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第32話 新たな日常の訪れ
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ちょっと申し訳ないけど荒木田さんが訪ねてくると若干身構えてしまう。またなにかトラブルがあったとかなのかな。
そんなことを考えていると、どうやらそれを察したのか荒木田さんが脇に置いていた袋を取り出した。
「そんなに警戒しなくて大丈夫ですよ。ただのお見舞いです。差し入れに果物を持ってきました。おいしいですよ」
「あ、ありがとう。でも、本当にそれだけなの?」
袋を受け取ると荒木田さんは後ろ頭をかいた。
「まあ、少し事後報告をしようと思って来てはいます。といっても、そんなに大した内容ではありませんよ」
私はテーブルを挟んで荒木田さんの正面に座る。
「事後報告ってことは、やっぱりダンジョン関係?」
「ええ。昨日の配信のおかげで、管理局への問い合わせは激減しました。これで特級探索者を集めることができます」
荒木田さんの言葉にふと疑問を感じた。
「あれ?まだ人手を集めるの?もう異変の原因はなくなったのに」
「中層まで進出しているSランクモンスターの駆除が目的です。それが完了すれば、晴れてダンジョンは正常化するでしょう」
なるほど。そういうことね。まだ後始末は残ってるのか。
「ですが、心配しなくて大丈夫です。ここから先は灰戸さんたちの力を借りずに、こちらで対応させていただきます」
それを聞いて、ちょっと拍子抜けしてしまう。
「え、いいの?てっきりまた依頼されるものかと思ってたけど」
「事後処理なら他の特級探索者にも頼めます。これ以上灰戸さんの手を煩わせる必要はありませんからね」
「そっか」
「そういうわけで、改めてご協力ありがとうございました。また後日になりますが、貢献度に見合った報酬を用意させてもらいます」
荒木田さんはそう言って頭を下げた。
「では、今日はこの辺で失礼します。ゆっくり体を休めてくださいね」
荒木田さんが帰って、私は貰った差し入れを食べながらなんだかモヤモヤとした気持ちを抱えることになった。
私の日常を騒がせていた依頼が無くなって、やっと元の生活に戻れるのになんで物足りなさを感じているんだろう。
釈然としない心境のまま、夜が更けていった。
そして、翌日。
昼休みに水無瀬さんが訪ねてきた。
いつものように中庭のベンチに向かう。一緒に昼食を取るのも、もはや定番になりつつあった。
「アキちゃん、体はもう大丈夫なの?」
心配そうに聞いてくる水無瀬さんに、できるだけ元気な素振りで返事を返す。
「うん。昨日たっぷり休んだからすっかり治ったよ」
水無瀬さんは小さく「よかったぁ」と呟き、ホッとした様子で笑顔を浮かべる。
「みんな無事に戻って来れたし、ダンジョンに悪さしてたドラゴンも倒せて一件落着だねっ!」
「そうだね。中層に残ったSランクモンスター退治は管理局がやってくれるらしいから、やっと一息つけそう。戦いも大変だったけど、カメラで撮られるのがどうしても苦手だから、配信の依頼がなくなってくれてありがたいよ」
すると、水無瀬さんは少し悩まし気な表情で口を開いた。
「……ちょうど配信の話が出たし、言っちゃおうかな。実はこの前の配信が終わってから、わたしのところにすごい数のリクエストが届いてるの。アキちゃんとまひろちゃんのファンになったっていう人たちから……」
それを聞いて思わずギョッとする。ファン?私とまひろさんに?なぜそんなことに……。
「そ、それってどういうことなの?リクエストってどんな?」
慌てふためきながら質問すると、水無瀬さんも戸惑いながら答えてくれる。
「その、2人が戦ってる姿を見て惚れ込んじゃったっていう人がたくさんいてね。それで、またコラボ配信してってお願いが集まってるの。もっと2人の声が聞きたいんだって」
いつもの私だったら、「人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!」って言うところだ。でも、この時私の胸の内には不思議な思いが去来していた。
引き受けたらまた水無瀬さんと自然に集まれる。今までボッチだったこの私が、水無瀬さんとは割と無理なく話せるようになってきていた。そんな彼女と一緒に過ごす時間を作ることができる。
そのことに魅力を感じていた。ソロでのダンジョン探索が当たり前だった今までの私なら考えられない。
でも、昨日のまひろさんとの会話をふと思い出す。自分でも気づかないうちに、人と触れ合うことが楽しいと感じるようになってきているのかもしれない。配信に出るくらいは頑張ってみてもいいかと思えるくらいには。
「……じゃあ、やろっか。コラボ配信」
自分でも意外なほどあっさりとその言葉が口から出ていた。
水無瀬さんは驚いたように目を丸くしている。
「え?ホントに?アキちゃんだったら嫌がるかなって思ってたんだけど……」
「ちょっとくらいならまあ、いいかなって。あ、でもせっかくだからまひろさんも呼ぼうね。2人きりだとやっぱり恥ずかしいし」
すると、しずくちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
「分かった!じゃあ、また日程決めなきゃね」
こうして、私の新しい日常が始まりを告げたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これにて完結となります。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
そんなことを考えていると、どうやらそれを察したのか荒木田さんが脇に置いていた袋を取り出した。
「そんなに警戒しなくて大丈夫ですよ。ただのお見舞いです。差し入れに果物を持ってきました。おいしいですよ」
「あ、ありがとう。でも、本当にそれだけなの?」
袋を受け取ると荒木田さんは後ろ頭をかいた。
「まあ、少し事後報告をしようと思って来てはいます。といっても、そんなに大した内容ではありませんよ」
私はテーブルを挟んで荒木田さんの正面に座る。
「事後報告ってことは、やっぱりダンジョン関係?」
「ええ。昨日の配信のおかげで、管理局への問い合わせは激減しました。これで特級探索者を集めることができます」
荒木田さんの言葉にふと疑問を感じた。
「あれ?まだ人手を集めるの?もう異変の原因はなくなったのに」
「中層まで進出しているSランクモンスターの駆除が目的です。それが完了すれば、晴れてダンジョンは正常化するでしょう」
なるほど。そういうことね。まだ後始末は残ってるのか。
「ですが、心配しなくて大丈夫です。ここから先は灰戸さんたちの力を借りずに、こちらで対応させていただきます」
それを聞いて、ちょっと拍子抜けしてしまう。
「え、いいの?てっきりまた依頼されるものかと思ってたけど」
「事後処理なら他の特級探索者にも頼めます。これ以上灰戸さんの手を煩わせる必要はありませんからね」
「そっか」
「そういうわけで、改めてご協力ありがとうございました。また後日になりますが、貢献度に見合った報酬を用意させてもらいます」
荒木田さんはそう言って頭を下げた。
「では、今日はこの辺で失礼します。ゆっくり体を休めてくださいね」
荒木田さんが帰って、私は貰った差し入れを食べながらなんだかモヤモヤとした気持ちを抱えることになった。
私の日常を騒がせていた依頼が無くなって、やっと元の生活に戻れるのになんで物足りなさを感じているんだろう。
釈然としない心境のまま、夜が更けていった。
そして、翌日。
昼休みに水無瀬さんが訪ねてきた。
いつものように中庭のベンチに向かう。一緒に昼食を取るのも、もはや定番になりつつあった。
「アキちゃん、体はもう大丈夫なの?」
心配そうに聞いてくる水無瀬さんに、できるだけ元気な素振りで返事を返す。
「うん。昨日たっぷり休んだからすっかり治ったよ」
水無瀬さんは小さく「よかったぁ」と呟き、ホッとした様子で笑顔を浮かべる。
「みんな無事に戻って来れたし、ダンジョンに悪さしてたドラゴンも倒せて一件落着だねっ!」
「そうだね。中層に残ったSランクモンスター退治は管理局がやってくれるらしいから、やっと一息つけそう。戦いも大変だったけど、カメラで撮られるのがどうしても苦手だから、配信の依頼がなくなってくれてありがたいよ」
すると、水無瀬さんは少し悩まし気な表情で口を開いた。
「……ちょうど配信の話が出たし、言っちゃおうかな。実はこの前の配信が終わってから、わたしのところにすごい数のリクエストが届いてるの。アキちゃんとまひろちゃんのファンになったっていう人たちから……」
それを聞いて思わずギョッとする。ファン?私とまひろさんに?なぜそんなことに……。
「そ、それってどういうことなの?リクエストってどんな?」
慌てふためきながら質問すると、水無瀬さんも戸惑いながら答えてくれる。
「その、2人が戦ってる姿を見て惚れ込んじゃったっていう人がたくさんいてね。それで、またコラボ配信してってお願いが集まってるの。もっと2人の声が聞きたいんだって」
いつもの私だったら、「人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!」って言うところだ。でも、この時私の胸の内には不思議な思いが去来していた。
引き受けたらまた水無瀬さんと自然に集まれる。今までボッチだったこの私が、水無瀬さんとは割と無理なく話せるようになってきていた。そんな彼女と一緒に過ごす時間を作ることができる。
そのことに魅力を感じていた。ソロでのダンジョン探索が当たり前だった今までの私なら考えられない。
でも、昨日のまひろさんとの会話をふと思い出す。自分でも気づかないうちに、人と触れ合うことが楽しいと感じるようになってきているのかもしれない。配信に出るくらいは頑張ってみてもいいかと思えるくらいには。
「……じゃあ、やろっか。コラボ配信」
自分でも意外なほどあっさりとその言葉が口から出ていた。
水無瀬さんは驚いたように目を丸くしている。
「え?ホントに?アキちゃんだったら嫌がるかなって思ってたんだけど……」
「ちょっとくらいならまあ、いいかなって。あ、でもせっかくだからまひろさんも呼ぼうね。2人きりだとやっぱり恥ずかしいし」
すると、しずくちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
「分かった!じゃあ、また日程決めなきゃね」
こうして、私の新しい日常が始まりを告げたのだった。
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これにて完結となります。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
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