鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

文字の大きさ
上 下
183 / 186
第七章 鬼憑きの姫なのに、鬼退治なんてっ!

21.ほのおのあとで

しおりを挟む

 鷹峯の院の御所は、平穏を取り戻しつつあった。

 幻の炎は消え―――とは言っても、幻の炎で焼かれてしまった人たちは、手当が必要なんだろうけど、とにかく、鉉珱げんようは去った。

 そうなるとあと、残る問題は……。

「鬼の君……っ! 呪いは、解けたんですか?」

 私は、とっさに鬼の君の袖に縋り付いていた。鉉珱げんようが死んだのに、呪いが解けなかったら、どうしようもない。

「おそらくは、解けたでしょう……詳しいことは、陰陽頭に聞けば解るけれどね」

「よかったあ」

 思わず、脚から力が抜けて、へなへなと……私は地面に座り込んで……しまわなかった。

 ひょいっと、鬼の君が私を軽々持ち上げたのだ。私は、なんというか、物語の姫君よろしく鬼の君に抱き抱えられ……鬼の君のお顔は間近に見えるし、とにかく、恥ずかしくてたまらない。

「ちょ、ちょっ、ちょっと! 鬼の君っ! まだ、『呪い開け』のお体なんですから……」

 そんな言葉があるのかどうかは、ともかくとしても!

 今は、大事をとってお休みになったほうが良いと思うんだけど、なあ。

 私も、それなりに重いんだろうし。

「呪いなら、あなたを抱きしめていれば、すぐにでも吹き飛ぶよ」

 鬼の君が、私の額に口づけを落とす。

「ちょっとおーっ! 鬼の君っ!」

 また、軽~くセクハラするんだから!

「とりあえず、父上も元気そうだし。私たちは、宮中へ戻るよ? 後の事は、源家と二条関白家がなんとかするだろう。……私は、ちょっと、実敦さねあつ親王が心配なんだよ」

 そうだよね。

 実敦親王ったら、鬼の君を庇って、あの鉉珱げんように刺されたんだもん。

「一応、典薬てんやく和気わけい丹波たんばを遣わしたけど……上手く一命くらいとりとめて貰わないと、こっちの寝覚めが悪くてね」

 典薬というのは、お医者様のことね。

 宮中には、『典薬寮』というのがあって、ここに、宮中の医者があつめられている。薬だけではなくて鍼灸とか、呪禁じゅごん師なんかも、ここに所属しているから(ついでに、乳牛もいたらしい。今は、醍醐だいごとかは食べないけど、大昔は食べたのだ)、なんとかなってくれると良いけれど。

「さ、嵯峨野の太閤の牛車を借りていこうか」

 勝手なことをして良いのかなあとは思いつつ、鬼の君が言い出したら、多分、誰も止める人は居ないんだろうと諦めて、私は、一緒に牛車に乗り込んだのだった。




 嵯峨野の太閤の牛車は、二人で乗るには広々していて、鬼の君はここぞとばかりにセクハラするもんだから、気を利かせた(!)牛飼い童が、うんと遠回りして宮中に戻ったらしく。

 戻った時には、実敦親王の容態は、峠を越していた。

 報告した典薬の和気氏(御年八十歳)は、憔悴してはいたけれど、やりきった顔をして、そのまま、パタンと気を失うように眠りに落ちてしまった。


 かくて、事件は終息したのだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

魔術師の妻は夫に会えない

山河 枝
ファンタジー
 稀代の天才魔術師ウィルブローズに見初められ、求婚された孤児のニニ。こんな機会はもうないと、二つ返事で承諾した。  式を済ませ、住み慣れた孤児院から彼の屋敷へと移ったものの、夫はまったく姿を見せない。  大切にされていることを感じながらも、会えないことを訝しむニニは、一風変わった使用人たちから夫の行方を聞き出そうとする。 ★シリアス:コミカル=2:8

おじさんは予防線にはなりません

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺はただの……ただのおじさんだ」 それは、私を完全に拒絶する言葉でした――。 4月から私が派遣された職場はとてもキラキラしたところだったけれど。 女性ばかりでギスギスしていて、上司は影が薄くて頼りにならない。 「おじさんでよかったら、いつでも相談に乗るから」 そう声をかけてくれたおじさんは唯一、頼れそうでした。 でもまさか、この人を好きになるなんて思ってもなかった。 さらにおじさんは、私の気持ちを知って遠ざける。 だから私は、私に好意を持ってくれている宗正さんと偽装恋愛することにした。 ……おじさんに、前と同じように笑いかけてほしくて。 羽坂詩乃 24歳、派遣社員 地味で堅実 真面目 一生懸命で応援してあげたくなる感じ × 池松和佳 38歳、アパレル総合商社レディースファッション部係長 気配り上手でLF部の良心 怒ると怖い 黒ラブ系眼鏡男子 ただし、既婚 × 宗正大河 28歳、アパレル総合商社LF部主任 可愛いのは実は計算? でももしかして根は真面目? ミニチュアダックス系男子 選ぶのはもちろん大河? それとも禁断の恋に手を出すの……? ****** 表紙 巴世里様 Twitter@parsley0129 ****** 毎日20:10更新

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。 十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。 そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり────── ※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。 ※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...