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第一章 花の宴の夜は危険!
5.関白登場
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もしかしなくても、私は、人生の中で大ピンチを迎えているのではないだろうか……。
正直、私は焦りました。
帝にお戯れとはいえ抱きしめられているという非常事態に!
まさか、お止め下さいと言うわけにも行かずに困り果てていると、帝が、もう一度私の名をお呼びになる。
「山吹」
もう、意を決して、お答えするしかない。
「はい……」
当然、言葉の端が震えている。仕方がない。
「そなた、この邸でずっと働くのかい?」
「いいえ……、この宴が終わりましたら、実家へ帰ります」
「実家……。そなたの実家は、どこにある?」
ええ、山科に……と言おうとしたときに、私は、マズイ、ととっさに思った。家を知られる、イコール、素性がばれる。流石に、『鬼憑き』とか言われた私が、帝の腕の中に居るのは、マズくないか?
「えーと……その、田舎で……」
「田舎と言っても、摂津とか伊勢とか言うわけではないだろう。どのあたりだろう。宇治などは、良い場所だと聞くけれど、あのあたりかな?」
「いえ、宇治では……」
とっさに応えてしまった自分の正直さが恨めしい。ここで、帝のお言葉に乗っていれば良かったじゃないっ!
「宇治でもない。それでは、そなたはどこに住んでいるのだね?」
もう、本当に勘弁して欲しいと、涙ぐんできたところで、
「主上、ものなれぬ、鄙育ちを、そうからかわれるものではありませんよ」
と助け船が来た。
助かった!
見れば、廊下に、出仕するときに着るような、黒の袍を着た、如何にも殿上人という感じの殿方がいる。
「なんだ、関白。邪魔をするのか?」
帝は、やや、不機嫌に私を解放しながら仰せになった。
帝のお言葉から察するに、あの、殿方は関白殿下らしい。
つまり、この邸の主で、うちの父親が、就職先を斡旋してもらうようにお願いしている、とうの本人だ。
関白殿下は、階から降りて帝のお側においでになった。
たしか、関白殿下と帝は、同い年だったと思うけど、なんというか。二人で立つお姿が、あまりにも麗しくて、なんだか、千年後のお姫様方がご覧になったら、黄色い声で叫びたくなるような雰囲気で。
邪魔をしないように、そーっと立ち去ろうとしたら、関白殿下に腕を捕まれた。
「見ない顔だが……ああ、山科から来た女房だね。……おや、そなた」
バレたと思ったら、関白殿下が腕を引いて私を引き寄せる。
帝に続いて、今度は関白殿下に抱きしめられるという、完全な異常事態!
もう、一体、どーなってるのよっ!
「か、関白殿下……?」
「こんなに愛らしい姫ならば、山科からの女房に、早々と会っておくのだった」
関白殿下の、甘い声が、耳に触れる。私は、もう、鳥肌がたって、立っているのがやっと。
田舎ものだから、殿方に免疫がないのよ! と叫んでやりたい。
「関白。そのものは、余が先に見初めたのだ」
「けれど、私も気になるのですし」
「余が先だ」
「恐れながら、主上。主上は、まだ、女御様のことを忘れられずにおられるのかと。そういう男に見初められても、このものは、不安に思うでしょう」
ぐっ、と帝が唸る。
「ですから、まずは、ここは、私が」
「いや、待て。関白。余も、そろそろ、後宮のことは考えていたのだ。さすがに、東宮一人では、心もとない」
「また、ご無理を」
うん。無理! こればっかりは、関白殿下の言葉に賛成よ!
仮に。私が入内なんてことになったら、実家はしがない受領の家なのだ。財力も、もちろんない。
後ろ楯がない、後宮暮らしなんて、考えただけでも、ぞっとする。
他の人とお后さま方から、イジメられて、小さくなってるしかないじゃない!
あ、でも、いま、ナイスタイミングで、後宮は空だったわ!
さあ、どうなる、私!
正直、私は焦りました。
帝にお戯れとはいえ抱きしめられているという非常事態に!
まさか、お止め下さいと言うわけにも行かずに困り果てていると、帝が、もう一度私の名をお呼びになる。
「山吹」
もう、意を決して、お答えするしかない。
「はい……」
当然、言葉の端が震えている。仕方がない。
「そなた、この邸でずっと働くのかい?」
「いいえ……、この宴が終わりましたら、実家へ帰ります」
「実家……。そなたの実家は、どこにある?」
ええ、山科に……と言おうとしたときに、私は、マズイ、ととっさに思った。家を知られる、イコール、素性がばれる。流石に、『鬼憑き』とか言われた私が、帝の腕の中に居るのは、マズくないか?
「えーと……その、田舎で……」
「田舎と言っても、摂津とか伊勢とか言うわけではないだろう。どのあたりだろう。宇治などは、良い場所だと聞くけれど、あのあたりかな?」
「いえ、宇治では……」
とっさに応えてしまった自分の正直さが恨めしい。ここで、帝のお言葉に乗っていれば良かったじゃないっ!
「宇治でもない。それでは、そなたはどこに住んでいるのだね?」
もう、本当に勘弁して欲しいと、涙ぐんできたところで、
「主上、ものなれぬ、鄙育ちを、そうからかわれるものではありませんよ」
と助け船が来た。
助かった!
見れば、廊下に、出仕するときに着るような、黒の袍を着た、如何にも殿上人という感じの殿方がいる。
「なんだ、関白。邪魔をするのか?」
帝は、やや、不機嫌に私を解放しながら仰せになった。
帝のお言葉から察するに、あの、殿方は関白殿下らしい。
つまり、この邸の主で、うちの父親が、就職先を斡旋してもらうようにお願いしている、とうの本人だ。
関白殿下は、階から降りて帝のお側においでになった。
たしか、関白殿下と帝は、同い年だったと思うけど、なんというか。二人で立つお姿が、あまりにも麗しくて、なんだか、千年後のお姫様方がご覧になったら、黄色い声で叫びたくなるような雰囲気で。
邪魔をしないように、そーっと立ち去ろうとしたら、関白殿下に腕を捕まれた。
「見ない顔だが……ああ、山科から来た女房だね。……おや、そなた」
バレたと思ったら、関白殿下が腕を引いて私を引き寄せる。
帝に続いて、今度は関白殿下に抱きしめられるという、完全な異常事態!
もう、一体、どーなってるのよっ!
「か、関白殿下……?」
「こんなに愛らしい姫ならば、山科からの女房に、早々と会っておくのだった」
関白殿下の、甘い声が、耳に触れる。私は、もう、鳥肌がたって、立っているのがやっと。
田舎ものだから、殿方に免疫がないのよ! と叫んでやりたい。
「関白。そのものは、余が先に見初めたのだ」
「けれど、私も気になるのですし」
「余が先だ」
「恐れながら、主上。主上は、まだ、女御様のことを忘れられずにおられるのかと。そういう男に見初められても、このものは、不安に思うでしょう」
ぐっ、と帝が唸る。
「ですから、まずは、ここは、私が」
「いや、待て。関白。余も、そろそろ、後宮のことは考えていたのだ。さすがに、東宮一人では、心もとない」
「また、ご無理を」
うん。無理! こればっかりは、関白殿下の言葉に賛成よ!
仮に。私が入内なんてことになったら、実家はしがない受領の家なのだ。財力も、もちろんない。
後ろ楯がない、後宮暮らしなんて、考えただけでも、ぞっとする。
他の人とお后さま方から、イジメられて、小さくなってるしかないじゃない!
あ、でも、いま、ナイスタイミングで、後宮は空だったわ!
さあ、どうなる、私!
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