立日の異世界冒険記

ナイトタイガー

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0012.底なしの胃袋

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 健は突然目に入ってきた小さな黒い龍を見て気が動転した。黒い龍は、光沢のある黒色の鱗で鎧のように体が覆われており、背中には小さいが立派な羽をはやしている。犬とワニの合いの子のような可愛く怖い顔をしており、半開きの大きな口から鋭い牙が見える。さらに前脚の先の指は器用そうだが、先端は凶悪な鋭い鉤爪になっている。おまけに太く頑丈な尻尾も持っている。健は、それでも何とか叫び声を押し殺し、身体も微動だに動かさずに見た目だけは平静を装った。
 だが、龍はそんなことはどうでもいいと言わんばかりに丸く可愛い目を大きく見開いて健が燻している魚をじっと見つめている。少し落ち着いてきた健は龍が明らかに赤ちゃんであるという結論に達した。とはいえ、龍は龍だ。機嫌を損ねないように気を付けないと。健は燻している魚を一匹枝でつまみあげて龍に放り投げてみた。龍は目を輝かせ、魚が地面に落ちる前に一口で丸呑みにした。
 そして龍は次の魚をよこせと言わんばかりに丸い目でこちらを見てワクワクしている。健は、魚をもう一匹放り投げた。またもや、龍は巧みな動きで魚を口でキャッチし、そのまま一飲みした。その瞬間の動作があまりにも見事で絵になるので、健はついつい魚をポンポン放ってしまい、気付いたら魚は全部なくなっていた。
「あちゃー。しばらくは食事の心配をしなくてもよいと思ってたのに。」
 龍はまだまだ食べれそうな余裕があったが、さすがに魚が全部なくなった事は理解できたようである。大きなあくびをすると、焚き火の前で丸く寝転がって昼寝をし始めた。赤ちゃんだけあって寝ている姿もとても可愛い。
「うーん。この状況で俺はどうしたらいいんだ。」
 とりあえず、龍は俺には敵意を持っていなさそうだ。あれだけ食事もあげたし、襲ってはこないだろう。健は諦めてもう一度、川に魚を獲りに行くことにした。先程とは場所を少し変え、見えない緑の音を使って再び20匹程度の魚を手に入れることができたので、焚き火を使って保存食を作り直し始める。
 ところが、魚を燻し始めるや否や、龍の目がパチっと開いた。龍のまん丸いお目々が健の目と合う。
「え~。マジで。」
 健はこの後の運命をすべて悟って早々に諦めた。さっきと同じように魚をポンポン放って龍に食べさせる。健が獲った魚はすぐになくなった。龍と健の心の距離がさっきよりも近づいたのか、食べ終わった龍は今度は健の膝に頭を乗せて眠り始めた。健は自然とよしよしと龍の頭を撫でた。
「まだ、チビ助だし、しょうがないよな。」
 いつの間にか昼近くなっており、健もそのまま一緒に寝転がって昼寝をすることにした。
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