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第五章 後宮からの逃走
5.スイーツ男子は意外にフットワークが軽い
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私は小鬼を睨み付けた。
敵が、何者なのか、さあ、大人しく吐いてもらおうじゃないの!
「さあ、知ってる事を吐きなさい。一体、鬼の君の敵は、誰なの?」
私の膝にすがり付いていた小鬼が、びくっと肩を震わせる。
「そ、それは……」
「なによ。言えないの?」
「その……まだ、分からないんです。主も、まだ、探っているところで……だから、今回、あなたに、関白と当今(いま現在の帝の事ね)が興味を示したと言うのが、私の主は、あやしい、と……」
「なんだ、鬼の君も、ご存知ないのね。残念だわ」
まあ、それにしたって、私を呪ってる人が誰なのかは、分からないけどね……。
「私が呪われるのに、心当たりは?」
私の質問に、小鬼が、眼を逸らした。あ、これは、なにか、知ってるな!
「小鬼、知ってる事を吐きなさい」
私は、小鬼の肩をぐいっと掴む。
小鬼が、「ひっ!」と小さな悲鳴を上げた。
「申し上げます! ……その、あなたを呪うのは、恐らく、私の主の敵、だと思います。あなたが、私の主と繋がっていると、確信して、呪っているのでしょうから」
もしかすると、あなたが、なにか、重大な秘密を持っていると思っているのかもしれません、と小鬼は呟く。
「私は、関白は、怪しいのではないかと……。あなたに、執拗に触れていたようですし」
あんまり、余計な事は言わないで欲しいわ。ちょっと、思い出しちゃったじゃないの、関白殿下の……口唇の感触。
ああ、顔が熱い……。
「関白殿下は、恐らく、味方よ? だって、登華殿の女御さまの件の、真相を知りたいと言っておいでだったもの」
「なぜ、関白が?」
「だって、ご自分の叔母君よ? それが、息子に呪い殺されたなんて、尋常じゃないわ。それに……」
私のことばが終わらないうちに、
「君の従者ではなくて、鬼の君の従者なのだね? その、女装男子」
庭から、声がした。
いつの間においでになったのか、御簾を上げながら、私の部屋に入ってくるのは、関白殿下だった。
「関白殿下っ! なぜ?」
「山科で、なにかあったら……と想ったら、気が気でなくてね。また、私は、駒(馬)を走らせていたよ」
関白殿下の瞳は、冷ややかな光を帯びて、真冬の月のようだった。
「え、えーと、関白殿下……」
「私には、膝に甘えさせたことなんかないくせに。その従者とは、長い付き合いなの?」
「関白! 誤解です。私は、この、山科の姫とは、無関係で……」
「無関係な男が、姫の部屋で膝にとりすがるもんか!」
関白殿下が足早に近寄って、乱暴に小鬼を引き剥がそうとする。
「ちょっと、お待ち下さい! 早蕨たちが来てしまいます」
関白殿下は、ため息をついて、私を見た。
「嘘つき」
いきなり、嘘つきと罵られる謂れはないんだけどなあ。
「あなたは、鬼の君と、連絡を取り合うことは出来ないと、おっしゃったのに。嘘つき」
「こ、この者は、私が呼んだわけではありません!」
慌てて私が否定すると、隣から小鬼が口を挟んだ。
「そうです。私は、主から命をうけて、この、山科の姫をお守りしていたんです。陰ながら!」
「いくら、鈍い山吹だって、自分に護衛が、ついてることくらい、わかるでしょう?」
鈍いとは、心外な。
「いいえ! 私だって、登華殿で、あの僧に首を絞められるまで、知りませんでしたもの」
「あの時、登華殿でこの姫を助けたのが、私です」
「登華殿……ね。あなたの主は、なぜ、山吹を巻き込んだ? なにも知らないからと言っても、捨てゴマにでもするつもりならば、私が許さないよ」
関白殿下の背後に、どす黒い、陽炎が見える……。
敵が、何者なのか、さあ、大人しく吐いてもらおうじゃないの!
「さあ、知ってる事を吐きなさい。一体、鬼の君の敵は、誰なの?」
私の膝にすがり付いていた小鬼が、びくっと肩を震わせる。
「そ、それは……」
「なによ。言えないの?」
「その……まだ、分からないんです。主も、まだ、探っているところで……だから、今回、あなたに、関白と当今(いま現在の帝の事ね)が興味を示したと言うのが、私の主は、あやしい、と……」
「なんだ、鬼の君も、ご存知ないのね。残念だわ」
まあ、それにしたって、私を呪ってる人が誰なのかは、分からないけどね……。
「私が呪われるのに、心当たりは?」
私の質問に、小鬼が、眼を逸らした。あ、これは、なにか、知ってるな!
「小鬼、知ってる事を吐きなさい」
私は、小鬼の肩をぐいっと掴む。
小鬼が、「ひっ!」と小さな悲鳴を上げた。
「申し上げます! ……その、あなたを呪うのは、恐らく、私の主の敵、だと思います。あなたが、私の主と繋がっていると、確信して、呪っているのでしょうから」
もしかすると、あなたが、なにか、重大な秘密を持っていると思っているのかもしれません、と小鬼は呟く。
「私は、関白は、怪しいのではないかと……。あなたに、執拗に触れていたようですし」
あんまり、余計な事は言わないで欲しいわ。ちょっと、思い出しちゃったじゃないの、関白殿下の……口唇の感触。
ああ、顔が熱い……。
「関白殿下は、恐らく、味方よ? だって、登華殿の女御さまの件の、真相を知りたいと言っておいでだったもの」
「なぜ、関白が?」
「だって、ご自分の叔母君よ? それが、息子に呪い殺されたなんて、尋常じゃないわ。それに……」
私のことばが終わらないうちに、
「君の従者ではなくて、鬼の君の従者なのだね? その、女装男子」
庭から、声がした。
いつの間においでになったのか、御簾を上げながら、私の部屋に入ってくるのは、関白殿下だった。
「関白殿下っ! なぜ?」
「山科で、なにかあったら……と想ったら、気が気でなくてね。また、私は、駒(馬)を走らせていたよ」
関白殿下の瞳は、冷ややかな光を帯びて、真冬の月のようだった。
「え、えーと、関白殿下……」
「私には、膝に甘えさせたことなんかないくせに。その従者とは、長い付き合いなの?」
「関白! 誤解です。私は、この、山科の姫とは、無関係で……」
「無関係な男が、姫の部屋で膝にとりすがるもんか!」
関白殿下が足早に近寄って、乱暴に小鬼を引き剥がそうとする。
「ちょっと、お待ち下さい! 早蕨たちが来てしまいます」
関白殿下は、ため息をついて、私を見た。
「嘘つき」
いきなり、嘘つきと罵られる謂れはないんだけどなあ。
「あなたは、鬼の君と、連絡を取り合うことは出来ないと、おっしゃったのに。嘘つき」
「こ、この者は、私が呼んだわけではありません!」
慌てて私が否定すると、隣から小鬼が口を挟んだ。
「そうです。私は、主から命をうけて、この、山科の姫をお守りしていたんです。陰ながら!」
「いくら、鈍い山吹だって、自分に護衛が、ついてることくらい、わかるでしょう?」
鈍いとは、心外な。
「いいえ! 私だって、登華殿で、あの僧に首を絞められるまで、知りませんでしたもの」
「あの時、登華殿でこの姫を助けたのが、私です」
「登華殿……ね。あなたの主は、なぜ、山吹を巻き込んだ? なにも知らないからと言っても、捨てゴマにでもするつもりならば、私が許さないよ」
関白殿下の背後に、どす黒い、陽炎が見える……。
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