立日の異世界冒険記

ナイトタイガー

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0010.極上の夢の正体

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「邪魔すんな。」
 健は美女2人を脇に押しやった。
「まずいぞ。まずいぞ。どうすればいい。」
 健はご馳走の匂いや、まとわりつく美女等のありとあらゆる甘美な誘惑と戦いながら、夢の中で回らない頭を必死に使った。
「そうだ。あれならいけるかもしれない。」
 夢の中にいると分かっているが、集中するために目を瞑る。そして自分の耳に向けて見えない緑の音を放つ準備をする。今までやったことはないが、後遺症が残らないようにできるだけ威力を落とす。そして対象を自分自身に設定する。意識が夢の中にあるとはいえども、見えない緑の音を放つ精神的な手順は今までの修行で何万回、何千万回、いや何億回以上も繰り返した手順だ。間違えるわけがない。
「よーし、いくぞ。」
 覚悟して慎重に緑の音を放った次の瞬間、とんでもない衝撃音が両耳から飛び込んできた。健は、耳を押さえながら飛び起きた。頭がキンキンするが夢の中からの脱出成功だ。まだ、耳がキーンと鳴っている。おまけに、二日酔いの後のように頭がガンガンする。周囲には甘ったるい匂いが充満している。
 健は急いで足に巻き付いていた蔦を引き剥がした。蔦の元を辿ると洞穴がある岩の上の方に続いている。
「本体を潰しておかないとな。」
 洞穴から少し離れたところから岩の上を見上げて確認すると、蔦の先には薄気味の悪い紫色の細い木が生えていた。何を隠そう、これが蔦の本体であり、異世界ではその手口からサキュバスの鞭と呼ばれている危険な植物であった。健はしばらく観察して結論を出した。
「あの細さならやれるな。」
 そう言うと見えない青い音を憎き紫色の木の真ん中辺りに向けて連続で放った。紫色の木は最初の一二発では耐えていたが、連続で受ける衝撃には耐えきれず、最後にはバキッと折れて木の上半分が岩の下に落ちてきた。
「ざまあみろ。」
 健は紫の木の半切れを思いっきり踏みつけた。夜は明けておらず、まだ辺りは暗い。睡眠を邪魔されたおかげでまだ疲労が抜けきっていない。体調が最悪の健は忌々しそうに紫色の木の半切れを見ていたが、ふと閃いた。
「待てよ。この木は相変わらず頭が痛くなるほど甘い匂いがして酔いそうになる位だし、後で何かの役に立つかもしれんな。」
 そう考えた健は紫色の木の半切れを洞穴の奥の方に放り込んだ。洞穴の入口も草木で隠して分からないようにしておいた。
 まだ眠いがもう洞穴では眠れないな。さて、どうするか。甘ったるい匂いが体に染み付いて気持ちが悪い。とりあえず、川に行って体を洗おう。健は、昨日みつけた川に向かうことにした。まだ夜が明けていないので、最大限の警戒をしながら記憶を頼りに川の方に進んで行った。
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