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第四章 後宮には危険が一杯!
16.御簾越しの会話
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「鼻を削がれた女房、柏木ですか……しかし、女房は、家の名がわからねば、探すのも難しいでしょうね」
関白殿下が弱音を吐く。
「あら、それでしたら、早良さまにお訊きしたほうが、早うございますわね。
それとも、登華殿の女御さまの帝であらせられた、今の上皇さまにでもお訊きしましょうか」
関白殿下が「それは、やめなさい」と静かに私を嗜める。
「そんなことを、無闇に仰有ると、誰が聞いているか、わかりませんよ」
確かに言う通りだから、黙ってしまうと、ふと、指先が、もぞもぞと動くのに気が付いた。
なにかしら、と思っているうちに、御簾の下から関白殿下の手が差し入れられて、私は指先を捕らえてしまった。
関白殿下の、指先が、私の指先に絡み付く。
ちょっと、何をしているのよ! と抗議しようとしたら、
「それで、美貌の僧は、なにか、言っていましたか?」
と、関白殿下は真面目な声で、聞く。指先は、私の指先に絡みつけたまま。
「なぜ、お前が生きている、と」
「首を絞めながら?」
「ええ、その通りです」
きゅっ、と関白殿下が指先を握る。ちょっと、どぎまぎするから、本当にやめて欲しい。
「それは、穏やかではないね」
声から、表情は読めない。余裕なのが、私は口惜しくてたまらない。私なんか、胸が壊れそうなほど高鳴ってるっていうのに!
「山吹。もうひとつ」
関白殿下が、問う。
「柏木という女房のことを、なぜ、あなたは知っているの?」
「えーと」
私は、どう言おうかと迷っていると、関白殿下は、涼しい声で、告げる。
「正直に言わなければ、ここで、口づけしますからね」
ここで!
ちょっと、冗談じゃないわよ。
「言います! えーと、私、首を絞められてからここに来る間、気を失っていたんです。
それで、夢? を見て……私は、夢の中で、登華殿の女御さまに入り込んだ生き霊だったみたいなんです」
「登華殿の女御さまは、どのようなご様子だった?」
「なんだか、雷の夜に、酷いことが御身に起きたようなんです。それで、早良さまが箝口令を出して……。
ちょっと、それを破った、柏木は、鼻を削がれたんです。早良さまに」
「早良が、自ら、鼻を落としたの?」
「はい。それで、帝がおいでになるというところで、目覚めたのです」
すっかり話終えて、私は、はた、と気づいた。
先帝、二条廃帝は、公にはどういう扱いなのだろうか。
「あの、関白殿下」
「ん? なあに?」
関白殿下は、私の話を思案するでもなく、やんわりと微笑しながら、私の、指先を口許へ持っていった。指先に、関白殿下の口唇の生暖かい感触がした。
御簾が、大きく歪む。慌てて、手を引くと、懸金が外れて、御簾が落ちてしまった。
目の前に、関白殿下がいる。
遠く、女房が駆け寄る音が、慌ただしげに聞こえたが、私は、良くわからなくなってしまった。
気が付いたら、関白殿下に抱き抱えられて、廊下にいたのだから。
ちょっと! ちょっとーっ!
関白殿下、一体、なによっ!
軽くパニックに陥る私に対して、関白殿下は、至極、強張った、冷たい顔をしておいでだった。
関白殿下が弱音を吐く。
「あら、それでしたら、早良さまにお訊きしたほうが、早うございますわね。
それとも、登華殿の女御さまの帝であらせられた、今の上皇さまにでもお訊きしましょうか」
関白殿下が「それは、やめなさい」と静かに私を嗜める。
「そんなことを、無闇に仰有ると、誰が聞いているか、わかりませんよ」
確かに言う通りだから、黙ってしまうと、ふと、指先が、もぞもぞと動くのに気が付いた。
なにかしら、と思っているうちに、御簾の下から関白殿下の手が差し入れられて、私は指先を捕らえてしまった。
関白殿下の、指先が、私の指先に絡み付く。
ちょっと、何をしているのよ! と抗議しようとしたら、
「それで、美貌の僧は、なにか、言っていましたか?」
と、関白殿下は真面目な声で、聞く。指先は、私の指先に絡みつけたまま。
「なぜ、お前が生きている、と」
「首を絞めながら?」
「ええ、その通りです」
きゅっ、と関白殿下が指先を握る。ちょっと、どぎまぎするから、本当にやめて欲しい。
「それは、穏やかではないね」
声から、表情は読めない。余裕なのが、私は口惜しくてたまらない。私なんか、胸が壊れそうなほど高鳴ってるっていうのに!
「山吹。もうひとつ」
関白殿下が、問う。
「柏木という女房のことを、なぜ、あなたは知っているの?」
「えーと」
私は、どう言おうかと迷っていると、関白殿下は、涼しい声で、告げる。
「正直に言わなければ、ここで、口づけしますからね」
ここで!
ちょっと、冗談じゃないわよ。
「言います! えーと、私、首を絞められてからここに来る間、気を失っていたんです。
それで、夢? を見て……私は、夢の中で、登華殿の女御さまに入り込んだ生き霊だったみたいなんです」
「登華殿の女御さまは、どのようなご様子だった?」
「なんだか、雷の夜に、酷いことが御身に起きたようなんです。それで、早良さまが箝口令を出して……。
ちょっと、それを破った、柏木は、鼻を削がれたんです。早良さまに」
「早良が、自ら、鼻を落としたの?」
「はい。それで、帝がおいでになるというところで、目覚めたのです」
すっかり話終えて、私は、はた、と気づいた。
先帝、二条廃帝は、公にはどういう扱いなのだろうか。
「あの、関白殿下」
「ん? なあに?」
関白殿下は、私の話を思案するでもなく、やんわりと微笑しながら、私の、指先を口許へ持っていった。指先に、関白殿下の口唇の生暖かい感触がした。
御簾が、大きく歪む。慌てて、手を引くと、懸金が外れて、御簾が落ちてしまった。
目の前に、関白殿下がいる。
遠く、女房が駆け寄る音が、慌ただしげに聞こえたが、私は、良くわからなくなってしまった。
気が付いたら、関白殿下に抱き抱えられて、廊下にいたのだから。
ちょっと! ちょっとーっ!
関白殿下、一体、なによっ!
軽くパニックに陥る私に対して、関白殿下は、至極、強張った、冷たい顔をしておいでだった。
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