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第三章 千年に一度のモテ期到来?
9.幽霊屋敷
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宮中で管絃……。
気が重いことと言ったら、並のことではない……。
いや、私も、山科はとにかくヒマで、ヒマにヒマだったから。
朝起きる→属星を唱えてお祈り→朝食→手習い・読書・勉強(主に和歌)・箏の練習・琵琶の練習→夕食→勉強・箏の練習→就寝という日々を送ってきたので、並の姫くらいには弾けるつもりだけど。(ただし、合奏経験がない)
でも、困る。第一、この装束だとか何だとか……。
途方に暮れていると、
『まあ、懐かしいこと……』
と、私の背後から声がした。背後……、と考えて、私は鳥肌が立つ。早蕨は、私の前に居る。じゃあ、背後に居るのは一体誰よっ!
「あの……」
声を掛けようとしたら、その雰囲気に気がついたらしい。
「むっ! ここに怨霊が居るっ! 即刻、祓って……」
陰陽師が、何事かをし始めたので、仕方がなく、止めることにした。
「直親さま、お待ちになって!」
直親……たしか、直親だよね、この陰陽師。
効果は抜群だったらしく、陰陽師は、ぴたり、と動きを止めて、ぎこちなく私を振り返る。その顔が、真っ赤になっているところを見ると、意外に、女慣れはしてないのかも知れない。―――というか、この性格じゃ、まあ、無理だ。
「ま、待てというのか? あなたを、取り殺そうとして居るではないか。私と、あなたの仲に嫉妬したのだろう。哀れなことだが……」
「いえ、ちょーっと待って下さいません? 直親さま。なんだか、この方、気になることを仰有ったの」
「気になること?」
「ええ。この、帝から賜った装束を見て、『懐かしい』とか……」
ふむ、と言いながら陰陽師は、装束を無造作に手に取った。
「ふむ、のろいが込められているだとか、そういうことはないようだが……。真新しいものというのでもないようだな」
「まあ、こんな装束のフルセットなんですから、新品なんか賜ったら、袖を通せないわ」
「して、そこな幽霊。……この装束に見覚えがあるのだな?」
陰陽師が、幽霊に問い掛ける。私も、おそるおそる、振り返ると、そこに、こざっぱりした袿姿の、うら若き美人がいた。
「意外に、はっきり、見えるものなんですね……」
「ああ。存外、見えるものだ」
『こちらは、わたくしがお仕えしていた主のもの……お懐かしい』
しくしくと、目頭を袖で押さえた幽霊は、しめやかにいう。
「その、主というのは……?」
『わたくし、お慕いしていたおとこがありますの。どうぞ、その男に、会わせて下さいませ』
「いや、無理でしょう……」
素直に幽霊にあってくれと頼んでも………。
「面倒だな。どれ、私が少し締め上げよう。このような幽霊の言うがままになっていると、大抵、要求が大きくなっていくのが常なのだ。そして、最後には、命を取ろうとする」
なんとなく、解る気がするわ。早蕨も、頷いている。
『酷い……わたくしは、ただ、お待ち申し上げているだけですのに……』
「そこな幽霊の方、本当に、何千年も待つおつもりですの? 来世では、良縁に恵まれるかも知れませんのに。それでしたら、この陰陽師さま、腕は確かなようですわよ、祓って頂いても良いかとは思いますけれど……私としては、女同士、ここで、仲良く暮らして頂けたらと思いますわ。聞いていたかも知れませんけれど、私たち、今から宮中へ参内しなければなりませんの。あなた、もしかして、宮中で働いたことがおありなのでは?」
早蕨は、平然と幽霊に聞く。幽霊のほうが戸惑ってるわよ。
『ええ……わたくし、主である登華殿様の女房でしたから……』
気が重いことと言ったら、並のことではない……。
いや、私も、山科はとにかくヒマで、ヒマにヒマだったから。
朝起きる→属星を唱えてお祈り→朝食→手習い・読書・勉強(主に和歌)・箏の練習・琵琶の練習→夕食→勉強・箏の練習→就寝という日々を送ってきたので、並の姫くらいには弾けるつもりだけど。(ただし、合奏経験がない)
でも、困る。第一、この装束だとか何だとか……。
途方に暮れていると、
『まあ、懐かしいこと……』
と、私の背後から声がした。背後……、と考えて、私は鳥肌が立つ。早蕨は、私の前に居る。じゃあ、背後に居るのは一体誰よっ!
「あの……」
声を掛けようとしたら、その雰囲気に気がついたらしい。
「むっ! ここに怨霊が居るっ! 即刻、祓って……」
陰陽師が、何事かをし始めたので、仕方がなく、止めることにした。
「直親さま、お待ちになって!」
直親……たしか、直親だよね、この陰陽師。
効果は抜群だったらしく、陰陽師は、ぴたり、と動きを止めて、ぎこちなく私を振り返る。その顔が、真っ赤になっているところを見ると、意外に、女慣れはしてないのかも知れない。―――というか、この性格じゃ、まあ、無理だ。
「ま、待てというのか? あなたを、取り殺そうとして居るではないか。私と、あなたの仲に嫉妬したのだろう。哀れなことだが……」
「いえ、ちょーっと待って下さいません? 直親さま。なんだか、この方、気になることを仰有ったの」
「気になること?」
「ええ。この、帝から賜った装束を見て、『懐かしい』とか……」
ふむ、と言いながら陰陽師は、装束を無造作に手に取った。
「ふむ、のろいが込められているだとか、そういうことはないようだが……。真新しいものというのでもないようだな」
「まあ、こんな装束のフルセットなんですから、新品なんか賜ったら、袖を通せないわ」
「して、そこな幽霊。……この装束に見覚えがあるのだな?」
陰陽師が、幽霊に問い掛ける。私も、おそるおそる、振り返ると、そこに、こざっぱりした袿姿の、うら若き美人がいた。
「意外に、はっきり、見えるものなんですね……」
「ああ。存外、見えるものだ」
『こちらは、わたくしがお仕えしていた主のもの……お懐かしい』
しくしくと、目頭を袖で押さえた幽霊は、しめやかにいう。
「その、主というのは……?」
『わたくし、お慕いしていたおとこがありますの。どうぞ、その男に、会わせて下さいませ』
「いや、無理でしょう……」
素直に幽霊にあってくれと頼んでも………。
「面倒だな。どれ、私が少し締め上げよう。このような幽霊の言うがままになっていると、大抵、要求が大きくなっていくのが常なのだ。そして、最後には、命を取ろうとする」
なんとなく、解る気がするわ。早蕨も、頷いている。
『酷い……わたくしは、ただ、お待ち申し上げているだけですのに……』
「そこな幽霊の方、本当に、何千年も待つおつもりですの? 来世では、良縁に恵まれるかも知れませんのに。それでしたら、この陰陽師さま、腕は確かなようですわよ、祓って頂いても良いかとは思いますけれど……私としては、女同士、ここで、仲良く暮らして頂けたらと思いますわ。聞いていたかも知れませんけれど、私たち、今から宮中へ参内しなければなりませんの。あなた、もしかして、宮中で働いたことがおありなのでは?」
早蕨は、平然と幽霊に聞く。幽霊のほうが戸惑ってるわよ。
『ええ……わたくし、主である登華殿様の女房でしたから……』
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