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第四章 後宮には危険が一杯!
29.根も葉もないような噂
しおりを挟む鷹峯院……。
二代前の帝で、鬼の君の、父帝。
「関白殿下、確かに、鷹峯院は一番怪しいですけど、あの方は、今上帝の兄ぎみでもあらせらせるのですから、鬼の君を匿ったりはなさらないのでは?」
「わからん」
関白殿下は、にべもなく仰せになってから、部屋の片隅に控えている千種さんに目配せした。
すると、千種さんが、しずしずとやってきて、食膳を用意してくれる。
膳には、強飯と塩、それに青菜の塩漬けなんかの菜(おかず)が並ぶ。
高価な蜜棗(干した棗に甘葛の汁をたっぷり含ませた、超高級スイーツ)が、膳の端に載っているのを見て、成る程、これは、スイーツ男子の関白殿下らしい膳だなあと、関心してしまった。
「陰陽師にも、ちゃんと膳は出すからね」
それなら安心。
それにしても、普段、大臣の息子の陽ならともかく、陰陽師クラスと食膳を共にするなんて、まず、ありえないような高貴な方だから(高貴な人とは、一緒に食事は出来ないし、食事をしたとしても、品数が違ったりするのだ)、多分、食膳を用意されなくても、陰陽師は全然気にしないと思うんだけどね。あの性格だし。
関白殿下、ちょっと、いい人よね。
「陰陽師が帰ってくるの、待ってもよかったんだけど、お腹が減ってね。
意外に、お腹減るんだよね。こういう話してると」
頭使いますからね。
「ありがたく、頂戴致します」
陽は丁寧に礼をして、箸を取った。
千種さんが、錫の酒器を持ってきて、陽の土器の盃に酒を注ぐ。
「鷹峯院のところを、探ることが出来れば、少しは、なにか解るかもしれないけどね」
それは、多分、登華殿の女御の件の真相だろう。
「左兵衛大尉。あなたも、姉ぎみの、ことは、なにも不審に思わないの?」
陽の姉ぎみ……今上帝の女御さま。
「不審には思いましたが、僕には、どうにも出来ませんから」
「毒殺、の噂もあった」
固い声で、関白殿下が言う。
「関白殿下、それは、噂です。宮中には、根も葉もないような噂が、いくらでも転がっていますから。
ほら、シスコンが高じて、妹の婚約者だった東宮殿下を、島流しした関白殿下がいるとか。
ああいう、無責任な話もあるのですから、鵜呑みになさっては……」
「左兵衛大尉。残念ながら、それは、事実だ」
「えっ、本当ですか?」
「しかも、私の祖父だよ。本当に、島流しになった東宮殿下には、気の毒に」
「じゃあ、毒殺も、あながち、嘘ばかりとは限らない?」
「多分ね。……源家が、どう思ってるかは、私も、気になるけど。
少なくとも、その時、鷹峯院は、まだ、仙洞御所においでだったのに、あなたの姉ぎみの件があって、急に、鷹峯へ引退してしまったんだ。
だから、怪しというか……なにかは、ご存じなんだろうさ」
やや、関白殿下は、投げやりに仰せになって、ため息を漏らした。
「私は、あの鷹峯院が苦手なんだよ。会えば解るけど、あの人、濃いんだ。悪い人じゃないんだけど……」
「そうだ! 関白殿下。鷹峯院に、なにか理由をつけて、ごあいさつにうかがうのは、どうでしょう。
女房一人、使者として遣わすんです!」
あっ、なんか、嫌な予感がする。
その女房って、私だったりしますかね?
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