立日の異世界冒険記

ナイトタイガー

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0032.大草原の民

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 健は寝転がってあれこれ考えていた。勿論、何が起こるか分からないので一応、警戒はしている。しかし、暖かい陽射しの中、大草原の草を揺らしながら吹く風がとても心地よく、本当に寝てしまいそうだ。
 さっきまでの恐ろしい試練の事が、まだ頭から離れない。間違いなく死が迫っていたと思うが、今ここで寝転がっているとまるで夢を見ていた気分だ。あまり経験したことがなかったが、こういう幸せもあるんだと実感する。
 最大限の警戒をしているつもりだったが、のどかな場所でのあまりの心地よさに健はウトウトし始め、ついには寝てしまった。
 それからどれくらいだったのだろうか。健は、ガヤガヤと騒がしい音で目を覚ました。最初は寝ぼけていたが、自分がうかつにも寝てしまったことに気付き、焦って飛び起きた。
 健を取り囲むようにして、善良そうな顔をした男女が10人ほど集まって覗きこんでいる。ひょっとしたら、この大草原に住んでいるのだろうか。大草原の民は、皆、20代位に見える。西洋風の衣服を身に着けており、手ぶらで武器は持っていない。表情も穏やかであり、とりあえず敵意はなさそうだ。
「すみません。ここはどこですか。」
 健は話しかけてみた。しかし、皆、キョトンとした顔をして互いに顔を見合わせている。
「おかしいな。レイニーの魔法で言葉が通じるはずなんだが。試練中だからなのかなあ。」
 健は諦めずに身振り手振りも交えながら色々話しかけてみたが、結局、会話はできなかった。そのうちに、健は、ずっと感じていた違和感の正体に気付いた。こいつらは、俺と会話しないだけじゃない。お互い同士でもまったく会話していないぞ。皆、一様にニコニコしていて、時々、笑い声やはしゃいだ声を出すが、内容のある会話をしている感じはない。
「うーん。どういう事だ。」
 単に疎遠の仲の人達がたまたまここに集まったって訳じゃあないよな。健が首を傾げて考えこんでいると、ホラ貝のような高らかな音が響き渡った。それを聞いた瞬間、今までニコニコしていた男女は、皆、慌ててバラバラの方向に逃げ始めた。健は何事かと身構える。すると、遠くから毛むくじゃらの巨大な獣に乗った何かの集団がこちらに向かって来ている。30匹以上はいる獣の上に乗っているその何かは、健の目には姿がよく分からない。まるで陽炎かげろうのようにユラユラとしていて形がない。
 健は、危険な雰囲気を感じとり、とっさに近くにあった少し高い草むらに隠れた。だが、大草原の民の男女達は草に隠れもせず、目立つ場所で走り回っている。そのせいで、すぐに陽炎の軍団に追いつかれてしまった。陽炎達は、大草原の民に槍を投げつけて倒し、次々と捕まえていく。幸いにして草むらに隠れた健は、その存在を気付かれずに済んだ。
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