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第一章 花の宴の夜は危険!

7.蝶を探して

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 前栽には、色とりどりの花が植えられていた。

 おそらく、今日の宴の為に整えられた、今を盛りと咲く花ばかり。連翹だったり、鉄線だったり……色とりどりのはずだから、月明かりしか無いのが淋しいくらい。

 姫様は、簀子すのこでお待ち頂いているので、私は、あとは、『蝶の小君』探しだ。

 さて、蝶が、この夜中に飛んでいると良いけど。

 前栽の中には踏み入らないようにしながら、気をつけて蝶を探す。

 私の装束は、多分、泥だらけだろうなあ。長袴は手繰っているものの、五衣などの衣と表着は、全部着たままで、重いから持って歩くことも出来ない。

 基本、私達のこの装束って、外歩きしないものなのよ。

 だから、女房装束(十二単)には、くつは無いのだ。

 殿方は、長いきょを引いた束帯姿が正装だけど、この裾は、綺麗に畳んで、太刀に、かけたりして置くので、問題ない。勿論、沓もある。

 さて、あの姫さまの、悲しむお顔が見たくないというのと、あの場所から逃げたい気分で、蝶探しを引き受けてしまったけど、私は、早くも後悔し始めた。

 本当に、蝶なんて、一匹も飛んでないのよ!

 いっそ、蛾でもいないかと思いきや、まあ、まだ春先なので、いるはずもなく。

「小君、出ておいで!」

 呼びかけても、蝶が出てくるはずもない。

 泣きたくなったその時。

「そこな女房殿、なにかお探しですか?」

 と、親切な人が声を掛けてくれた。

 今日は、宴というので、気軽な直衣のうしを纏った、年若い方だった。私と同い年くらいに見える。

「ええ、蝶を探しておりますの」

 手伝って貰うつもりで、私は、出来るだけ、か弱そうに言う。

「蝶を、こんな夜中に?」

 もっともな意見なことは解ってるわよ。私だって、あの、姫さまの頼みでなかったら、『虫なんて怖くて触れませんわ』と申しあげていますとも!

「こちらの姫さまの、大事にされている蝶が逃げてしまったということなのです」

「そうだったのですか。では、僕も一緒に探します」

「まあ、ありがとうございます!」

 やったね!

 喜んでいると、年若なその方は、一人で、なにやら語り出す。

「先ほど、うちの父が、こちらの女房殿にセクハラしたとかで……本当に、こちらの女房殿にはご迷惑をお掛けしました」

 ん? 私、そのセクハラジジイに心当たりがあるなあ。

「源大臣どの……」

「そうなんです、ああ、やっぱり、お邸中に広まっているのですね。もう、なんといって関白殿下に謝れば良いか……」

 頭を抱える勢いの、この男は。もしかしたら、私の、幼なじみかもしれない。

 あのセクハラジジイの息子というなら、まさに、幼なじみのはずだ。

「あの……もしかしたら、ひなたちゃん?」

 おずおずと聞くと、彼は、ピタリ、と動きを止めた。

「僕のことを、そう呼ぶのは、幼なじみの鬼ちゃんだけだ!」

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