31 / 32
第31話 激戦の後に
しおりを挟む
ドラゴンの断末魔が辺り一帯に響き渡り、巨大な体躯がその場に崩れ落ちていく。
左肩を押えながら、私はゆっくりと地上に着地する。
「や、やったあああぁぁ!!アキちゃんがやってくれましたっ!」
“うおおおおおおおおお”
“よっしゃあああ!”
“マジでか!”
“アキちゃんすげえええええ”
水無瀬さんとコメントの歓喜の声が聞こえてきた。でも、無理して動いたせいか一気に身体が重くなる。私はその場に膝をついてしまう。
「あ、アキちゃんっ!」
水無瀬さんが驚きの声を上げた。みんなが駆け寄ってくる音が聞こえる。
「まずは手当てからだ。とりあえず、横になりな」
まひろさんの言葉に従って、彼女の治療を受ける。仰向けになると空が良く見えた。ドラゴンが倒れたからなのか、天を覆いつくしていた雲がゆっくりと霧散しつつあった。
本当に倒せたんだ。これで、ダンジョンの異常は元に戻る。そう思った時緊張の糸が切れ、気が付くと気を失っていた。
再び意識が戻った時、私は荒木田さんに背負われていた。どうやら今は移動中らしい。
「おや、目が覚めましたか。灰戸さん、本当にお疲れ様です」
荒木田さんの落ち着いた声が背中越しに聞こえる。
「ここは?」
私の問いにまひろさんの声が答えてくれた。
「30階層まで戻ってきたところ。ここまでくればもう安心かな。アッキー抜きは結構きつかったけど、なんとかなって良かったよ~」
「あ、ありがとう。迷惑かけちゃったね」
「なにを言うんですか。灰戸さんのお陰で全員助かったんです。ドラゴンを倒してくれてありがとうございました」
荒木田さんの言葉に同調するように、水無瀬さんが顔を覗かせてきた。
「そうだよ!アキちゃん、本当にありがとう!」
「うんうん。アッキーがいなかったらどうなってたことか!ありがとーな!」
まひろさんも、私に感謝の言葉を述べる。こんなに面と向かってみんなからお礼を言われるとなんだか気恥ずかしい。
「み、みんながいてくれたおかげだよ。だ、だから。わ、私たち全員の勝利ってことで……」
しどろもどろで返した言葉に、荒木田さんが穏やかな声で答える。
「そうですね。そして、あとは無事に帰るだけです。灰戸さんはゆっくり休んでいてください」
「ありがとう。そうさせてもらおうかな」
-----
その後、危険な魔物に出くわすこともなく私たちは地上に帰還することができた。
今回は私が動けないこともあって、みんなが家まで送り届けてくれた。その日は家に帰りつくなりベッドで熟睡。あっという間に翌日がやってきた。
目が覚めると、倦怠感はだいぶ薄れていた。都合の良いことに今日は日曜日。回復薬がだいぶ効いたとはいえ、一応大事を取って丸一日休息に充てることにした。
ところが、身体が徐々に活力を取り戻すにつれてだんだん寝ているのが暇になって来た。そんな時、スマホが震えた。
「アッキー、体調どう?」
スマホから聞こえてきたのはまひろさんの声だった。話を聞いてみると、彼女も怪我を完全に癒すために体を休めていたらしい。
そして、私と同様に時間を持て余していたようで、暇つぶしに話をしようと電話をかけたとの事だった。
「もう元気になってるみたいで良かった良かった。ところで、昨日の配信結構すごいことになってるっぽいよ?」
様々なSランクモンスターとの激闘に加え、未知のドラゴンも現れたとあって、かなり話題になっているらしい。配信の見どころを切り抜いた動画が大量に出回って、ネットでは前回以上の盛り上がりを見せていた。
「とっておきの自慢話ができて、アタシとしては満足だよ~」
まひろさんは楽しそうにそう語る。
「それはよかった。予想外だったけど事件自体も解決しちゃったし、言うことなしだね」
しかし、まひろさんは少し声のトーンを落とした。
「まあ、それはそうなんだけど。正直ちょっと残念でもあってさ」
「どうかしたの?」
「かなり命がけだったけど、久しぶりにアッキーたちとダンジョン潜るのも意外と悪くなかったんだよね。なんかワクワクしたって言うか。そんな感じ。だから、口実が無くなるのは寂しいなって思っちゃって」
ダンジョン探索そのものが好きではないって公言していたから、まひろさんがそんなことを言うとは意外だった。そして、私自身もソロでダンジョンに潜るのとは違った高揚感を感じていたのも確かだ。
「私は別に理由がなくてもダンジョンにはいつも行くから、まひろさんが良ければ一緒に行く?」
口に出してハッとする。人との関わりが苦手な私が、自分から他人を誘うなんて!
「えっ、ホント!?いいじゃん!行こう行こう!」
まひろさんは嬉しそうに私の提案を受け入れてくれた。もう楽しみになって来た自分の気持ちに正直戸惑う。でも、たまにはこういうのも悪くないかもしれない。
そうしてまひろさんとの長電話を終えてからはたっぷりと仮眠を取り、目を覚ましたのは夕方だった。
「やば、ちょっと寝すぎたかな」
ベッドから起きて大きく体を伸ばす。もう全身の違和感はすっかり取れて、いつも通りの感覚が戻ってきていた。ちょうどその時、部屋のドアをノックしてお母さんが入って来た。
「お客さんが来たんだけど、起きれそう?」
「お客さん?分かった。今行く」
部屋着から着替えてリビングに行くと、そこには荒木田さんがいた。
「お疲れ様です。お休みのところすみませんね。昨日の今日ではありますが、お見舞いに来ましたよ」
そう言って荒木田さんは手元のお茶をテーブルにコトリと置いた。
左肩を押えながら、私はゆっくりと地上に着地する。
「や、やったあああぁぁ!!アキちゃんがやってくれましたっ!」
“うおおおおおおおおお”
“よっしゃあああ!”
“マジでか!”
“アキちゃんすげえええええ”
水無瀬さんとコメントの歓喜の声が聞こえてきた。でも、無理して動いたせいか一気に身体が重くなる。私はその場に膝をついてしまう。
「あ、アキちゃんっ!」
水無瀬さんが驚きの声を上げた。みんなが駆け寄ってくる音が聞こえる。
「まずは手当てからだ。とりあえず、横になりな」
まひろさんの言葉に従って、彼女の治療を受ける。仰向けになると空が良く見えた。ドラゴンが倒れたからなのか、天を覆いつくしていた雲がゆっくりと霧散しつつあった。
本当に倒せたんだ。これで、ダンジョンの異常は元に戻る。そう思った時緊張の糸が切れ、気が付くと気を失っていた。
再び意識が戻った時、私は荒木田さんに背負われていた。どうやら今は移動中らしい。
「おや、目が覚めましたか。灰戸さん、本当にお疲れ様です」
荒木田さんの落ち着いた声が背中越しに聞こえる。
「ここは?」
私の問いにまひろさんの声が答えてくれた。
「30階層まで戻ってきたところ。ここまでくればもう安心かな。アッキー抜きは結構きつかったけど、なんとかなって良かったよ~」
「あ、ありがとう。迷惑かけちゃったね」
「なにを言うんですか。灰戸さんのお陰で全員助かったんです。ドラゴンを倒してくれてありがとうございました」
荒木田さんの言葉に同調するように、水無瀬さんが顔を覗かせてきた。
「そうだよ!アキちゃん、本当にありがとう!」
「うんうん。アッキーがいなかったらどうなってたことか!ありがとーな!」
まひろさんも、私に感謝の言葉を述べる。こんなに面と向かってみんなからお礼を言われるとなんだか気恥ずかしい。
「み、みんながいてくれたおかげだよ。だ、だから。わ、私たち全員の勝利ってことで……」
しどろもどろで返した言葉に、荒木田さんが穏やかな声で答える。
「そうですね。そして、あとは無事に帰るだけです。灰戸さんはゆっくり休んでいてください」
「ありがとう。そうさせてもらおうかな」
-----
その後、危険な魔物に出くわすこともなく私たちは地上に帰還することができた。
今回は私が動けないこともあって、みんなが家まで送り届けてくれた。その日は家に帰りつくなりベッドで熟睡。あっという間に翌日がやってきた。
目が覚めると、倦怠感はだいぶ薄れていた。都合の良いことに今日は日曜日。回復薬がだいぶ効いたとはいえ、一応大事を取って丸一日休息に充てることにした。
ところが、身体が徐々に活力を取り戻すにつれてだんだん寝ているのが暇になって来た。そんな時、スマホが震えた。
「アッキー、体調どう?」
スマホから聞こえてきたのはまひろさんの声だった。話を聞いてみると、彼女も怪我を完全に癒すために体を休めていたらしい。
そして、私と同様に時間を持て余していたようで、暇つぶしに話をしようと電話をかけたとの事だった。
「もう元気になってるみたいで良かった良かった。ところで、昨日の配信結構すごいことになってるっぽいよ?」
様々なSランクモンスターとの激闘に加え、未知のドラゴンも現れたとあって、かなり話題になっているらしい。配信の見どころを切り抜いた動画が大量に出回って、ネットでは前回以上の盛り上がりを見せていた。
「とっておきの自慢話ができて、アタシとしては満足だよ~」
まひろさんは楽しそうにそう語る。
「それはよかった。予想外だったけど事件自体も解決しちゃったし、言うことなしだね」
しかし、まひろさんは少し声のトーンを落とした。
「まあ、それはそうなんだけど。正直ちょっと残念でもあってさ」
「どうかしたの?」
「かなり命がけだったけど、久しぶりにアッキーたちとダンジョン潜るのも意外と悪くなかったんだよね。なんかワクワクしたって言うか。そんな感じ。だから、口実が無くなるのは寂しいなって思っちゃって」
ダンジョン探索そのものが好きではないって公言していたから、まひろさんがそんなことを言うとは意外だった。そして、私自身もソロでダンジョンに潜るのとは違った高揚感を感じていたのも確かだ。
「私は別に理由がなくてもダンジョンにはいつも行くから、まひろさんが良ければ一緒に行く?」
口に出してハッとする。人との関わりが苦手な私が、自分から他人を誘うなんて!
「えっ、ホント!?いいじゃん!行こう行こう!」
まひろさんは嬉しそうに私の提案を受け入れてくれた。もう楽しみになって来た自分の気持ちに正直戸惑う。でも、たまにはこういうのも悪くないかもしれない。
そうしてまひろさんとの長電話を終えてからはたっぷりと仮眠を取り、目を覚ましたのは夕方だった。
「やば、ちょっと寝すぎたかな」
ベッドから起きて大きく体を伸ばす。もう全身の違和感はすっかり取れて、いつも通りの感覚が戻ってきていた。ちょうどその時、部屋のドアをノックしてお母さんが入って来た。
「お客さんが来たんだけど、起きれそう?」
「お客さん?分かった。今行く」
部屋着から着替えてリビングに行くと、そこには荒木田さんがいた。
「お疲れ様です。お休みのところすみませんね。昨日の今日ではありますが、お見舞いに来ましたよ」
そう言って荒木田さんは手元のお茶をテーブルにコトリと置いた。
0
お気に入りに追加
271
あなたにおすすめの小説

【完結】小さなフェンリルを拾ったので、脱サラして配信者になります~強さも可愛さも無双するモフモフがバズりまくってます。目指せスローライフ!〜
むらくも航
ファンタジー
ブラック企業で働き、心身が疲労している『低目野やすひろ』。彼は苦痛の日々に、とにかく“癒し”を求めていた。
そんな時、やすひろは深夜の夜道で小犬のような魔物を見つける。これが求めていた癒しだと思った彼は、小犬を飼うことを決めたのだが、実は小犬の正体は伝説の魔物『フェンリル』だったらしい。
それをきっかけに、エリートの友達に誘われ配信者を始めるやすひろ。結果、強さでも無双、可愛さでも無双するフェンリルは瞬く間にバズっていき、やすひろはある決断をして……?
のんびりほのぼのとした現代スローライフです。
他サイトにも掲載中。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

スキル【レベル転生】でダンジョン無双
世界るい
ファンタジー
六年前、突如、異世界から魔王が来訪した。「暇だから我を愉しませろ」そう言って、地球上のありとあらゆる場所にダンジョンを作り、モンスターを放った。
そんな世界で十八歳となった獅堂辰巳は、ダンジョンに潜る者、ダンジョンモーラーとしての第一歩を踏み出し、ステータスを獲得する。だが、ステータスは最低値だし、パーティーを組むと経験値を獲得できない。スキルは【レベル転生】という特殊スキルが一つあるだけで、それもレベル100にならないと使えないときた。
そんな絶望的な状況下で、最弱のソロモーラーとしてダンジョンに挑み、天才的な戦闘センスを磨き続けるも、攻略は遅々として進まない。それでも諦めずチュートリアルダンジョンを攻略していたある日、一人の女性と出逢う。その運命的な出逢いによって辰巳のモーラー人生は一変していくのだが……それは本編で。
小説家になろう、カクヨムにて同時掲載
カクヨム ジャンル別ランキング【日間2位】【週間2位】
なろう ジャンル別ランキング【日間6位】【週間7位】
追放されたら無能スキルで無双する
ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。
見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。
僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。
咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。
僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

羨んでいたダンジョンはおれが勇者として救った異世界に酷似している~帰還した現代では無職業(ノージョブ)でも異世界で培った力で成り上がる~
むらくも航
ファンタジー
☆カクヨムにてでローファンタジー部門最高日間3位、週間4位を獲得!
【第1章完結】ダンジョン出現後、職業(ジョブ)持ちが名乗りを上げる中、無職業(ノージョブ)のおれはダンジョンを疎んでいた。しかし異世界転生を経て、帰還してみればダンジョンのあらゆるものが見たことのあるものだった。
現代では、まだそこまでダンジョン探索は進んでいないようだ。その中でおれは、異世界で誰も知らない事まで知っている。これなら無職業(ノージョブ)のおれもダンジョンに挑める。おれはダンジョンで成り上がる。
これは勇者として異世界を救った、元負け組天野 翔(あまの かける)が異世界で得た力で現代ダンジョンに挑む物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる