎に引き渡すと、健について来いと声をかけて建物の一つに向かって歩き始めた。
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