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第七章 鬼憑きの姫なのに、鬼退治なんてっ!
21.ほのおのあとで
しおりを挟む鷹峯の院の御所は、平穏を取り戻しつつあった。
幻の炎は消え―――とは言っても、幻の炎で焼かれてしまった人たちは、手当が必要なんだろうけど、とにかく、鉉珱は去った。
そうなるとあと、残る問題は……。
「鬼の君……っ! 呪いは、解けたんですか?」
私は、とっさに鬼の君の袖に縋り付いていた。鉉珱が死んだのに、呪いが解けなかったら、どうしようもない。
「おそらくは、解けたでしょう……詳しいことは、陰陽頭に聞けば解るけれどね」
「よかったあ」
思わず、脚から力が抜けて、へなへなと……私は地面に座り込んで……しまわなかった。
ひょいっと、鬼の君が私を軽々持ち上げたのだ。私は、なんというか、物語の姫君よろしく鬼の君に抱き抱えられ……鬼の君のお顔は間近に見えるし、とにかく、恥ずかしくてたまらない。
「ちょ、ちょっ、ちょっと! 鬼の君っ! まだ、『呪い開け』のお体なんですから……」
そんな言葉があるのかどうかは、ともかくとしても!
今は、大事をとってお休みになったほうが良いと思うんだけど、なあ。
私も、それなりに重いんだろうし。
「呪いなら、あなたを抱きしめていれば、すぐにでも吹き飛ぶよ」
鬼の君が、私の額に口づけを落とす。
「ちょっとおーっ! 鬼の君っ!」
また、軽~くセクハラするんだから!
「とりあえず、父上も元気そうだし。私たちは、宮中へ戻るよ? 後の事は、源家と二条関白家がなんとかするだろう。……私は、ちょっと、実敦親王が心配なんだよ」
そうだよね。
実敦親王ったら、鬼の君を庇って、あの鉉珱に刺されたんだもん。
「一応、典薬の和気と丹波を遣わしたけど……上手く一命くらいとりとめて貰わないと、こっちの寝覚めが悪くてね」
典薬というのは、お医者様のことね。
宮中には、『典薬寮』というのがあって、ここに、宮中の医者があつめられている。薬だけではなくて鍼灸とか、呪禁師なんかも、ここに所属しているから(ついでに、乳牛もいたらしい。今は、醍醐とかは食べないけど、大昔は食べたのだ)、なんとかなってくれると良いけれど。
「さ、嵯峨野の太閤の牛車を借りていこうか」
勝手なことをして良いのかなあとは思いつつ、鬼の君が言い出したら、多分、誰も止める人は居ないんだろうと諦めて、私は、一緒に牛車に乗り込んだのだった。
嵯峨野の太閤の牛車は、二人で乗るには広々していて、鬼の君はここぞとばかりにセクハラするもんだから、気を利かせた(!)牛飼い童が、うんと遠回りして宮中に戻ったらしく。
戻った時には、実敦親王の容態は、峠を越していた。
報告した典薬の和気氏(御年八十歳)は、憔悴してはいたけれど、やりきった顔をして、そのまま、パタンと気を失うように眠りに落ちてしまった。
かくて、事件は終息したのだ。
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