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第六章 大ピンチ! 呪いも運命も蹴散らして
25.牛車の中は、気まずかった・・・
しおりを挟む「では、余は宮中へ向かう。……源大臣。そなたは、念のため、鷹峯院の所へ。それと、左兵衛大尉。そなたは、鉉珱の行方を追うこと」
畏まりました、と源家親子二人が礼をする。
「宮中にて、何かございましたら、私の曹司のほうに、子息が一人詰めておりますので」
潤さんのことだ。
「関白、大臣の曹司はどこだったか?」
「大臣の曹司は、曹司町の方ですから、私の直廬の近くです」
曹司町……とは、女官や公家達が賜った曹司が並ぶ一角だ。このあたりは、まあ、千年くらいあとになったら、集合住宅とでもいったらわかりやすくなるのかしらね。間借りする部屋がずらっと並んでいるものだから、そりゃあ、庶民の『町』のようにかしましいのだろう。
「関白が存じているのならば、安心だ。では、皆、参るぞ。……疾くと行け。そして、己が務めを果たすのだ」
やっぱり、鬼の君は、人を乗せる天才だと思う。
宮中までは牛車。
念のため、鬼の君が乗ってきた馬を、小鬼が駆っていくことになったので、牛車の中は、私と鬼の君と関白殿下。ついでに陰陽師。ハイ、気まずい。
車は、関白殿下のものなので、豪華だし、広くて良いのだけれど。
「山吹、どうしたの?」
関白殿下が聞いてくるので、私は、飛び上がりそうになった。なぜって? 衣の下で、鬼の君が、ここぞとばかりに、私の手を撫でているからです。本当に、息をするようにセクハラする!
「いいえ……私も、馬に乗ってみたかったなあと」
「おや、姫は、馬に乗ることが出来るの?」
「いえ……流石に、馬には乗れません。とことこ歩かせているのに、乗せて貰ったことはありますけれど。でも馬を駆ることが出来たら、気持ちが良いだろうとは憧れます」
「さっきは、どうだったの?」
くすくす、と鬼の君は笑う。さっき―――鬼の君が手綱を取って、猛スピードで、大路を駆けていった時だ。
本当に、怖かった。
「怖かったです……というか、怪我をした方が居たらどうしようかと」
「ああ、あなたは、優しいね。山吹」
関白殿下が、私の左手を取る。
右手を鬼の君。左手を関白殿下に取られて、私は、もはや、パニックだった。一刻も早い、宮中への到着を心から祈る。
「関白は……」と鬼の君は囁くように言う。「この姫は、私が求婚中だと、知らぬのかな?」
またも、にこにこと笑顔でいらっしゃる時のこの人は、怖い。
なまじ、美形なだけに怖い。
「おや、奇遇ですね。私も、求婚していたところなのですよ」
「そこなお二方。どさくさに紛れて、姫の手を取るのをやめて頂こう。今は、国の行く末も掛かった一大事。……そんなときに、色恋にうつつを抜かしていても良いのは、私くらいの、取るに足らぬ官位の者くらいだ。私だって、姫に求愛中なのだから、ここは、お二方には引いて頂こう。お二方は、相応の身分の姫を娶るという義務があるはずだ」
むりやり、関白殿下と鬼の君の手を引きはがしてくれたのは有り難いけど。
宮中に付くまでに、疲労困憊しそうな気がする。
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