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第三章 千年に一度のモテ期到来?
16.唐菓子片手にガールズトーク
しおりを挟む二条の姫さまのお部屋で、すっかり寛いで、気がついたら、楽器の練習なんか、まったくしていなかった。
唐菓子片手にガールズトークの、なんと楽しいこと!
特に、うちには早蕨くらいしか、若い女房がいないから、十人以上も女の人がいるというのは、すごく新鮮!
そんなわけで、楽しくて、夜更けまで話し込んでしまったのだ。
明日、参内早いのにね。
ああ、関白殿下への御文のお返しは……一応したわよ。
尊き御身になにかありましたら、私は、世間に顔向け出来ないでしょうから、私の所に来るなど考えないで下さいませ
とまあ、こんなもんで。
結局、二条の姫さまには、御文を見られて、返事を書くよう急かされたのだけど。
「山吹は、兄さまのことを憎からず想っているようで良かったわ。
大嫌いだから、一生、直廬に居てくれなんて、酷い御文だったら兄さまも可愛そうだと思ったの」
「いえ、そういうわけでは……」
「本当に、今日が、方違えで残念だわ!」
姫さまは、きゃあきゃあと言うので、私は、ちょっと反論が、困難になってきた。
「でも、関白殿下に、ちょっと、お逢いしたいかもしれないわ」
「まあ! 山吹ったら! 急いで兄さまにお知らせしないと!」
嬉々として筆をとる姫さまを尻目に、私は、思う。
そう。
関白殿下に会いたい気分にはなった。
中将の主、登華殿の女御さま。この方の、亡くなった理由を知りたい。
帝の為に、桜の宴を催して、その裏には、登華殿の女御さまの弔いの意味が隠れているなら、関白殿下は、十年前のことを、なにか、ご存じのはずだ。
だとしたら、関白殿下が、登華殿の女御の装束を、私に贈って、それを私が身に纏って参内するのは、なにかの意図があるはず。
関白殿下は、熱烈な恋歌なんか贈って来たけど、本気かどうかなんてわからない。
あの時、帝とお話していた私だから、私でなくてはならないだけかもしれない。(というか、もはや、そうであって欲しい)
本当は、参内前にお会いして、意図を聞き出したいところだけど。
―――と、私は、意を決した。
「姫さま……あの、やっぱり、私、参内が不安なんです。一度、関白殿下にお会いしたいと思うのですけれど」
姫さまの瞳か、きらり! と光った。
「本当? だったら、兄さまに御文を書くわ! 山吹が、兄さまと縁付いてくれたら、私は、嬉しいもの」
「深い仲になるかは、わかりませんけど。関白殿下が、こんなに熱心に御文を下さるのに、私の態度も、あまりにも子供っぽいと反省しましたの。
山科でも、急に泣き出したので、さぞ、ご迷惑だったと思いますけど、関白殿下は、あの時、取り乱した私の態度も、言葉を忘れずに、和歌をくださったのですし」
「兄さまったら、山科まで行ったの? 私、知らなかったわ」
あ、しまった。余計なことを。
「山吹、それは、いつのことなの?」
うう、はぐらかすのも不自然だし。仕方ない。
「こちらのお邸を辞してすぐ、自ら馬を駆っていらしたので、驚いてしまって……」
「兄さまが、馬を走らせるなんて、珍しい! そんなに早く、山吹に会いたかったのね! 皆さん聞いた? こうなったら、山吹と兄さまがうまく行くよう、私たちが、全力で応援致しましょうね!」
女房の皆さまも、姫さまの案に賛成のようだった。
というのも、二条の姫さまは、入内するというもっぱらのうわさ。みんな、女御様や中宮様の女房として華々しく居たいのだろう。その気持ちは、なんとなくわかる。
そこに、のこのこ、私みたいなのがいると、厄介なのだ。
そんなわけで、私は、二条関白邸の女房さんたちを味方に付けた。
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