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第四章 後宮には危険が一杯!
7.門前に列が出来ている
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権中納言が? 私に贈り物って、何事よ?
第一、なんの面識もない権中納言という方から、『贈り物』なんて受け取る義理はないはずだけど。
私の戸惑いを汲み取ったのか、取り次ぎの女房は告げる。
「山吹さまが、帝のお望みで今回参内されましたのは、皆、存じておりますから、是非とも、ご挨拶申し上げたいのでしよう」
ぞっとした。
もしも、私が、寵妾になったら、身分も卑しい私でも、権力を持つことになる。
そうなった時にそなえて、今から、私に取り入ろうということだろう。
うーん、『ご寵愛』って、怖いなあ。実際のところ、そんな事実は無いのに。
「贈り物も、怖いから」
と私がいうと、早蕨が心得たというように、取り次ぎの女房に話しかけた。
「私は、贈り物などいただくような立場ではございませぬゆえ……どうぞ、お持ち返り下さいませ」
早蕨は、しずしずという。
「お気持ちは分かりますけど、こちらの門前には、贈り物を持った公家たちが大挙しておりますのよ。
受け取ってくださらないと、あの方たちは、引き取ってくださらないでしょう。こう言ってはなんですけど、頂けるものなら、頂いてしまってもよろしいのでは?」
取り次ぎさんは、めちゃくちゃな、ことをいう。
頂きものなんて、お返しが必須じゃないのっ!
これで、本気にしてお返しもしなかったら、今度はうちの父親と兄さまに類が及ぶわよ!
そして、うちには、気の利いたお返しものを用意する財力なんかないのだ。
………本当は、関白殿下にも何かお返ししなきゃならないんだろうなあ。まあ、あの人は、木菓子(果物)でも、四季折々に贈ればいいか。多分、そこそこ、喜んでくれるだろう。
「あら、女房さま、あなたが、贈り物をお断りするのが面倒なだけでは? 私どもの姫は、過ぎたる贈り物を浅ましく頂いて、自らの評判を貶めるようなことは、なさいませんわ。
とにかく、慣れぬ宮中にて、急に泊まらなくてはならなくなって、気鬱ですの。
どうぞ、お引き取りを」
早蕨は、きっぱりという。そういや、中将の姿がないと思っていたら、むかしとった杵柄で、警護の兵衛を呼んできたようだった。流石!
兵衛は、内裏の門の警護とか、その辺をやる武官で、左兵衛、右兵衛と左右ある。大体、四百人くらいの武官が所属しているとは聞いたことがあるような。
私の幼なじみの源陽は、ここの大尉なのだ。
あとで、陽と、セクハラジジイのことを呼びつけないとね。
「女房殿、なにか有りましたか? なにやら、門前がに公卿が列を成しておりますが」
兵衛が、心配そうな声音で聞く。門前に列とは、怖ろしすぎる。
「なんでも……」
ありません、とでも言おうとしたらしい、取り次ぎの女房の言葉を、遮って早蕨が、
「お取り次ぎの女房さまがお帰りですわ、それと、こちらの殿舍の前に、何やら人が集まっているとか。
贈り物とは言われましたけど、なにやら、恐ろしい心地が致しますから、どうぞ、人払いを、お願い致します」
と、さらさらという。
なんという、連携プレー。
中将が、幽霊でなければ、本当に早蕨とはいいコンビになったと思うんだけどなあ~。残念。セクハラジジイに逢わせて、満足したら、成仏……するんだろうなあ。
「わかりました。門前、騒がしいですからね」
「ええ、お願いいたします。あのように人が多いと、それだけで恐ろしくって」
「姫君たちは、みな、そうでしょう。人払いは、お任せください」
かくて兵衛は、早蕨の言葉を全面信用して、人払いを請け負ってくれたのだった。
ついでに、取り次ぎの女房も下がってもらうことに成功して、私はホッとしていたのだけど、早蕨は、顔を真っ赤にして、怒っていた。
「早蕨、どうしたの? そんなに怒るなんて、珍しいわね」
「どうしたもこうしたもありません! あの、取り次ぎの女房ときたら、こちらが、貧乏な、田舎者だと思って、頂けるものは頂いておいたら? なんて、まったく、失礼な!」
なるほど、早蕨は早蕨で、腹が立っていたらしい。
「本当に、失礼ですわよね。帝がご寵愛する女人なのですよ! なのに、文の一通、紹介もなしにいきなり訊ねてくるなんて。あの、取り次ぎが姫さまを、侮っている証拠です!」
中将も、鼻息荒い。
「侮られるのは、致し方ないと思うけど。だって、私、山科育ちよ?」
あそこは、いい場所だけど、如何せん、田舎だ。
鄙育ちと言われても仕方がない。
「いいえ、姫さま!」
早蕨が声を上げた。
「姫さまが、ご自身を卑下されれば、姫さまに想いを寄せておられる、帝や、関白殿下にも失礼なことになるのですよ?」
そういうもの、なのかなあ。
私が、首を捻ると、早蕨は大声で、
「そうですわよ!」
と、怒鳴られた。
早蕨と中将は、どうにも怒りが収まらないらしく、二人で、ぎゃあぎゃあと、あの取り次ぎの女房を口汚く罵っている。
もう、困るなあ。第一、帝といい、関白殿下といい、本気で私の事を好きっていうだけじゃないような気がするから、それが困るのよ。
第一、なんの面識もない権中納言という方から、『贈り物』なんて受け取る義理はないはずだけど。
私の戸惑いを汲み取ったのか、取り次ぎの女房は告げる。
「山吹さまが、帝のお望みで今回参内されましたのは、皆、存じておりますから、是非とも、ご挨拶申し上げたいのでしよう」
ぞっとした。
もしも、私が、寵妾になったら、身分も卑しい私でも、権力を持つことになる。
そうなった時にそなえて、今から、私に取り入ろうということだろう。
うーん、『ご寵愛』って、怖いなあ。実際のところ、そんな事実は無いのに。
「贈り物も、怖いから」
と私がいうと、早蕨が心得たというように、取り次ぎの女房に話しかけた。
「私は、贈り物などいただくような立場ではございませぬゆえ……どうぞ、お持ち返り下さいませ」
早蕨は、しずしずという。
「お気持ちは分かりますけど、こちらの門前には、贈り物を持った公家たちが大挙しておりますのよ。
受け取ってくださらないと、あの方たちは、引き取ってくださらないでしょう。こう言ってはなんですけど、頂けるものなら、頂いてしまってもよろしいのでは?」
取り次ぎさんは、めちゃくちゃな、ことをいう。
頂きものなんて、お返しが必須じゃないのっ!
これで、本気にしてお返しもしなかったら、今度はうちの父親と兄さまに類が及ぶわよ!
そして、うちには、気の利いたお返しものを用意する財力なんかないのだ。
………本当は、関白殿下にも何かお返ししなきゃならないんだろうなあ。まあ、あの人は、木菓子(果物)でも、四季折々に贈ればいいか。多分、そこそこ、喜んでくれるだろう。
「あら、女房さま、あなたが、贈り物をお断りするのが面倒なだけでは? 私どもの姫は、過ぎたる贈り物を浅ましく頂いて、自らの評判を貶めるようなことは、なさいませんわ。
とにかく、慣れぬ宮中にて、急に泊まらなくてはならなくなって、気鬱ですの。
どうぞ、お引き取りを」
早蕨は、きっぱりという。そういや、中将の姿がないと思っていたら、むかしとった杵柄で、警護の兵衛を呼んできたようだった。流石!
兵衛は、内裏の門の警護とか、その辺をやる武官で、左兵衛、右兵衛と左右ある。大体、四百人くらいの武官が所属しているとは聞いたことがあるような。
私の幼なじみの源陽は、ここの大尉なのだ。
あとで、陽と、セクハラジジイのことを呼びつけないとね。
「女房殿、なにか有りましたか? なにやら、門前がに公卿が列を成しておりますが」
兵衛が、心配そうな声音で聞く。門前に列とは、怖ろしすぎる。
「なんでも……」
ありません、とでも言おうとしたらしい、取り次ぎの女房の言葉を、遮って早蕨が、
「お取り次ぎの女房さまがお帰りですわ、それと、こちらの殿舍の前に、何やら人が集まっているとか。
贈り物とは言われましたけど、なにやら、恐ろしい心地が致しますから、どうぞ、人払いを、お願い致します」
と、さらさらという。
なんという、連携プレー。
中将が、幽霊でなければ、本当に早蕨とはいいコンビになったと思うんだけどなあ~。残念。セクハラジジイに逢わせて、満足したら、成仏……するんだろうなあ。
「わかりました。門前、騒がしいですからね」
「ええ、お願いいたします。あのように人が多いと、それだけで恐ろしくって」
「姫君たちは、みな、そうでしょう。人払いは、お任せください」
かくて兵衛は、早蕨の言葉を全面信用して、人払いを請け負ってくれたのだった。
ついでに、取り次ぎの女房も下がってもらうことに成功して、私はホッとしていたのだけど、早蕨は、顔を真っ赤にして、怒っていた。
「早蕨、どうしたの? そんなに怒るなんて、珍しいわね」
「どうしたもこうしたもありません! あの、取り次ぎの女房ときたら、こちらが、貧乏な、田舎者だと思って、頂けるものは頂いておいたら? なんて、まったく、失礼な!」
なるほど、早蕨は早蕨で、腹が立っていたらしい。
「本当に、失礼ですわよね。帝がご寵愛する女人なのですよ! なのに、文の一通、紹介もなしにいきなり訊ねてくるなんて。あの、取り次ぎが姫さまを、侮っている証拠です!」
中将も、鼻息荒い。
「侮られるのは、致し方ないと思うけど。だって、私、山科育ちよ?」
あそこは、いい場所だけど、如何せん、田舎だ。
鄙育ちと言われても仕方がない。
「いいえ、姫さま!」
早蕨が声を上げた。
「姫さまが、ご自身を卑下されれば、姫さまに想いを寄せておられる、帝や、関白殿下にも失礼なことになるのですよ?」
そういうもの、なのかなあ。
私が、首を捻ると、早蕨は大声で、
「そうですわよ!」
と、怒鳴られた。
早蕨と中将は、どうにも怒りが収まらないらしく、二人で、ぎゃあぎゃあと、あの取り次ぎの女房を口汚く罵っている。
もう、困るなあ。第一、帝といい、関白殿下といい、本気で私の事を好きっていうだけじゃないような気がするから、それが困るのよ。
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