鬼憑きの姫なのに総モテなんて!

鳩子

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第七章 鬼憑きの姫なのに、鬼退治なんてっ!

11.私を鷹峯まで連れてって!

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 鬼の君っ―――――――っ!

 目を閉じることも、庇いに行くことも出来ずに居た私は、目の前で、信じられない光景を見た。

 鬼の君の隣で、呪いを受けた悶えていた実敦さねあつ親王が、鬼の君を庇って、深々と左肩を貫かれたのだ。

「ぐ……っ」

 呻く実敦親王の肩から、じんわりと血が滲んでいく。

鉉珱げんよう! を、やすやすとれると思うな。見くびりすぎだ」

 実敦親王は、額から脂汗を流しながらも、ゆっくりと、真っ直ぐ、スッと立ち上がると、肩から抜きとった短刀で、鉉珱を袈裟懸けに切りつけた!

「ぐ、うっ!」

 肩から、胸に至るまでを浅く斬られた鉉珱が、床に膝を突く。

 そのとたん、私は、身体の硬直が、ぽっと解けるのを感じた。

「実敦親王っ!」

 駆け寄る。同時に、勘解由かげゆさんも気がついたらしく、身を起こして、「主上!」と這いつくばるようにして駆けつける。

「余の事は良い。大事ない。それより、この者を捕らえよ。たれかある!」

 実敦親王が呼びかけるけど、誰も来ない。

 なんでよ、こんな時にっ!

 私は、鉉珱と実敦親王の間に、立つ。流石に、喉が、カラカラに渇いて、心臓の鼓動が異常に早い。手が、震えた。けど、少なくとも、ここは、私以外、守れる人材が居ない。

 なんで、私ったら、丸腰だし。たとえ、短刀をもっていても、どうしようもないけれど……。来世は、たとえ姫に生まれたって、武術の稽古は、ちゃんとやろう。

 いくらかの覚悟を決めた後、私は、鉉珱を見遣った。

「お、お、お、………っ」

 鉉珱は、胸元を押さえて、低い声で、うなり声を上げている。

「呪い、返し、を、受けた……のだろう」

 実敦親王の身体が、傾いだ。それを支える。腕を掴むと、ぬるり、と血で汚れたのが解った。

 まずいわ。かなり、血が出てる。

 勘解由さんに目配せすると、私の側に来て、実敦親王を支えて、褥に横たえた。無理やり袍を脱がせて、血の溢れるところを、ご自分の五衣で押さえつけていた。

 私たちに出来るのは、これが精一杯だ。

 清涼殿を見回せば、陰陽師さんたちが、必死に祈祷している。おそらく、その効果で鉉珱が苦しんでいるのだろう。

「くそっ!」

 鉉珱は叫んでから、やおら立ち上がった。

 床に転がっていた大刀を手にとって、自分の左手を切り落として叫ぶ。

「他にも、死ぬ者は居る! 貴様らには、私の左手をくれてやる!」

 他にも、いる……?

 私は、ぞっとした。二条関白家の血を引いているのならば。鷹峯院。そして、嵯峨野の太閤様のお二人がそれにあたる!

 鉉珱は、血が滴っているのも厭わずに、目にも止まらぬ早さで駆け出していった。

 どうやって、鷹峯まで向かうのか解らなかったけれど、とにかく、あいつは、行くつもりだ。



「山吹殿ー!」

 丁度その時、みなもとのうるむさんと、その配下ご一行様が到着した。

 あと、もう少し早ければ、アイツを取り押さえられたのに!

 口惜しくなったが、私は、とにかく叫んだ。

うるむさん、大至急、馬出して! 鷹峯まで私を連れてって!」


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