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第四章 後宮には危険が一杯!
19.リスクヘッジ
しおりを挟むいうに事欠いて、口づけがわりに、知ってることを吐け、ときた。
乙女を一体、なんだと心得るか、この、イジラレ関白めっ!
「私が、何を知っていると、おっしゃいますか。田舎ものの、鬼憑きの姫ですよ? 私」
私の言葉を聞いて、関白殿下は、肩を揺らしながら笑った。
「だから、何事かを知っていると思うのだよ。実際に、あなたは、なにか、知っている」
関白殿下は、断言した。流石に、こう言うところは、厳しいお声だ。
言い逃れは許さないという、がん、とした態度が見え隠れしている。
「ちゃんと、知っていることなんて、一つもありません」
「では、ちゃんと、でなければ、君が推測したことで構わないよ。君は、だいぶ、色々調べていたようだから」
妙なところで、鋭いなあ。まあ、まがりなりにも(失礼)関白殿下なんだから、鋭くても、仕方がないか。
「じゃあ、私が、一番に聞きたいことを聞こうか。
さあ、山吹。君は、どうやって、登華殿の女御さまの香を手に入れた?」
やっぱり、それかあ。
仕方がないので、本当のことをいうしかないけど。
だって、このままじゃあ、なにされるか、わからないものね。
時間稼ぎすれば早蕨が、助けてくれるかもしれないし。
「あの香は、私が、自分で調合して作りました」
嘘じゃない。嘘じゃない。
「君! あのねぇ、調合はともかく、あの調合法だよ。私が聞きたいのは!
誰から、入手したの?」
答えは、多分、関白殿下は、ご存じなんだな、と私は、なんとなく察した。
関白殿下が欲しいのは、恐らく、ちゃんとした、裏付けなんだろう。
二条廃帝が、まだ、生きている、という。
けど……。
二条廃帝が、生きているとしたら。一体、この国は、どうなってしまうんだろう。
二条廃帝……、鬼の君は、目的があって、ここに戻ってきたのだろうし。
それは、きっと、母君を呪殺したという、不名誉な噂の回復とか、いろいろなんだろうけど。
そうすると、鬼の君は、呪殺の噂の真相を掴んでいるということになる。
関白殿下の目的がわからないと、やっぱり、全部オープンにするのは、リスクが高いわね。
「山吹。早く、言いなさい」
気が付くと、関白殿下の端正なお顔が、触れるほど間近にあった。
近い! 近いよ!
「申し上げても、きっと、信じてくださらないと……」
言いながら、必死に顔を背けようとするけど、顎をとらえられている。
吐息が混じる程近い。もー、離れてよ~、困るよ~っ!
「なぜ? 私は、君の言葉は、ちゃんと信じてきたでしょう? 和歌だって贈ったし」
「それは、そうなんですけど……だって、私、その香は、鬼の君から、調合を、教えて頂いたんですよ?」
ドキドキした。思わず、言ってしまった。
「鬼?」
「ええ、私の、通り名を、関白殿下もご存じのはず……」
「山科の、鬼憑きの姫」
関白殿下は、ごくり、と喉を鳴らした。
「ええ、私は、山科で 鬼に魅いられたのです。それは、それは、美しい鬼でしたのよ?」
「鬼は、名乗らなかった?」
「ええ、名乗っては下さいませんでしたから、私は、あの方を、鬼の君、とだけ呼ぶことにしたのですもの。
鬼の君がどうなったかは、私には解りませんわ。恐らく、検非違使が追ったのでしょうけど、私は、途中で、気を失ったのですもの」
よし、嘘じゃない。
私は、鬼の君の名前なんか知らないし。
鬼の君が、今、どこにいるかも、本当に解らない。
「嘘、は無いようだけど……」
「ええ、私は、正直に話したのだから、関白殿下、私を解放して下さいませ」
関白殿下は、しかし、なぜか、思案顔だった。
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