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第三章 千年に一度のモテ期到来?
21.衾の中でドキドキの盗み聞き
しおりを挟む釘を指すために、帝はおいでになったらしい。
えーと、釘を刺すって、一体、どういう意味だろうか。
私と、関白殿下が、いわゆる、男女の関係になるとか、そういうこと、か、な?
「帝ともあろうかたが、何を仰せです」
「うむ、わざわざ、呼び寄せたのに、そなたが、邸に招いたりするから、私も、不安になったのだ。
そなたは、方違えゆえ曹司にいると思ったからこそ、山吹がそなたの邸でしたくをするのを許したが、関白、山吹とは、何か話したのか?」
帝の口調は、まるで詰問のようで、私は、恐ろしくなってしまったのだけど、関白殿下は、気にも止めない。
「私も、つい先ほど戻ったばかりですから、なにも」
「今から、忍んで行くつもりではあるまいな?」
「そのようなことをすれば、妹に怒られますよ。私も、あれに嫌われるのは困りますからね」
「ああ、家系的に十分シスコンだろうしな。朱鳥帝も、そのあたりは大分苦労しておいでだった」
帝は、くすくすとお笑いになる。
朱鳥帝というのは、三代前の帝で、藤原瞶子様が女御として入内した帝ね。今上様は、朱鳥帝の第四皇子になる。今上帝に取っては、父帝だ。
関白殿下は、多少、イラっと来たようだけど、とりあえず、流したようだ。
相手が悪い。
「わざわざ、こんなことの為に、私の邸までに忍んでくださったのですか?」
「それがどうした」
関白殿下は、私の頭を、トン、とかるく叩いた。何かの合図のようだけど、意図がわからない。
慎重に、探らないと!
「あの、つまらない娘に、なぜ執着なさいます、帝ともあろうかたが」
つまらなくて悪かったわね!
「そなたこそ、関白」
「いえ、私は、古くから山吹を存じておりましたからね。
あれの父親とも懇意ですし、早蕨を遣わしたのは、私ですから」
えーっ!
私を案じて、気遣って下さった、謎の高貴な方って、関白殿下だったの?
なんか、想像と違う!
「おや、関白、あなたが、早蕨を遣わしたとは、初耳だ。私は、高岡女王だと想っていたが」
高岡女王という言葉に、関白殿下の指先が、ぴくっと動いた。
高岡女王……ということは、皇族なのだろうけど、さすがに、どういう方かなんて、わからない。
「なぜ、あの高貴な方が、早蕨を遣わすなどということになるのです」
「噂話だよ。……ただの、ね」
帝は、意味ありげに言う。
「関白。そなた、何を探っておる? わざわざ、山科へ馬を走らせたのは、私の耳にも聞こえているぞ?」
低い声音だった。
しかし、関白殿下も、しれっと答える。
「主上のお耳を汚すほどのことではありません。とにかく、山吹に会いたい一心でしたよ。それで馬を駆るのも、良いものです。流石に、主上にはおできにならない」
ふふ、と笑いながら、関白殿下はいうと、帝が「チッ」と舌打ちをなさるのをきいた。
こういう高貴な方でも、舌打ちってするんだなあ。
「何を探っている」
「人聞きの悪い……。主上こそ、何をお隠しです」
二人の会話は、平行線だ。これは、このまま、状況が回復するとは思えないのだけれど。
「関白。素直に吐かぬか。私の言うことが聞けぬのか? このまま、朝敵になってもよいのか?」
「おや、二条関白家を敵に回して、ご無事で居られますか?」
「源家がいる」
「あのセクハラジジイでしたら、こちらで弱みは握っていますよ。主上。私は、ただ、知りたいだけです」
「何を」
「十年前の、あの、雷の夜のことを」
関白殿下の言葉に、帝が、くすくすと笑い出した。
「なるほど。それが本音か」
おそらく、帝が立ち上がったのだと思う。衣擦れと、足音が聞こえた。
「関白。私を見くびるなよ。……衾の中に、何を隠している!」
帝が声を荒げて、衾に手を伸ばした。
マズイ、バレるっ!
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