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第四章 後宮には危険が一杯!
15.女房軍団と関白殿下
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関白殿下は、なにやら女房装束軍団を引き連れておいでになった。
さすが、宮中の女房さんたち。美女ばかりで、きらきらしい!
しかし、曲がりなりにも口づけまでした女のところへ来るのに、その、美女軍団は、なによ! と言いたくもなるけど、それ以上に眼福だから、黙っておこう。
「思いがけず、あなたから誘われて、嬉しく思いますよ。山吹」
関白殿下は、にこやかに言う。
見た目はイケメンなのに、女房さんたちから、色々とからかわれているのは、ちょっと可哀想だな。
私は、いちおう、ちゃんとした姫っぽく、早蕨に頼んで応対してもらう。
「慣れない宮中で、頼ることが出来るのは関白殿下くらいでしたから、失礼は承知でお呼びしてしまいました。
華やかな方々を連れて頂いて、心細い思いも、吹き飛びましたわ」
「本当は、あなたと二人になりたかったのですけどね、今日は、唐菓子をたくさん作ったこともあったので、このものたちを連れたのですよ。
今、香子も呼びましたから、今少しにぎやかに、なるでしょう」
香子さまということは二条の姫さまが来るということだ。それは、一体、どういうことだろう。
私は、関白殿下には、こっそり来てほしかったのよね。だって、割と秘密な話があるわけよ。うん。
なのに、女房装束軍団と、姫さままで来たら、結構、お話するのは難しいと思うのよね。
うーん、私、避けられた?
少なくとも、あの美貌の僧のことは、言いたいんだけどなあ。
首にバッチリ残る手の跡が、消える前に。
「さあ、山吹。唐菓子を受け取っておくれ」
しずしずと、唐菓子を捧げ持った女房が、御簾を押しのけて部屋へ入る。
ちら、と覗いた御簾の向こうにいた関白殿下と目が合う。すると、関白殿下は、なにやら、チラチラと目配せした。
部屋の端へ来い、というような感じだ。恐らく。多分。
しかし……こっちには、小鬼がいるのよね。出来れば、今の情況だと、関白殿下とのお話は、聞かれたくないし。
と思っていたら、女房さんが、唐菓子を持って来た。
「まあ、美味しそうな唐菓子。けど、私、胸がいっぱいになってしまって……喉を通りそうもありませんわ。
小鬼、あなた、変わりに頂きなさいな」
私は、几帳の裏で隠れていた小鬼に呼びかける。
「えっ?」
小鬼は、戸惑ったようだけど、仕方がないという様子で、几帳の裏から出て来て、唐菓子にむかった。これで、良し。
小鬼を唐菓子で遠ざけている間に、私は、関白殿下とお話がしたい。
「私は、少し、風が来る場所へ行きますね」
と言いつつ、御簾の方へと移動する。
御簾越しに、会話する……というのは、ちょっと、秘め事みたいだわね。
関白殿下は、すでに私の近くの御簾の方へ寄って、空を見上げながら、物憂げにしていらっしゃる。
妹姫さまがいらっしゃったら、どうするのかしらね。
私も、こっそりと御簾に寄る。
「なにか、騒ぎがあったようだけど、どうしたのです」
関白殿下が、声を低くして尋ねた。
「本当は、お耳に入れようとは思わなかったのですが、私、先程、登華殿にて僧に首を絞められて、死ぬところでした」
「なんですって!」
と、色めき立つ関白殿下を制して、私は告げる。
「あの僧は、登華殿の女御さまの事を、なにか、知っていると思います。それと……早蕨の叔母の、早良さまも」
早良さまの名前は、関白殿下には意外なものだったようで、
「なぜ、早良が?」
と私に聞いた。
「早良は、私の乳母ですよ。なぜ、早良が登華殿の女御さまのことを、知っているのです」
関白殿下は、不審そうに私をみやっているようだけど、御簾越しで良くわからない。
「登華殿の女房たちは、皆、十年前の雷の夜のことを、他言無用にしています」
「だとしても……」
関白殿下は、信じられないというように、ちいさく言った。
「殿下。十年前、登華殿にて女御さまの女房をしていた、柏木というものを探してください。
鼻を削がれていますから」
さらりと、恐ろしいことを言ってしまったが、先ほど見た、夢のようなものは、紛れもなく、十年前の事実だ。
だから、あの、憐れな、柏木は、どこかに、いるはずなのだ。
さすが、宮中の女房さんたち。美女ばかりで、きらきらしい!
しかし、曲がりなりにも口づけまでした女のところへ来るのに、その、美女軍団は、なによ! と言いたくもなるけど、それ以上に眼福だから、黙っておこう。
「思いがけず、あなたから誘われて、嬉しく思いますよ。山吹」
関白殿下は、にこやかに言う。
見た目はイケメンなのに、女房さんたちから、色々とからかわれているのは、ちょっと可哀想だな。
私は、いちおう、ちゃんとした姫っぽく、早蕨に頼んで応対してもらう。
「慣れない宮中で、頼ることが出来るのは関白殿下くらいでしたから、失礼は承知でお呼びしてしまいました。
華やかな方々を連れて頂いて、心細い思いも、吹き飛びましたわ」
「本当は、あなたと二人になりたかったのですけどね、今日は、唐菓子をたくさん作ったこともあったので、このものたちを連れたのですよ。
今、香子も呼びましたから、今少しにぎやかに、なるでしょう」
香子さまということは二条の姫さまが来るということだ。それは、一体、どういうことだろう。
私は、関白殿下には、こっそり来てほしかったのよね。だって、割と秘密な話があるわけよ。うん。
なのに、女房装束軍団と、姫さままで来たら、結構、お話するのは難しいと思うのよね。
うーん、私、避けられた?
少なくとも、あの美貌の僧のことは、言いたいんだけどなあ。
首にバッチリ残る手の跡が、消える前に。
「さあ、山吹。唐菓子を受け取っておくれ」
しずしずと、唐菓子を捧げ持った女房が、御簾を押しのけて部屋へ入る。
ちら、と覗いた御簾の向こうにいた関白殿下と目が合う。すると、関白殿下は、なにやら、チラチラと目配せした。
部屋の端へ来い、というような感じだ。恐らく。多分。
しかし……こっちには、小鬼がいるのよね。出来れば、今の情況だと、関白殿下とのお話は、聞かれたくないし。
と思っていたら、女房さんが、唐菓子を持って来た。
「まあ、美味しそうな唐菓子。けど、私、胸がいっぱいになってしまって……喉を通りそうもありませんわ。
小鬼、あなた、変わりに頂きなさいな」
私は、几帳の裏で隠れていた小鬼に呼びかける。
「えっ?」
小鬼は、戸惑ったようだけど、仕方がないという様子で、几帳の裏から出て来て、唐菓子にむかった。これで、良し。
小鬼を唐菓子で遠ざけている間に、私は、関白殿下とお話がしたい。
「私は、少し、風が来る場所へ行きますね」
と言いつつ、御簾の方へと移動する。
御簾越しに、会話する……というのは、ちょっと、秘め事みたいだわね。
関白殿下は、すでに私の近くの御簾の方へ寄って、空を見上げながら、物憂げにしていらっしゃる。
妹姫さまがいらっしゃったら、どうするのかしらね。
私も、こっそりと御簾に寄る。
「なにか、騒ぎがあったようだけど、どうしたのです」
関白殿下が、声を低くして尋ねた。
「本当は、お耳に入れようとは思わなかったのですが、私、先程、登華殿にて僧に首を絞められて、死ぬところでした」
「なんですって!」
と、色めき立つ関白殿下を制して、私は告げる。
「あの僧は、登華殿の女御さまの事を、なにか、知っていると思います。それと……早蕨の叔母の、早良さまも」
早良さまの名前は、関白殿下には意外なものだったようで、
「なぜ、早良が?」
と私に聞いた。
「早良は、私の乳母ですよ。なぜ、早良が登華殿の女御さまのことを、知っているのです」
関白殿下は、不審そうに私をみやっているようだけど、御簾越しで良くわからない。
「登華殿の女房たちは、皆、十年前の雷の夜のことを、他言無用にしています」
「だとしても……」
関白殿下は、信じられないというように、ちいさく言った。
「殿下。十年前、登華殿にて女御さまの女房をしていた、柏木というものを探してください。
鼻を削がれていますから」
さらりと、恐ろしいことを言ってしまったが、先ほど見た、夢のようなものは、紛れもなく、十年前の事実だ。
だから、あの、憐れな、柏木は、どこかに、いるはずなのだ。
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