24 / 32
第24話 ダンジョンの異変
しおりを挟む
「す、すごいっ!怒涛の連続攻撃!3人のコンビネーションで見事ベヒーモスが倒されましたっ!」
“終わってみたらあっという間だったな”
“3人の連携すごい!”
“これはバランスのいいパーティ”
“敵も強いのに大したもんだ”
水無瀬さんの実況とコメントの称賛を聞きながら、ベヒーモスの身体から降りる。
「この感じ懐かしー。2人とも相変わらずの対応力で助かるわ~」
まひろさんが返り血のついた剣をその辺に放りながら口角を上げた。
「いやいや、まひろさんもブランクがあるとは思えない動きですごかったよ」
「へへっ、褒めてもなんも出ないよ?ま、嬉しいからいーけど!」
お世辞ではなく、彼女の動きは昔3人でダンジョンに潜っていた時と遜色なかった。これなら、この先に進むのもさほど苦労はしなくてすむかも。
そんなことを考えていると、まひろさんはこちらに向かって大きく右手を上げた。このやりとりも随分久しぶりな気がする。私がその手にタッチすると、彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「それでは、安否確認をするので一旦マイクを切りまーす。みんなまた後でね!」
私たちがそうして息を整えていると、水無瀬さんが不意に実況を中断した。かと思うと、パタパタとこちらに駆け寄って来た。
「まひろちゃん、怪我は大丈夫?か、回復用のアイテム使った方がいいよね?」
水無瀬さんはバックパックから回復薬を取り出してオロオロしている。
「あー、ありがと!でも大丈夫だよ。あれくらいなら、傷とかつかないから」
本当になんでもなさそうに言うまひろさんの姿を見て、水無瀬さんはあっけに取られてしまう。
「えっ、だってさっきベヒーモスに吹き飛ばされちゃって……。あれ、でもたしかに傷が見当たらないね」
まひろさんは土埃で全身汚れてはいるけど、傷はほとんど受けていなかった。
「そういば、水無瀬さんには彼女の能力を説明してませんでしたね。火野坂さんの『人体改変』は簡単に言えば肉体強化能力。硬化させた皮膚は大抵の物理攻撃を受け付けないので、今回はほぼ無傷ですんだようです」
荒木田さんの説明を受けてようやく状況を理解したのか、水無瀬さんはホッと胸をなでおろした。
「そ、そうなんだ。よかったぁ」
「心配してくれてありがとね。しずくっち!」
「し、しずくっち……」
水無瀬さんは再び別の意味で目を丸くした。まひろさんは水無瀬さんの反応を見て、慌てたように問いかける。
「あっ。もう命を預け合う仲なんだし、あだ名でもいっかなって思ったんだけど。嫌だった?」
「いえっ、結構遠慮されてあだ名で呼んでくれる人多くないから、嬉しいです!」
まひろさんは「よかった~」と軽く返して、2人は笑い合っている。まひろさんのぐいぐい行くコミュ力はとても真似できないけど、ちょっと羨ましいな。
水無瀬さんとは少し打ち解けたかと思ったけど、まひろさんの方が今のでグッと距離を縮めてしまった。それで私が困るわけじゃないけれど、なんだか複雑な気分。
「怪我とかはないけど、汚れたからちょっと休憩したいな~。荒木田。いいでしょ?」
「そうですね。一度腰を落ち着けて態勢を立て直しましょうか」
まひろさんの提案を荒木田さんが受け入れて、そのまま近くの岩陰で休息を取ることになった。
「現在地は47階層です。下層までもう少しですが、50階層を越えたらなにが起こるか分かりません。油断せずに行きましょう」
携行食を口に運びながら、荒木田さんが状況の再確認をする。
「あと3階層で下層なんですね。ちょっと緊張してきたかも」
水無瀬さんは座って両手で水筒を包み込むように持ちながら、落ち着かない様子で足をバタつかせている。
「そうだね。下層に入って異常の原因がすぐに見つかればいいんだけど」
私がそうつぶやくと、装備についた埃を払っていたまひろさんが反応した。
「異常といえばさ。今気づいたんだけど、ここなんか肌寒くない?」
彼女の言葉でハッとする。動いてたから気づかなかったけど、腰を下ろして休んでいる今ならよく分かった。たしかに上層と比べて気温が下がっているような気がする。荒木田さんも同じことを感じたようで、少し思案してから口を開いた。
「火野坂さんの言う通りですね。ダンジョン内の気候が少し変わってきている。まだはっきりとしたことは分かりませんが、このことは留意しておくべきかもしれません」
荒木田さんの言葉を胸に止めて、私たちはしばらくしっかりと体を休めた。
そこからさらに5階層進み、状況はさらに変化した。下に降りるごとに確実に気温が下がってきてる。これは明らかに気のせいじゃない。
「さ、さみー。もう決まりじゃないの?これだけ寒かったら、Sランクモンスターが上に逃げるのもそりゃそうだろって感じでしょ」
まひろさんが肩を震わせて同意を求める。
「その可能性は高そうですね。だとすれば、この気候変化の原因がなにかあるはずです。ここから先はそれを探して行きましょう」
それを受けて荒木田さんが冷静に方針を示してくれた。この気候なら以前より下層のSランクモンスターは少なくなっていることも十分考えられる。だとすれば、探索も思ったより簡単かもしれない。そう思ったその時だった。
私たちの目の前に立ち塞がるように、大きな人影のようなものが現れた。
それは人型ではあるけど、もちろん人間ではない。
青黒い肌をした筋骨隆々の肉体。額からは角が生えており、背中には翼、そして尻尾を持った魔物。
Sランクモンスター、グレーターデーモンがそこにいた。
“終わってみたらあっという間だったな”
“3人の連携すごい!”
“これはバランスのいいパーティ”
“敵も強いのに大したもんだ”
水無瀬さんの実況とコメントの称賛を聞きながら、ベヒーモスの身体から降りる。
「この感じ懐かしー。2人とも相変わらずの対応力で助かるわ~」
まひろさんが返り血のついた剣をその辺に放りながら口角を上げた。
「いやいや、まひろさんもブランクがあるとは思えない動きですごかったよ」
「へへっ、褒めてもなんも出ないよ?ま、嬉しいからいーけど!」
お世辞ではなく、彼女の動きは昔3人でダンジョンに潜っていた時と遜色なかった。これなら、この先に進むのもさほど苦労はしなくてすむかも。
そんなことを考えていると、まひろさんはこちらに向かって大きく右手を上げた。このやりとりも随分久しぶりな気がする。私がその手にタッチすると、彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「それでは、安否確認をするので一旦マイクを切りまーす。みんなまた後でね!」
私たちがそうして息を整えていると、水無瀬さんが不意に実況を中断した。かと思うと、パタパタとこちらに駆け寄って来た。
「まひろちゃん、怪我は大丈夫?か、回復用のアイテム使った方がいいよね?」
水無瀬さんはバックパックから回復薬を取り出してオロオロしている。
「あー、ありがと!でも大丈夫だよ。あれくらいなら、傷とかつかないから」
本当になんでもなさそうに言うまひろさんの姿を見て、水無瀬さんはあっけに取られてしまう。
「えっ、だってさっきベヒーモスに吹き飛ばされちゃって……。あれ、でもたしかに傷が見当たらないね」
まひろさんは土埃で全身汚れてはいるけど、傷はほとんど受けていなかった。
「そういば、水無瀬さんには彼女の能力を説明してませんでしたね。火野坂さんの『人体改変』は簡単に言えば肉体強化能力。硬化させた皮膚は大抵の物理攻撃を受け付けないので、今回はほぼ無傷ですんだようです」
荒木田さんの説明を受けてようやく状況を理解したのか、水無瀬さんはホッと胸をなでおろした。
「そ、そうなんだ。よかったぁ」
「心配してくれてありがとね。しずくっち!」
「し、しずくっち……」
水無瀬さんは再び別の意味で目を丸くした。まひろさんは水無瀬さんの反応を見て、慌てたように問いかける。
「あっ。もう命を預け合う仲なんだし、あだ名でもいっかなって思ったんだけど。嫌だった?」
「いえっ、結構遠慮されてあだ名で呼んでくれる人多くないから、嬉しいです!」
まひろさんは「よかった~」と軽く返して、2人は笑い合っている。まひろさんのぐいぐい行くコミュ力はとても真似できないけど、ちょっと羨ましいな。
水無瀬さんとは少し打ち解けたかと思ったけど、まひろさんの方が今のでグッと距離を縮めてしまった。それで私が困るわけじゃないけれど、なんだか複雑な気分。
「怪我とかはないけど、汚れたからちょっと休憩したいな~。荒木田。いいでしょ?」
「そうですね。一度腰を落ち着けて態勢を立て直しましょうか」
まひろさんの提案を荒木田さんが受け入れて、そのまま近くの岩陰で休息を取ることになった。
「現在地は47階層です。下層までもう少しですが、50階層を越えたらなにが起こるか分かりません。油断せずに行きましょう」
携行食を口に運びながら、荒木田さんが状況の再確認をする。
「あと3階層で下層なんですね。ちょっと緊張してきたかも」
水無瀬さんは座って両手で水筒を包み込むように持ちながら、落ち着かない様子で足をバタつかせている。
「そうだね。下層に入って異常の原因がすぐに見つかればいいんだけど」
私がそうつぶやくと、装備についた埃を払っていたまひろさんが反応した。
「異常といえばさ。今気づいたんだけど、ここなんか肌寒くない?」
彼女の言葉でハッとする。動いてたから気づかなかったけど、腰を下ろして休んでいる今ならよく分かった。たしかに上層と比べて気温が下がっているような気がする。荒木田さんも同じことを感じたようで、少し思案してから口を開いた。
「火野坂さんの言う通りですね。ダンジョン内の気候が少し変わってきている。まだはっきりとしたことは分かりませんが、このことは留意しておくべきかもしれません」
荒木田さんの言葉を胸に止めて、私たちはしばらくしっかりと体を休めた。
そこからさらに5階層進み、状況はさらに変化した。下に降りるごとに確実に気温が下がってきてる。これは明らかに気のせいじゃない。
「さ、さみー。もう決まりじゃないの?これだけ寒かったら、Sランクモンスターが上に逃げるのもそりゃそうだろって感じでしょ」
まひろさんが肩を震わせて同意を求める。
「その可能性は高そうですね。だとすれば、この気候変化の原因がなにかあるはずです。ここから先はそれを探して行きましょう」
それを受けて荒木田さんが冷静に方針を示してくれた。この気候なら以前より下層のSランクモンスターは少なくなっていることも十分考えられる。だとすれば、探索も思ったより簡単かもしれない。そう思ったその時だった。
私たちの目の前に立ち塞がるように、大きな人影のようなものが現れた。
それは人型ではあるけど、もちろん人間ではない。
青黒い肌をした筋骨隆々の肉体。額からは角が生えており、背中には翼、そして尻尾を持った魔物。
Sランクモンスター、グレーターデーモンがそこにいた。
0
お気に入りに追加
272
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】小さなフェンリルを拾ったので、脱サラして配信者になります~強さも可愛さも無双するモフモフがバズりまくってます。目指せスローライフ!〜
むらくも航
ファンタジー
ブラック企業で働き、心身が疲労している『低目野やすひろ』。彼は苦痛の日々に、とにかく“癒し”を求めていた。
そんな時、やすひろは深夜の夜道で小犬のような魔物を見つける。これが求めていた癒しだと思った彼は、小犬を飼うことを決めたのだが、実は小犬の正体は伝説の魔物『フェンリル』だったらしい。
それをきっかけに、エリートの友達に誘われ配信者を始めるやすひろ。結果、強さでも無双、可愛さでも無双するフェンリルは瞬く間にバズっていき、やすひろはある決断をして……?
のんびりほのぼのとした現代スローライフです。
他サイトにも掲載中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
☆10/25からは、毎日18時に更新予定!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
羨んでいたダンジョンはおれが勇者として救った異世界に酷似している~帰還した現代では無職業(ノージョブ)でも異世界で培った力で成り上がる~
むらくも航
ファンタジー
☆カクヨムにてでローファンタジー部門最高日間3位、週間4位を獲得!
【第1章完結】ダンジョン出現後、職業(ジョブ)持ちが名乗りを上げる中、無職業(ノージョブ)のおれはダンジョンを疎んでいた。しかし異世界転生を経て、帰還してみればダンジョンのあらゆるものが見たことのあるものだった。
現代では、まだそこまでダンジョン探索は進んでいないようだ。その中でおれは、異世界で誰も知らない事まで知っている。これなら無職業(ノージョブ)のおれもダンジョンに挑める。おれはダンジョンで成り上がる。
これは勇者として異世界を救った、元負け組天野 翔(あまの かける)が異世界で得た力で現代ダンジョンに挑む物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた
羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件
借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる