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第三章 千年に一度のモテ期到来?
20 バレたら困る!
しおりを挟む足音が近づいてくる。
私は、緊張しながら、衾の中に居た。とりあえず、私がここに居ることがバレると、色々とマズイ。
なにせ、私は、凄い格好だし。(袴も着けていないし、表着もない! 薄衣も、『五衣』という通称にはほど遠い三枚ばかり適当に羽織ったものだ。)
こんな格好で、私が関白殿下のお部屋に居ることが人に知れたら大変だ。
関白殿下は褥の上に上半身を起こして、使者の到着を待った。
「そんなに緊張しなくても、外からはばれないよ」
関白殿下は笑うけど、私には、そんな余裕はない。
「とにかく、気楽にしていなさい」
関白殿下に言われて、私は「はい」とだけ返事をしておいた。
そして、いよいよ、足音が近づいて、ピタリと止まった。関白殿下の部屋の真ん前、廊下に、使者が居るのだ。
「帝のご使者と伺ったが……夜分ゆえ、装束も羽織っておりませぬゆえ、ここから失礼を」
関白殿下の申し出に、「無礼であろう、関白」と、低い声が窘めた。
あれ? 私、この声、聞き覚えがあるわね。
「そのお声は、まさか、主上でございますか?」
関白殿下の腰が浮きかけて、私は慌てた。
これは、物陰にでも隠れた方が良いかしら……。けど、隠れられそうな几帳も、辺りが暗くて解らない。
「ああ、構わぬ。部屋へ入るぞ……」
「いえ! 私が、そちらへ出ます!」
「いや、人目を憚ってここへ来たのだ」
帝は、半蔀を上げて部屋へ入ってくる。
「困ったね……」
小さな声で、関白殿下が呟く。私は、仕方がなく、関白殿下にぴったりとくっついて、帝に見つからないようにした。
ええ。そりゃあ、もう! 必死ですわよ!
床が、軋んだ音を立てる。足音が近づいてくる。帝が、すぐ近くに来ている。帝には、見つかったらマズイ。
動悸が酷くなって、くらくらする。
「灯りを付けさせますか?」
「いや、良い。帝の使者と話すのに、灯りを入れるのは、不自然だ」
「さようですか……では、なぜ、帝は、私にご使者を使わしたのでしょうか。それも、殊の外、重き立場の方に使いを頼んだようですが……」
「いや、明日の管絃の前に、山吹がここに寄ってから来る手はずになって居たことを思いだしたのでな」
「おや、山吹の所へ忍んで行くおつもりですか? あいにく、妹と同じ建屋におりますが……やはり、重き方が、軽々しいことをなさるのはよろしくありません」
などと関白殿下は、平然とした顔で言い放つ。
「私は、山吹を抱え込もうとなどしていないが」
「おや、左様でございましたか。主上は、どうにも、あの山吹が気になるようでしたので、私の勘違いでしたか」
「そうたせ、そなたの勘違いだ。関白。―――私は、山吹を召したのだ。それを、ゆめゆめ忘れるなと、忠告に参ったのだ」
帝の声が、冷たく響く。
あー、もう、信じられない。なんで、こんな事になって居るのよ。『召した』のお言葉に、深い意味があると怖いのよ~っ!
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