54 / 186
第三章 千年に一度のモテ期到来?
14.スイーツ女子会
しおりを挟む関白殿下のお邸に到着すると、二条の姫さまが出迎えて下さった。
しかし、関白邸、妙にあまくてこうばしい香りに満ちている。前に来たときには、花や香の奥ゆかしい感じだったけれど……。
「わざわざ、私のようなものを、お出迎え下さらなくとも……」
と恐縮していた私だけど、姫さまのほうは、実にあっけらかんとしておいでで、
「あら! 私は、帝から色を聴されていないわ! 山吹のほうが素晴らしいのよ。帝も、そう思っておいでたと思うの」
などと、目眩のしそうなことを仰有る。
確かに、私は、色を聴されたらしい。どういうことか、わからないけど。
「私も、あまり参内したことはないの。関白殿下の直廬(宮中に賜ったお部屋。関白殿下ともなると、帰宅が遅くなったり、泊まり込むこともあるらしい。曹司とも言うらしい)には伺ったこともあるし、五節の舞姫もやったことはあるのだけれど」
五節の舞姫!
かつて、帝の前に天女が現れて舞い踊ったという故事に基づいて行われる行事だ。
普段、邸の奥で顔も見せることなく生活する私たちにとっては、帝や臣たちがずらりと居並ぶ中を舞わなければならないというのは、物凄いことなのだ。
仕度も冠まで付けて、比礼まで纏うフルセットなので、大変だろうし重いだろう。
このお役目を無事に果たした姫を、私は、尊敬する。
「あの時に比べたら、今回のお召しは、気楽なものだわ。さ、山吹。唐菓子を用意させたの。参りましょう?」
「唐菓子?」
唐菓子と言ったら、小麦の粉を練って、油で揚げたのに、甘葛で作った蜜をたっぷりかけた、超贅沢スイーツ!
それで、お邸が甘い香りだったのね。
「ええ。山吹は、唐菓子はお好き?」
「好きですけど……」
高級品なので、ほとんど食べたことはないけどね。
たしか、私の裳着(成人式)の時と、兄さまの昇進のときかなあ。
あ! 私ったら、うっかり、父親より昇進してる!
「良かった! 私も、大好きなの。関白殿下も大好きなのよ、唐菓子。手をベタベタにしながら、童のように召し上がっていらしたわ」
あの、美形関白殿下が……。
嬉々として唐菓子を頬張る姿なんて、想像出来ない!
「あの、関白殿下が?」
「そうなの。関白殿下、甘いものが大好きで、夏になると、必ず、削氷に蜜をかけたものを三杯も召し上がって、お腹を壊されるわ」
「必ず?」
「ええ、必ず」
意外~。
「果物なんかも、お好みかしら」
それなら、あとで、山科で取れた桃とか、柿の甘いやつでも贈って差し上げれば喜ぶかも。
「ええ。木菓子も大好きです。本当に甘いものに目がなくって……おかげで、私たちにも、甘いもののお裾分けが頂けるのですけれど……」
「じゃあ、あとで、山科で取れた果物でもお送りしますわね」
「まあ、関白殿下は、きっと、喜ぶと思います。ほかならぬ、山吹からの果物ですもの!」
ぶっ! と私は何かを吹き出しそうになった。
「ほ、ほ、ほかならぬ、私って……っ!」
「だって、山吹は、関白殿下のお気に入りでしょう? 関白殿下は、正室様とは、どうにも疎遠だし……。私がいうのもなんだけど、関白殿下って、通わせるなら悪くない方だと思うわ」
わーっ! 何言ってんのっ!
通わせるとかっ!
「……なんてことを言ったら、私が、山吹が入内したら困るから、関白殿下を押しつけたって思うわね。ごめんなさい」
二条の姫さまの言葉に、頭が付いていかない。
「私が入内は、かなり無理です!」
「そうかしら……たしかに、ご寵愛だけがたのみというのは、心細いかも知れないけど……」
「先立つモロモロがなければ、入内なんて……」
「じゃあ、兄君の思いを受け容れて下さいますのね!」
目を輝かして二条の姫さまが言う。
「……関白殿下からなんて、畏れ多くて……」
それきり黙り込んで、姫さまのお部屋へ入って程なく、唐菓子を片手にガールズトークに花を咲かせていると、
「こちらに、山科の山吹の方は」
などと言って、階の下から小者が私を呼ぶ。
「あ、はい!」
と返事しそうになったのを早蕨が止めて、「なにごとです」と呼びかけると「こちら、関白殿下から御文でございます」と小者が言うので、早蕨が御簾を上げて貰ってしずしずと階へ寄った。
「お返事は、すぐ参らせた方がよろしゅう御座いますか?」
小者に確認すると、「ご迷惑でなければ」と小者がいうのが聞こえた。
「まあっ! 山吹。関白殿下から御文ですよ! きゃあっ!」
完全に、姫さまは、他人事だと思って、はしゃいでいる。
山吹の花なんか添えて、香もたきしめてある薄様の文に、瑞々しくも男らしい手跡で綴られていたのは、コッチが赤面しそうなほどの熱烈な恋歌で。
私は思わず突っ伏して仕舞った。
0
お気に入りに追加
266
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
【完結】君は私を許してはいけない ーーー 永遠の贖罪
冬馬亮
恋愛
少女は、ある日突然すべてを失った。
地位も、名誉も、家族も、友も、愛する婚約者も---。
ひとりの凶悪な令嬢によって人生の何もかもがひっくり返され、苦難と苦痛の地獄のような日々に突き落とされた少女が、ある村にたどり着き、心の平安を得るまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる